仮想通貨RChain(アールチェーン)

アルトコインの「RChain」は現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていません。海外の取引所では日本語に対応している香港のKuCoinのほか、イギリスのHitBTC、管理者が介在しない分散型取引所EtherDeltaなどで取り扱っていますが、日本円から直接交換することはできません。

「FacebookもVisaも超える」という自信

RChain(アールチェーン/単位:RHOC)は2017年3月にアメリカで誕生し、10月から取引が始まった仮想通貨です。発行上限は10億RHOCで、2018年2月の時点で87万RHOCがすでに発行されています。RChainという名前は、独自のプログラミング言語「Rholang」、中心的な機能「RhoVM」の頭文字のRと、ブロックチェーンのChainを組み合わせています。
RChainの本拠地があるアメリカ・ワシントン州のシアトルは、世界を制覇したスターバックス、マイクロソフト、そしてアマゾン・ドットコムの本社がある、アメリカで最も活気がある都市の一つです。そのせいもあるのか、RChainはこんな大ぼら(ビッグマウス)を吹いています。

「RChainは、ブロックチェーンのテクノロジーを産業規模で利用できるように、Facebookの規模でコンテンツ配信を提供し、Visaのスピードでトランザクションをサポートする」
それは将来、SNSの王者Facebookと、クレジットカードの世界的ブランドの「ビサ(Visa)」に規模でも技術力でも肩を並べるようになるぞという「挑戦状」です。生まれてまだ1年そこそこの仮想通貨ですが、そこには早くも大物の風格が漂います。

「ビザ(Visa)」と「マスター(Master)」と「アメックス(AMEX)」は、クレジットカードの世界の三大ブランドです。日本で発行されているクレジットカードの大部分は、それらのどれかのマークがついています。そんなクレジットカード会社は毎日、世界じゅうで発生する買物や取引を高速で処理しています。たとえば消費者がデパートで買物をしてレジでクレジットカードを差し出し、店員がそれをカードリーダーのような装置に通すと、通信回線を通じて、そのカードが盗難にあっていなくて有効かどうか、今回の買物で利用額の上限を超えないか、同じ商品を繰り返し購入するような不正使用の疑いはないかなどのデータがすばやく回答され、問題がなければそのカードで買物の決済が行われます。

そこまでの時間は長くても数秒程度で終わります。そんなことを可能にする大規模なオンライン決済システムを、VisaもMasterもAMEXも30年、40年という長い年月をかけて、何億ドルもの巨額の費用をかけて築いてきました。その中のVisaのトランザクション(処理)能力に、新参の仮想通貨Rchainのシステムが追いつき、追い越すという自信の源は、ヴラド・ザムフィル(Vlad Zamfir)氏がRChainの開発に全面協力していることです。ザムフィル氏は、取引や契約の内容のデータを記録してそれを自動的に実行する「スマートコントラクト」が売り物のアルトコインの雄「イーサリアム(ETH)」の開発で、中心的な役割を果たした人物です。仮想通貨の世界ではその名を知らない人のいないようなカリスマ技術者です。

「Rholang」「RhoVM」で高度な技術に挑戦

Visaは、1秒間に全世界で5万件以上の商取引を処理できるトランザクション処理能力を持っていますが、「Visaに追いつき、追い越す」と公言しているRChainは、仮想通貨でありながらデータの送受信や送金を中心に、Visaと同じレベルかそれ以上の能力を持つプラットフォームを構築することを目指しています。もしそれに成功すれば、一般の消費者がデパートやスーパーや専門店などの商業施設で行っている日常の買物の決済で、仮想通貨がクレジットカードにとって代わる未来が現実味を帯びてきます。「ブロックチェーンのテクノロジーを産業規模で利用」とはそんな実用的な意味で、世界的に大きなビジネスになる可能性があります。

仮想通貨の技術は日進月歩とはいえ、Visaが何億ドルもの費用と30年、40年という年月をかけて築いたものを、RChainはそれよりずっと安いコストで、たった1、2年のうちに築いてしまえるのでしょうか? そのカギを握っているのが、独自のプログラミング言語「Rholang」と、「RhoVM(Rho Virtual Machine/Rho仮想マシン)」の機能です。

