投機目的のバブルが収まりつつあるとともに、仮想通貨関連技術の重要性、そして実社会での運用事例が増えてきました。今回ご紹介するものそういった事例の一つ。もともとの技術体系から、中央集権的なしっかりした政治経済の機構が存在している先進国よりも技術運用が適しているとされていた、発展途上国でそれは行われました。

アフリカにある、一時は世界最貧国にも選ばれたシエラレオネ共和国でなんと、大統領選挙のAgoraというブロックチェーン技術を使った、システムが採用されたのです。今回はシエラレオネでの大統領選の背景やAgoraについて簡単に説明していきたいと思います。

アフリカシエラレオネで行われた大統領選挙でブロックチェーン技術が採用

ブロックチェーンを利用した投票システム「Agora」とは2018年3月8日にアフリカ東部、シエラレオネで2002年の内戦終結から4度目となる大統領選挙が行われ、投票では16人の候補者の一人であるAll Peoples Congress (APC)が擁立したSamura Kamara氏が、50%以上の票を集めました。ただシエラレオネの投票システム上、一人の候補者が投票者数の55%以上を得るまで投票は続きます。結果が出るまで今後も投票は続くようです。

選挙の監査に使われたのが、スイスのスタートアップ企業であるAgoraが開発したブロックチェーンを運用したシステム。投票のすべての部分をこのシステムが担ったわけではなく、投票自体は従来通り、投票所で行われ、その一部、投票の集計結果や投票されたデータの管理にAgoraのシステムが利用されました。AgoraのCEOである、Leo Gammar氏によれば、システムの運用に成功。問題なく集計結果を集めることができたようです。

シエラレオネでブロックチェーン技術が採用された要因

今回の背景にあるのがシエラレオネの抱える発展途上国ならではの事情です。まだ依然として社会体制、政治体制が整っていない発展途上国では紙の投票だと人為的なミスや、不正が行われる可能性が高いのです。最近の事例ではコロンビアで行われた大統領選挙で、有権者数の数倍にあたる投票がされたことが話題になりました。管理委員会を買収することも容易でこうした問題が起こりやすいのです。

また、こうした問題以外にも投票結果に対して、暴力的な抗議活動が依然として行われているという事実があります。公式の発表によれば、今回のシエラレオネ大統領選でも一部投票所で暴力的な抗議活動が行われ、軍が排除に追われるという一幕があったようです。日本など政治的に安定した国では考えづらいことですが、シエラレオネのような発展途上国では紙の投票結果を集計特定の場所で集計を行うという中央集権的な従来の選挙運営方式では、こうした問題が起こったときに、容易に選挙結果が覆ってしまう可能性があるのです。

シエラレオネでは2002年の内戦からあまり日がたっておらず、しかも2014年にはエボラ出血熱、2017年には首都フリータウンでの大規模な地滑りなど、大きな災害にも見舞われお世辞にも、国の体制が整っているといえる状況ではありません。そのため、暴動が起きがちです。こうした問題を解決するためには一刻も早く民主的な選挙が正しい形で行われ、代表が選ばれることが必要でしたが、それは困難だったのです。

こうした背景があったため、シエラレオネの選挙管理委員会であるNEC(National Electoral Comission)は早くから分散して管理を行うため、暴力的な妨害を受けにくいし、ブロックチェーン技術を利用しているので、透明性が高く、かつミスも起こりづらい。分散して管理運用を行うことができるブロックチェーン技術に着目していました。こうした理由から試験的な運用に踏み切ったようです。

ブロックチェーン技術を使った投票方式が求められている理由

シエラレオネ大統領選で試験運用されたシステムシエラレオネでの試験的な運用はかなり差し迫った問題があったため、行われたものですがこうした発展途上国以外でも、従来型の選挙が抱える問題を解決するため、ブロックチェン技術を利用した、選挙システムに期待をする声もあるのです。従来型の紙を利用した選挙システムには、人為的なミスや、予算の問題が存在しています。人を使い、管理から集計までを行っているため、ミスをゼロにすることはできません。

毎回の選挙には一定の少なくない人員が必要です。その人件費もばかにならないのです。人件費やミスを防ぐために、機械化を進める声もありますが、今のところ投票場に機械を設置する予算を考えると、人で補った方がいいというのが実情です。そうした中で、パソコンで特別な機械を利用する必要もなく、かつ上記の問題を解決する可ネット上でできるブロックチェーン技術を使った方式は人件費を安く済ませることができ、かつネット環境があれば特別な機械は必要がないなど従来の投票システムが抱える解決することができるため、にわかに注目を集めています。

単純に投票だけでなく、投票システムを使った顧客管理、あるいは店舗の人気調査といった利用方法もできるなど汎用性が高く、様々なICOがブロックチェーン技術を利用した投票システムを発表しており、投資資材としても注目が集まっています。

オンライン投票として使われたシステムAgoraとは

スイスに拠点を置く、スタートアップ企業が開発しているブロックチェーン技術です。主に、国家レベルや企業レベルといった大規模での公的な投票に使われることを想定したシステムになっています。チームは現在5人で構成されています。CEOのLeo Gammar氏をはじめ4人がプログラマーという構成。中にはMitでコンピューターサイエンスの博士号を取得したBRYAN FORD氏も含まれ少数精鋭といった印象を受けます。

人数は少なく現時点で企業からのサポートは受けていないものの、これまでに21人のノーベル賞受賞者Swiss Federal Institute of Technology(スイス連邦工科大学)と協力関係にあります。まだ、今回のシエラレオネ大統領選挙にシステムが利用されたということ以外、情報は少ないです。運用しているtwitterのフォロワーも現在2桁台。今後の動向に注目していくべき、仮想通貨関連スタートアップの一つと言えます。

Agoraの今後の課題

まずAgoraが抱える直近の課題は来る再投票でも技術の運用を成功させられるかどうかでしょう。再投票に向けて、国民の投票数も増加することができています。増えた投票数でもシステムがうまく機能するのかが試されるわけです。また、今回はあくまでも試験段階。数か所ある投票所の一つでAgoraのシステムが運用されたにすぎません。しかも外国から招へいされた専門の技術者がシステムの運用にあたっています。

ダイヤモンド、金など豊富な資源を抱えるシエラレオネも現在の財政状況では考えれば実際の運用段階では海外の人材の雇うことは難しいでしょう。現地でのどのように技術運用を行うのかという課題を解決する必要があります。また、シエラレオネでの事例が成功したとしても、例えば先進諸外国でどのようにシステムを運用していくのか、また現在曲がりなりにも正しく運用されている紙の投票システムを変えるに足りる利点を提示できるかなど課題は残っています。

今後は投機資材としてではなく、Agoraのシエラレオネでの事例のように、仮想通貨の基盤となるブロックチェーン技術は現実世界での利用が増えていきます。現実世界での重要度、存在感は増してくるでしょう。単純に投機資材としてチャートに一喜一憂するだけでなく、各スタートアップ、企業が打ち出すプランが将来的にどのような利点をもたらすのか長い目で見ていく必要があるでしょう。