コインチェックが12日、1月24日に不正に出金されたNEM(ネム、通貨単位はXEM)について、日本円での補償を開始しました。出金、売却を停止していた仮想通貨についても順次出金を再開。まだ、全ての通貨について正常稼働したわけではないので、完全な解決ではありませんが、1か月半にも及ぶ騒動は「最悪の事態」を免れ、収束に向かっているようです。
ここで、一連の騒動の中でポイントになっている項目について、論点を纏めてみました。騒動で心配事や釈然としない点があった方は是非ともご参考にしてみてください。
3/12現在の対応およびサービス
補償状況
流出したNEMについて1XEM=88.549円にてコインチェックのアカウントの日本円に反映
サービス再開状況
ビットコインの出金、イーサリアム(ETH)、イーサリアムクラシック(ETC)、リップル(XRP)、ライトコイン(LTC)、ビットコインキャッシュ(BCH)の売却、および出金の再開
なお、再開が発表されるまでに行われた送金の申請は全てキャンセルされており、改めて行う必要があります。
騒動における2017年度の納税義務に関して
2017年より、仮想通貨の利益確定は「雑所得」として申告の義務が出てきました。2017年、仮想通貨のとてつもない値上がりの恩恵を受け、多額の利益確定を行った場合は、その金額に応じた課税がなされることになります。尚、日本円での出金を行わなくても、他の通貨を買うために一度でも日本円に換えた場合や、買い物など、現金の代わりに使った時点で「利益確定」とされます。
2017年の所得税の支払い期限は、事前に振替などの支払方法を指定していない場合は3/15と目前に迫っています。出金を再開したといっても、相当な要請があることが予測されますので、まだ一安心できない、という方もいらっしゃるかもしれません。
なお、国税庁からの公式な見解として、本騒動に巻き込まれたことによる支払い義務の免除や、期間の猶予は行わないとされています。
日本円での補償は「利益確定」になるのか
XEMは2018年初には200円台という値上がりを記録した通貨ですが、2017年初には1円にも満たない値段でした。1円未満、数十円といった段階でXEMを購入し、コインチェックのウォレットから不正に盗み出されたXEMが日本円で返ってきた場合、日本円ベースで換算すると利益が上がったケースも多々考えられます。補償された日本円が利益確定とみなされたら、場合によってはとてつもない金額の利益確定、同時に来年の所得税の支払いの義務が生じてしまうことになります。
本当は「ガチホ」(長期的に保有すること)したかったにも関わらず、約88円という、最高値から比べると高くもない金額での『強制利確』が不本意だという方も少なくないかもしれません。
結論から言うとこの補償を課税対象とするか否かに関してはコインチェックと国税庁にて現在も議論が行われており、不確定です。今回のケースを「賠償」と考えると、戻ってきた日本円については「利益確定」ではないという法解釈もあり得えます。
ただ、こういった形が課税対象外という結論となった場合、極端な話、「不正出金事件のねつ造(自作自演)」→日本円で補償、という課税逃れのルートができてしまうことになりますし、仮想通貨への課税に前向きになっている国税庁がこの金額の「利確」を見逃すことは考えにくいのではないでしょうか、というのが筆者の見解です。
いずれにせよ、はっきりとしたことがわからないうちは課税対象と考えた上で資産管理を行った方が得策と言えます。
1XEM=88.549円という補償レート、「日本円での返金」の妥当性
今回の補償内容について、「何もないよりマシだ」と納得される方がいる一方で、釈然としない方も少なくないかもしれません。1つは補償の方法そのものについて、もう1つはレートについてです。上記『強制利確』が起きない手段として、「盗まれたXEMは日本円ではなくXEMで返却することはできないのか」という主張がしえます。
ただし、この主張は市場への影響を考えると現実的ではないでしょう。今回流出したのは、5億2630万10XEM。当然、流出したのでコインチェックの手元にはありません。これを被害者に直接返還するとなると、コインチェックが 5億2630万10XEMを市場に対して買いを入れることになります。この買いだけでもXEMの値上がりが起きることが想像に難くなく、また、それを好材料と見た投機的な買いも入り、市場が暴騰、暴落することも想定されます。そういった不健全な市場の形成を避けるためにも、日本円での返還は致し方ない側面があります。また、この 1XEM=88.549円について、算出の根拠は下記となっています。
算出方法 : NEMの取扱高が国内外含め最も多いテックビューロ株式会社の運営する仮想通貨取引所ZaifのXEM/JPY (NEM/JPY)を参考にし、出来高の加重平均を使って価格を算出いたします。算出期間は、CoincheckにおけるNEMの売買停止時から本リリース時までの加重平均の価格で、JPYにて返金いたします。
算出期間 : 売買停止時(2018/01/26 12:09 日本時間)〜本リリース配信時(2018/01/27 23:00 日本時間)
騒動が検知されるまでのXEMの価格は120円台を推移しており、騒動自体がXEMの価格を下げたにも関わらず、リリースまでの加重平均での補償というのは不当だ、というのが主張しえます。事実、流出した際の金額が約580億、対して当該レートでコインチェックが補償する金額は約466億円なので、「期限の利益」を不当に受け取ったという解釈も的外れではないでしょう。
しかし、この点についてはコインチェックが「妥当と判断している」との見解を示しており、これを不当と主張する場合は法的手段に出る必要がありそうです。
資産凍結に対しての損害賠償
騒動が大きくなっていたもう一つの要因として、不正出金されたNEM以外の通貨について、売却や出金が停止されていたことが挙げられます。問題が検知されてから現時点まで、多くの通貨がこの騒動や、それ以外の様々な要因から相当な下落を見せています。この間、不当に売買を停止されたことに関する機会損失について賠償を求める声もあります。
途中で売却することができれば、もう少し高い評価額で利益確定できた、もしくはここまでの含み損を抱えることはなかった、という主張です。コインチェックは「送金の安全性の確認」のためにサービスを停止したと主張していますが、これに対し、「本来自由にすべき顧客資産を不当に凍結した」と反論する形になります。
もしくは資産が凍結されたがために税金の支払い期限の延長などを申し出ている方がいた場合は、そこに発生する利息についても請求対象として主張するのかもしれません。しかし、こちらについてもコインチェックは補償の対象外という見解をしめしており、機会損失に対する損害賠償や慰謝料を請求するためには法的手段にて請求を行うことが求められます。
評価額にして仮想通貨市場最大の金額となる流出事件。2017年の大成長が続くかとも思わせた年初の暴騰に急ブレーキをかけた騒動も、まだ完全には終わっていませんが、ようやく何とか落着の方向に動いています。不謹慎かもしれませんが、この一件で仮想通貨に様々な形で関わっている各プレーヤーが学ぶべきところも非常に大きかったのではないかと思います。とりわけ、コインチェックが反省すべき点は大きなところではありますが、まだまだ始まったばかりの仮想通貨市場、過ちと反省を繰り返しながら成熟していく過渡期とみることも出来ます。勿論、返金額や補償方法、その間顧客の資産を凍結したことに納得がいかなければ、訴訟という手段に出るのも一つではありますが、仮想通貨は何が起きるかわからない市場であることを今一度認識した上で、通貨や取引所での分散、仮想通貨とそれ以外の資産への分散など、参加者各自がリテラシーを高めていくことが求められます。