一時はバブルと称されるほどの過熱を見せた仮想通貨市場ですが、現在は熱が一気に冷め低迷しています。その厳しい状況に追い風をかけるかの如く、3月19日から20日にアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで『G20』が開催されました。G20とは、世界的な経済と安定を図るための国際会議です。そして今回の会合で、世界で初めて『仮想通貨に関する内容』が議題に上がりました。

今回はG20で仮想通貨が議題として扱われるようになった背景と、実際にどのような議論がされたのか、そして同会合が仮想通貨市場へ及ぼした影響をまとめます。

なぜG20で仮想通貨が議題へと上がったのか

G20で仮想通貨規制を採択過去にG20で議論された内容は『テロ対策』や『地球温暖化対策』など、世界規模で問題となっていることでした。では、なぜ今回仮想通貨が議題として上ったのでしょうか?その背景を説明していきます。

事の発端はG20開催の約1か月前、2月9日にまで遡ります。フランス・ドイツの政府関係者たちがアルゼンチンの金融大臣に、ある手紙を送りました。その政府関係者とは、フランスの経済・財務大臣であるBruno Le Maire(ブリュノ・ル・メール)氏と中央銀行総裁のFrançois Villeroy de Galhau(フランソワ・ビルロワドガロー)氏、ドイツの官房長官Peter Altmaier(ペーター・アルトマイヤー)氏、連邦銀行総裁のJens Weidmann(イェンス・ヴァイトマン)氏の計4人です。

手紙の目的としては「3月のG20で仮想通貨に関することを話し合いましょう」という提案です。その理由として、文中で「私たちはトークンとそれに関する新技術がもたらす新しい可能性を信じている。しかしながら、適切な法的処置が定められていなければトークンは投資家に対して大きなリスクを及ぼす可能性があり、金融犯罪に対して脆弱になる。トークンと金融分野に革命を及ぼす技術は、悪用しようと企む人々に残すべきではない」と述べています。つまり、「彼らは仮想通貨やそれに付随するテクノロジーが今後金融分野に革命を及ぼす可能性を信じているが、今のままだと悪用されるリスクも高いからしっかりと話し合いましょう」ということです。

この手紙が送られた時期は、仮想通貨市場が最も熱を帯びていた時期と重なります。仮想通貨が世界的に異様なまでのも盛り上がりを見せた故に、危惧をしての行動だったのでしょう。結果的にこの提案が受け入れられ、G20で仮想通貨に関して話し合いがされることが決定しました。

G20開催による市場への影響

G20で仮想通貨に関する話し合いの決定が、市場にどのような影響を与えたかを見ていきます。今回仮想通貨に関して初めて世界的な話し合いがされるわけですが、仮想通貨関係者の間では同会議はマイナス材料と捉えられていました。

当初予定されていた議題は『犯罪資金調達やマネーロンダリングの対策』、『仮想通貨取引所に対する規制』、『仮想通貨利用者の保護』です。このうち仮想通貨取引所に対する規制というのが主にマイナスイメージを与え、仮想通貨市場は大幅に下落をしていました。

また今回のG20には金融安定理事(FSB)を率いているイングランドの銀行の総裁であるMark Carney(マーク・カーニー)氏が出席します。彼は今まで仮想通貨の信頼性に対して疑問を投げかけており、ビットコインに関してもはっきりと反対の姿勢を掲げてきました。マーク・カーニー氏主導で会議が進められるという点からも、仮想通貨市場へ厳しい影響を与えています。

2018年に入ってから徐々に仮想通貨価格の下降が続いていますが、2月の暴落は特に目を引きました。ビットコインは1時60万円を割るなど、注目を集めました。もちろん、この暴落はG20だけではなく、デザー問題やコインチェックの流出など、様々な要因が重なってのことだと考えられております。しかしながら、初めて国際的な場で仮想通貨の規制がされるというG20の影響が関係していることは明らかです。

