アルトコインの「Status」は現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていません。海外の取引所では日本語に対応している香港のKuCoin、中国のHuobi、チェコのChangellyのほか、日本人の投資家の利用も多い香港のBinance、イギリスのHitBTC、アメリカのBittrex、ウクライナのLiquiなどで取り扱っていますが、日本円から直接交換することはできません。
スマホで分散アプリを利用させるという使命
Status(ステータス/単位:SNT)は2017 年6月に誕生した仮想通貨です。発行上限は68億487万174SNTですが、2018年2月時点で1,000万SNTあまりしか発行されていません。ステータスという言葉は社会的地位とか身分という意味以外に、「状態」という意味もあります。たとえばマイクロソフトのOS「Windows」やスマホの画面には「ステータス・バー」という部分がありますが、それはパソコンやWindowsやスマホの現在の状態を示しています。仮想通貨のStatusという名前はその「状態」のほうの意味です。
Statusは、代表的なアルトコインのイーサリアム(ETH)と密接な関係がある「イーサリアム・ファミリー」の一員です。Statusのアルゴリズムや主な特徴はイーサリアムのそれとほぼ同じです。その使命は「スマホでもイーサリアムのアプリが利用できるようなモバイルOS環境をつくる」です。
スマホのOSといえばアップルのiPhone用の「iOS」とそれ以外用の「Android(アンドロイド)」があり、「インスタグラム」や「LINE」などスマホアプリのメジャーどころの大部分は両方のOSに対応しています。そこへ、イーサリアムでつくられたスマホアプリ、それを動かせる専用モバイルOSという「第三勢力」を割って入らせて存在感を示そうというのが、Statusが抱く野望です。
イーサリアムでつくられるアプリとは、どんなものなのでしょうか? 仮想通貨の基本システムの「ブロックチェーン」上で、イーサリアムの最大の特徴と言える取引や契約の内容のデータを記録してそれを自動的に実行する「スマートコントラクト」の機能を利用し、アプリがつくられます。そのアプリのことを「分散アプリケーション(分散アプリ/Dapp)」と呼びます。アプリの種類にはさまざまなものがあります。
そんな分散アプリをスマホで動かすには、「iOS」や「Android」だけでは動かせません。専用のモバイルOSを用意しなければなりません。そこでStatusを保有してスマホに付属の専用モバイルOSをインストールすることで、さまざまな分散アプリがスマホの上で動く状態(ステータス/Status)に変わります。
しかし、もしもスマホのOSがそっくり入れ替わってしまったら、それまでさんざん使ってきたiOS用やAndroid用のアプリが、メールアプリもLINEもインスタグラムもフェイスブックもツイッターも音楽配信アプリもゲームアプリも、みんな動かなくなってしまい、おそろしく不便になって困ります。だから形の上では「iOS」や「Android」で動くアプリの一種としてStatusで専用モバイルOSをインストールすることになります。そうやってスマホの中でiOSやAndroidと共存させないと、分散アプリを普及させることはできないからです。
ですからStatusを保有して専用モバイルOSをインストールする際、「これからスマホで分散アプリしか使えなくなる」と心配する必要はありません。インストールしても「iOS」や「Android」で動くアプリは、そのまま使えます。Status付属の専用モバイルOSを立ち上げれば、分散アプリ(Dapp)が使えるようになります。
分散アプリ(Dapp)にはこんなものがある
では、その分散アプリ(Dapp)とはいったいどんなもので、他のアプリとはどこがどう違い、どんな長所があるのでしょうか?