「Rholang」は「並行言語」ともいい、RhoVM(Rho Virtual Machine)専用のプログラミング言語です。RhoVM上で動作するスマートコントラクトの記述に特化していて、RhoVMの並行処理、分散プログラミング、高次のプロセス計算に対して最適化されています。プログラミング言語は「道具」ですが、他のどこにもない作品をつくるには、道具への強いこだわりが必要だということです。 仮想マシンこと「RhoVM(Rho Virtual Machine)」の機能は、ブロックチェーン上で必要に応じて、スマートコントラクトに基づく分散アプリケーション(Dapp/用途は情報発信用のSNS、取引のマーケットプレイス、金庫の役割を果たすウォレットなど)を並行処理して迅速に実行できる「独立性」、負荷の増加を抑えながら拡大できる高い「拡張性(スケーラビリティ)」、一度に処理するデータ量が少ないために動作が軽く、他のどんなシステムよりも情報量、高速性、持続可能性などで優れている「パフォーマンス」が、すべて揃っています。そこには「NameSpace(ネームスペース)」のような斬新な技術がとり入れられています。

設計思想で一貫しているのは「分散」することのメリットです。軍隊にたとえれば、500人の部隊1個と50人の部隊10個の、どちらが強いかという話です。向こうから5500人の敵がかたまりでやってきたら、司令官はどう対応しますか? 500人対500人で正面対決するのと、「散開!」「包囲!」と命じて50人の部隊10個で敵の500人を包囲するのと、どちらが有利でしょう? 各部隊がチームワークをとりながらうまく機能するという条件付きですが、500人のかたまりを50人の部隊10個で包囲するほうが勝てる可能性は高いといえます。なぜなら、相手の500人のうち外側にいて直接戦えるのは50人から100人ぐらいで、内側にいるのは待機中の兵士です。

数が少ない分、ほぼ全員が戦える50人が10倍の500人いて、包囲して相手の外側の50~100人を相手にしたら、常に数で優位に立ち、時間をかけて〃料理〃できます。それが分散のメリットで、資源を有効に使えるというわけです。 開発に全面協力しているザムフィル氏がイーサリアムの開発で重要な役割を果たしたこともあり、RChainの技術は「スマートコントラクト」「ERC20トークン」や、PoWに代わる「PoS(Proof of Stake/Casper)」のアルゴリズムなど、イーサリアムの最新のそれを基盤にしています。

開発スタッフもイーサリアムとかけもちする「ザムフィル軍団」のメンバーが何人もいます。それでも仮想通貨やブロックチェーンの既存の技術には決して満足せず、コンピュータ・サイエンスの最新の成果をとり入れて能力の限界に挑戦し、ビットコインやイーサリアムなどとは「世代が違う」と思わせるような独創的で相当高度な理想を追求しています。そんなものでなければVisaの高い壁は超えられません。

ザムフィル氏の「ワンマン・コイン」だが

理想を徹底的に追求している商取引用の仮想通貨RChainは現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていないので、円から直接交換することはできません。日本の取引所でいったん円からビットコインなど別の仮想通貨に交換してから、海外の取引所に持ち込んで改めてRChainに交換することになります。

RChainの円との交換レートは2017年11月頃から上昇が始まり、2ヵ月あまりで交換レートが約9倍になりました。2018年に入ると値動きが落ち着き、現在は200円前後です。仮想通貨の時価総額ランキングでは30位台のポジションにいます RChainは良くも悪くも、カリスマ技術者のヴラド・ザムフィル氏が、イーサリアムではできなかったような自分の理想を徹底的に追求する「とがったプロジェクト」です。

彼のネームバリューに依存する「ワンマン・コイン」と言ってもいいでしょう。「すごい人が関わっているから、きっとすごいコインになる」という前評判で交換レートが上昇しましたが、Visaのシステムを超えることを目指す技術開発の結果は、実用的なものはまだ出ていません。RChainの保有者がそれを商取引に利用できるようにするためのソフトウェア「Mercury」は、2018年の末までにリリースされるとアナウンスされていますが、その改良も必要になると思われるので、商業施設での利用はさらに先になりそうです。

「クレジットカードにとって代わる存在になりうる」と言っても、なんだか宇宙開発の先物買いで月旅行ツアーの予約がにぎわっているような感じもしますが、ザムフィル氏は最近も自信ありげなコメントを出しています。期待するかしないかは、投資家の自由です。