昨年末、仮想通貨の時価総額ランキングに大きな変動がありました。それはビットコイン(BTC)以下の順位が、イーサリアム(ETH)からリップル(XRP)へと変わったことです。不動と思われた2位の座をリップルに奪われたのですから、イーサリアムの開発陣、コミュニティにとっては相当ショッキングな出来事だったでしょう。

リップルがランキング2位に浮上するのは時間の問題だった?

Internet-of-Value(価値のインターネット)を実現するリップルリップル(XRP)の時価総額が急激に上がったのは、一部の企業(シリコンバレーの企業と思われる)によるまとまった額の買いが入ったことが大きいとも言われています。一昨年にSBIホールディングスがリップル社と提携し、SBI Ripple Asia株式会社を立ち上げましたが、2017年10月には同社が「Beyond Blockchainテクニカルプログラム」を発足。FinTech事業が本格始動したことで、改めてASEAN諸国にリップル熱が広まったことが大きいとも言われています。他にもリップルの高騰の要因は色々言われていますが、結局のところそれらがタイミングよく重なり、リップルが仮想通貨元年に相応しい2017年の年末というタイミングでアルトコインで1位となったのは、ある意味想定されたことかもしれません。

考えてみれば、リップルはビットコインよりも早い時期(2004年)に、国際送金システムが抱える問題に着目し、カナダのウェブ開発者ライアン・フッガー(Ryan Fugger)氏によって開発が進められています。のちにビットコイン(2008年論文発表)の技術をリップルにも応用しますが、仮想通貨の技術を最初に開発したのはリップルのほうでした。リップルやビットコインは、初めての人が理解するにはどちらも同じくらい複雑です。ただしゼロから全く新しい送金システムを組むリップルの方が、より難解で骨が折れます。

ライアン・フッガー氏はクリス・ラーセン(Chris Larsen)氏にリップルの開発をバトンタッチし、最終的に2013年9月「OpenCoin Inc.」「Ripple Labs Inc.」に社名を改め、リップルネットワークをほぼ完成させます。ビットコインに遅れること4年。その間もリップルはネットワークの開発に心血を注ぎました。

リップルネットワークや送金システムは、ビットコインはもちろん、どのアルトコインにもなく、仮想通貨と言うよりFinTechベンチャーが構築した全く新しいシステムです。また、情報通信技術に変化に伴い決済のリアルタイム化、小額決済等の振り込みニーズが多様化する時代に合った、世界中の人が待ち望むものとも言えるもの。リップルがランキングで2位に浮上するのは時間の問題だったと言えましょう。

リップルが描く国際送金とは?

リップル(XRP)はビットコインなどの仮想通貨とは違った側面があります。それはリップルが通貨間のブリッジ通貨として機能するということです。ここで言うブリッジ通貨とは、円やドルといった法定通貨だけにとどまらず、BTCやETHといった仮想通貨にも「橋渡し役」として機能します。これはリップルの「Internet-of-Value(価値のインターネット)」の実現を目指すものであり、リップルが開発当初より国際送金に優れたネットワークを目標に設計していることと関係しています。

国際送金の機能は他の仮想通貨でも備わっており、またその容易さ(承認時間やコストなど)は仮想通貨自体の特徴でもあります。でもリップル以外の仮想通貨は、通貨間のブリッジ通貨としては機能しません。つまりリップルで言うところの「Internet-of-Value(価値のインターネット)」は備わっていないことになります。リップルではウォレットの資金が一時的にリップルレートによりXRP通貨に変わり、受け取り先の通貨に両替して引き渡せます。日本から日本円をアメリカにドルで送金した場合でも、両替をせずに円がドルになって受け渡し側に着金します。国際送金をこのレベルで行える仮想通貨はこれまでありません。また仮にあったとしても、同様のシステムを動かすプロトコルを構築するのに膨大な時間、それと辛抱強い努力が不可欠です。

誰よりも早く国際送金の矛盾点に着目したリップルが、ビットコインより4年遅れて自らのシステムの公開に漕ぎ着けたのは、やはりそれなりの意味がありました。

なお実際の運用にはリップルネットワーク(XRP Ledger)内でIOUと呼ばれる借用証書をゲートウェイを通じて発行しますが、この仕組みにはカウンターパーティリスクも存在します。このためリップルは世界中の有力な銀行と手を結ぼうとしており、いま次々とリップルとの提携に名を挙げる銀行が後を引きません。なぜなら近い将来、かならずリップルの描く国際送金がメジャーな方法になることを、彼ら自身が密かに理解しているからと言えるでしょう。