イーサリアムのブロックチェーンの上で、スマートコントラクトの機能を活かしてつくられる分散アプリは「オープンソース分散型プラットフォーム」から生まれます。そのため、中央の管理者がいません。代表的なスマホアプリはみな中央で企業が管理していて、たとえばフェイスブックは、アマゾン・ドットコム、映像配信のネットフリックス、グーグル(アルファベット)とともに「FANG」と並び称される大手企業です。
ところが分散アプリはそんな中央集権型ではなく「非中央管理」と言って、参加者がお金をカンパしあって自主的に運営する「コミュニティ(自治組織)」のような形をとっています。野球にたとえれば、フェイスブックはマーク・ザッカーバーグ〃監督〃が作戦を立てて細かいサインを出して選手を動かして勝利を目指すメジャーリーグのチームで、分散アプリは監督などいなくても、メンバーは勝ち負けにこだわらずに野球を楽しめればそれでいい草野球チームのようなものです。誰かケガするなど問題が起きたら、ポジションを交代させるなど全員で解決を図ります。
中央集権型と非中央管理は、組織のあり方としてはそれぞれ一長一短があり、人によってどちらがいいか意見が分かれます。ただ、営利を目的とする企業が管理すると倒産やサービス停止のリスクがつきまといます。たとえば「『ビッグブラザー』に1対1のメッセージのやりとりまで見られるのはイヤだ」という人は、メッセージを暗号化できる非中央管理のほうがいいでしょう。「ビッグブラザー」というのは、ジョージ・オーウェル作『1984』というSF小説に登場する全国民の行動を監視できる最高権力者のことです。
とは言っても、スマホを使う人は分散アプリで仮想通貨のイーサリアムが重要な役割を果たしていることや、中央集権型と分散型の構造の違いや「ビッグブラザー」など知らなくても、他のスマホアプリと同様に、分散アプリを簡単な操作で使うことができます。それこそフェイスブックのような身近な存在になることを目指しています。
Stetus自体は、次のようなさまざまな機能を持つ予定です。メッセンジャーアプリにもなれば、ブラウザにも、検索ツールにも、仮想通貨のウォレットにもなります。
・Webのブラウジング(閲覧)
・チャット、メッセージの送受信
・イーサリアム、ERC20トークンの保管、取引
・ネットワーク内のユーザーの検索
・分散アプリの検索、ダウンロード
分散アプリのほうはすでに公開されていて、ダウンロードして利用することができます。たとえばこんなアプリがあります。
・Ujo-音楽配信サービス
・Ethlance-企業と技術者の採用マッチング
・Etheric-保険選び
・Gnosis-金融マーケットの市場予測
・uPort-個人情報の認証
・Aragon-企業の組織マネジメント支援
他にもユーザーのプライベートな利用、ビジネスでの利用、企業経営者向け、広告主向けなど、いろいろなアプリがあります。
イスラエルで開発されスイスのSirin Labsが発売し、約11万円で予約を受け付けている「Finney」というスマホは世界初の「ブロックチェーン・スマホ」で、FCバルセロナのメッシ選手がイメージキャラクターになっていることでも話題ですが、Statusもそれにしっかりプリインストールされています。
Statusがあれば何でもできるのが最終目標だが
Statusは現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていないので、円から直接交換はできません。日本の取引所でいったん円からビットコインなど別の仮想通貨に交換してから、海外の取引所に持ち込んで、あらためてStatusに交換することになります。
2017年6月、StatusのICO(仮想通貨の新規発行を伴う資金調達)は、日本円で約100億円もの資金を一気に調達して華々しいデビューを飾りました。円との交換レートは、当初の半年あまりは数円程度で値動きの変化は乏しかったのですが、2017年12月下旬頃からにわかに急騰し1SNT=60円を超えました。しかし2018年1月以降は20円を割り込むまで値を下げています。まだ発行上限の0.15%程度しか発行されていないのも、上値を抑えかねない要素です。
Statusは現状、いろいろな意味で、未完成、発展途上です。目指すゴールは、イーサリアムのブロックチェーン、スマートコントラクト、Statusそれ自体の機能、分散アプリのそれぞれの機能などを全て統合して、Status保有者による保有者のためのコミュニティをつくることです。言い換えればそれは、保有者の日常生活でもビジネスでも何でもかんでもStatusが関わって、逆に保有者自身もStatusの意思決定に関わって、全てがそれで完結するような「Statusワールド」です。「スマホが1台あれば何でもできる」と言われることがありますが、「Statusがあれば何でもできる」ようになることが最終目標です。
しかし、Statusはスタートして1年も経過しておらず、プロジェクトはまだまだ遠い道のりです。iOS版、Android版とも「テスト段階」で機能の制約があります。「スマホとは目のつけどころがいい」と未来のビジョンを見るか、現実を見るかで、評価は分かれます。