金融庁は3月8日、仮想通貨交換業者7社に対して行政処分を行ったことを発表しました。1月にNEMの流出騒動を起こしたコインチェックをはじめとするみなし業者5社と、3大取引所といわれている「Zaif」を運営するテックビューロ、GMOという大きなバックをもつGMOコインの登録業者2社が処分の対象となりました。この影響も一因となってか、全体的に上昇トレンドとなっていた仮想通貨全体の価格が下落しました。コインチェックがセキュリティの甘さを突かれて不正アクセスを許し、Zaifがシステムエラーでビットコインを0円で販売するなど、大手の仮想通貨登録業者が不祥事を起こし続ける中で、改めて日本全体の仮想通貨業界に対するリテラシーの向上が求められています。

金融庁が行政処分を行った一覧

改めて問われる日本の仮想通貨リテラシー<業務改善命令>
・テックビューロ株式会社(登録業者):Zaif
・GMOコイン株式会社(登録業者):GMOコイン
・コインチェック株式会社(みなし業者):Coincheck
・バイクリメンツ株式会社(みなし業者):Lemuria
・株式会社ミスターエクスチェンジ(みなし業者):Mr,Exchange

システム障害などのトラブルにおいて、再発防止策や顧客説明が不十分など、内部の管理体制の不備に対して指摘を受けての処分が主な理由です。

<1か月の業務停止命令>
・FSHO株式会社(みなし業者):High Speed Exchange/BC Exchange
・ビットステーション株式会社(みなし業者):ビットステーション

FSHOは取引時確認を行っていない(Amazonでいう「ワンクリック注文」のような形で誤って高額の仮想通貨の取引が行われてしまうリスクがある)、高額の売買が行われた際のマネーロンダリングの確認が行われない、職員に対する教育が不十分など、業務改善命令を受けている業者と比較しても、管理体制が特に不十分であることから、業務停止命令が出たようです。

ビットステーションは当該会社の幹部が、顧客から預かった資産を指摘に流用している事実が判明しました。現在は流用した資産は顧客資産として適切に管理されているとのことですが、業者としてのそもそものリテラシー、および、そのような不正利用が出来てしまう管理体制そのものに大きな問題があったと判断されたようです。

乱立する仮想通貨取引業者

処分を受けた業者7社を一覧に並べてみましたが、すべての会社や取引所の名前を知っていたという方はあまりいらっしゃらないのではないかと思います。

現在、金融庁の審査を通過し、登録業者として認可されている業者は16社存在します。まだ認可はおりていないものの、登録の申請を出していた業者は20社弱ありましたが、今回業務停止処分を受けたビットステーションをはじめとする3社が申請を取り下げ、仮想通貨取引業を廃業する見込みです。また、今後LINEやサイバーエージェントなどの有名企業が仮想通貨市場に参入する意向を見せています。現在、証券会社が約260社、FX業者が約60社存在しますが、それらと比較して。その歴史や市場規模、市場に参加している投資家の数から考えると、業者が乱立しているような印象を受けます。

証券やFXにおいても、「主要」と呼ばれるような有名業者はいくつかありますが、仮想通貨業界においては騒動が起きるまではbitFlyer、Zaif、Coincheckが3大勢力であり、少し取引に慣れてきた投資家が、手数料や取り扱っている通貨などを見ながら別の取引所に口座を開設する、といった潮流が見られました。ただ、「別の取引所」は必ずしも国内の業者とは限らず、ある程度取引に慣れていると海外の取引所といった選択を行う方も少なくないようです。

これだけの業者が乱立する、単純明快な理由としては「儲かるから」ということが挙げられます。最大手クラスの取引所で売買される取引高は月間で「兆」という単位での取引が行われています。また、コインチェックがNEMの流出騒動が起きた2日後には約430億円にも相当する金額について自己資金で全額補償する、という方針を打ち出したことも記憶に新しいニュースです。

コインチェックの対応が誠実である、という評価が出来る一方で(その後の対応のスピードについては賛否の別れるところとは思いますが)、こういった方針を早期に打ち出せたことは、仮想通貨取引所がいかに儲かっているか、ということも表しています。それこそ、倫理的な視点を無視すれば別の手段を取りえたかもしれないところ、自己資金で補償を行ってまで仮想通貨取引業の継続の意向を示していることも、この業務の収益性の高さを象徴しているのではないかと思います。多くの取引所が高額のアフィリエイトプログラムを用意し、口座の開設を煽っていることからも、その側面がうかがえます。

追いつかない環境整備

一方で、これだけの業者、それも主要取引所や大手グループをバックに持つ業者が行政処分を受けるなど、環境の整備が十分でないことが今回の一斉調査で明らかになったともいえるでしょう。2017年の仮想通貨市場の成長を受け、参入してくる投資家の数も増大。通貨自体の価格の上昇とも相まって、各取引所の取引金額はかなりの金額になっていたことが想像に難くないですが、多くの業者において、それだけの顧客の資産を扱うだけの人員の整備やシステムの強化などが追い付いていなかったことが今回の処分で浮き彫りになりました。

大手の業者でも、有名タレントを起用したテレビCMや高額のアフィリエイトプログラムを用意するなど、認知向上、口座開設数の増大にかなりの資金や手間をかけています。仮想通貨取引所は、扱っている通貨の種類や、それぞれの手数料など、証券会社やFX会社に比べても一人で多くの取引所のアカウントを開設することが想定される市場ですが、有力な取引所に比べ、ネームバリューに劣り、かつ広告に予算の割けない後発、マイナーな取引所が顧客を獲得するにおいては、マイナーな通貨を取り扱う、手数料の設定を安くする、大手では行っていないような独自のサービスを行う(業務停止となってしまいましたが、ビットステーションのアービトラージポットやBC Exchangeの実店舗の両替所など)といった企業努力を行うことが求められます。

成長していく市場、増大していく新規参入者、それに伴い、林立していく競合他社。そのような環境の中で、顧客の資産を預かるための運用体制の整備がおざなりになっていた中での、コインチェックのNEM流出をはじめとした、大手取引所でのトラブルが起きる中で金融庁が業界そのものにメスを入れた、というのが今回の一連の発端といえるでしょう。

求められる企業のリテラシーと投資家のリテラシー

企業が営利団体として利益を追求するのは当然の行為ですが、そこには真っ当な業務で顧客や社会に価値を提供することが大前提となっています。今回、顧客資産の私的流用という悪質な事案が発覚したのは1社だけですが、分別管理が適切に行われていないなど「グレーゾーン」の事案は複数見られるようです。行政処分を受けたという事実自体は決して軽い内容ではないにせよ、処分を受けていない業者も含め、各社が今回の事態を重く受け止め、適切な管理体制を構築することが望まれます。これだけの業者が処分を受けたことは短期的にはネガティブ材料だったかもしれませんが、長期的に見ると業界全体が健全になっていくプロセスとしてポジティブに考えることもできると思います。一方で、投資家の側も、テレビCMやブランド、セルフバックも含めたアフィリエイト料に左右されずに、適切な業者を自身で調べ、選択していくことが求められます。今後まだまだ成長が見込まれる仮想通貨業界。各プレーヤーがリテラシーを高めていくことが必須となってきます。