あらゆる台帳を繋ぐILP(インターレジャープロトコル)とは

年末を騒がせたリップルランキング急浮上の理由は?ILP(インターレジャープロトコル)はW3Cで規格の標準化を進めている、リップル社が提唱したプロトコルです。従来の国際送金は、たとえ一方向の送金であっても複数の銀行を経由します。そのため着金までに時間も掛かり、当然ながら手数料の高さにも目をつぶらねばなりません。こうした国際送金の問題を解決するのがリップルネットワーク(XRP Ledger)のILP(インターレジャープロトコル)と呼ばれる規格です。ILPは複数の銀行の取引台帳に接続することで、国際送金では不可避と考えられていた異なる決済ネットワークでの資産のやり取りを可能にします。ILPにより送金時に掛かるコストや時間の問題が解決します。

また国際送金だけなら、世界各国の銀行をILPが接続する対象と見れば良いだけです。しかしILPの最終目標はイーサリアムやビットコインなどの仮想通貨、決済機能としてのクレジットカードやデビットカード、ペイパルやインターネット決済サービスなども同時に繋ぎます。昨年もビットコインがILPに対応し、リップル初のビットコインプラグインを公開しました。これでブロックチェーンのBTCトランザクションを、異なる決済ネットワーク上に送信できます。

こうしたリップル社の取り組みに、銀行側も良好な反応を見せています。IT企業が金融業界に参入することも珍しくなくなったいま、銀行側も古い考えに固執してばかりもいられません。それに気づいている銀行は、たとえ仮想通貨であっても、ILPのシステムやリップルの考え方を受け入れています。

ただよく言われることですが、リップルの考え方(あるいはネットワークそのもの)には賛同しても、XRP(リップルが発行する仮想通貨)は買わないという声があることです。確かにリップルは、他の仮想通貨にくらべるとトークンそのものよりネットワークに魅力を感じます。しかしリップルも、ネットワークが支持されることでXRPは自然に手にすると期待していますし、リップルの知名度の上昇に伴い実際にそうなっています。それにしても、これまでの仮想通貨と全く違う通貨が出てきたものです。

リップルが採用する認証システム「Proof of Consensus」とは

ここまでで、リップルは素晴らしい送金システムを持っていることはある程度伝わったと思いますが、リップルにはビットコインのようなマイナーはいないのと疑問を持つ方もいるでしょう。じつはリップルには採掘によって報酬を得たりすることはありません。つまりビットコインのようなProof of workという認証システムがリップルには存在しません。

その代わりリップルにはProof of Consensusがあります。リップルネットワークにおける取引の承認は、ビットコインのように不特定多数のマイナーが行うのではなく、リップルが不正を行わないと認めた承認者を選んで行われます。なお現在のところリップルの承認者は、ほとんどがリップル社ということです。これが非中央集権的だとリップルはしばしば非難されます。おまけにProof of Consensusには承認者に支払う報酬がありません。

ただ、リップルが今後多くの人から必要なものと認められると、将来的には作業を引き受ける人が出てくるとリップルは考えています(現在も承認作業の一部をマイクロソフト社が行っています)。そうすればやがて承認者からリップルのメンバーは消え、本当の非中央集権的世界が訪れるでしょう。

何もProof of workだけが非中央集権的世界ではありません。承認に選ばれるマイナーは、現実的には電力が安い国で高性能なコンピューターを揃えられる財力を有する会社(人)に限られます。最近ではマイナーの発言力も問題視さることが多く、開発者にとってはそれが深刻な悩みとなっていることは周知のことです。そのため、どちらが優れている認証システムか、安易には言えなくなっているでしょう。

2018年は一層の飛躍が期待できるリップル

昨年の5月、リップルは550億XRPをロックアップすると発表し、12月にはこれを実施しています。通貨に関しては全供給量の55%をリップルが保有し、市場に流通するXRPを調整しますので、一層の好循環をもたらすとリップルは読んでいるようです。

そしてこれに続いて、国内の37の金融機関(三井住友銀行やりそな銀行を含む)がリップルの技術を活用し、昨年暮れから韓国大手銀行と実験的送金を開始した模様。特に日本の銀行はリップルとの関係構築に非常に前向きで、SBI Ripple Asiaが主宰する「内外為替一元化コンソーシアム」など、リップルとの連携を強く意識しています。また別の意味でリップルは、仮想通貨らしくない仮想通貨だと思われる面がありますが、ビットコインに失速に伴って、これまでリップルをあまりよく思わない方も、リップルがやろうとしていることをそろそろ理解しているようです。

これまでの歴史を見ても、リップルの急成長は決してバブルなどではないでしょう。2018年、リップルは更なる飛躍を遂げそうです。