G20、気になる結果と市場への影響

G20までの背景と今後の仮想通貨市場への影響3月19日.20日とG20が開催されましたが、実際にはどのような話し合いがされ、どのような規制がされる結論に至ったのでしょうか?結論から述べてしまうと、今回のG20で仮想通貨に関して新たに規制がされるということはありませんでした。

なぜなら、仮想通貨の市場規模は株式や為替などに比べてまだまだ規模が小さく、金融市場を脅かす存在ではないから、と考えられたからです。また、仮想通貨は『通貨』としての特性を欠いているとして同会合では『暗号資産』と呼ばれていました。マネーロンダリングなどの犯罪に利用される懸念点はあるものの、まだ市場規模が小さいことから今後は既存の規制が適用されるということです。

世界各国における仮想通貨規制事情

G20に先立って、世界中の様々な国で仮想通貨の規制がされています。現時点で主要国がどのような規制をしているのか紹介していきます。

日本
日本は他国に先駆けて仮想通貨に関する法整備をいち早く整えるなど、『仮想通貨先進国』とも呼ばれています。他国に比べると取引量も多くなっています。そうした点から見ると、日本は仮想通貨に関してある程度の規制はあるものの寛容的だといえるでしょう。しかし、最近起こったコインチェックでのXem流出事件を受け、金融庁は規制にも力を入れ始めています。

アメリカ
アメリカも日本と同じく仮想通貨に対して規制はしているものの、寛容的な国です。一部地域ではビットコインで決済可能な店舗が多いなど、日常的にも浸透している様子です。
しかしICOや金融商品に組み込むことに関しては厳しい状況です。また、アメリカは州ごとに規制のレベルが違うのも特徴となっています。

韓国
お隣韓国も、日本同様に仮想通貨の取引量が多い国家です。しかし厳しく規制もされています。韓国は取引高が高いため市場への影響も大きく及ぼしています。今年1月には韓国国内にある取引所を全て閉鎖するというニュースが流れ、価格の暴落につながりました。現在では閉鎖はせずに適正な形での法整備を進める方向に転換していますが、外国人投資家の入金拒否など依然として厳しい態勢を取っています。

中国
マイニング大国の中国ですが、国を挙げての厳しい規制を行っています。昨年9月にはICOと取引所の禁止、外国の仮想通貨取引所へのアクセスを遮断など、監視の目が光っています。

EU(欧州連合)
今回G20で仮想通貨に関する議題が扱われるようになったのも、フランス・ドイツの要人による提案がきっかけです。トークンなど仮想通貨に関する技術の将来性に期待はしているものの、不安視もしています。特にマネーロンダリングや投機としてのリスクを懸念しており、規制の準備をしています。

仮想通貨を規制しつつも技術の発展を狙う国や、全面的に禁止するなど国によって様々なルールが適用されています。現状の規制をそのまま継続するといっても、各国それぞれの規制状況がバラバラにあるのが現状です。

市場への影響と今後の動向

今回のG20の結果は、仮想通貨市場にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。G20での結果が報道されてからはビットコインが一時100万円台に到達するなど、それまで低迷していた仮想通貨全体の価格が反発しました。同会合の開催前までは、仮想通貨に対する新たな規制やルールが敢行され、さらに事業者や利用者に対して厳しい状況が続くと予想されていたため、安心からの反発ということでしょう。

結局今回のG20では既存の規制を適用し、新たな具体策は練られませんでした。しかしG20の報告書では今年7月に改めてブエノスアイレスで会合を開くことが発表されています。それまでに各国で統一した規制案を準備し、精査した上で世界共通の規制が決定されるということでしょう。

事業者や投資家などの利用者を含める全ての仮想通貨関係者は、今回のG20開催を不安視していました。しかし蓋を開けてみると新たな規制やルールが作られるということはありませんでした。仮想通貨は通貨としての特性を欠いており、仮想通貨市場は金融市場に影響を脅かす存在ではないとのことです。今回の結果に関しては拍子抜けと言ってもいいでしょう。

不安視から一転、価格が反発するなど好材料と感じている方も多いのではないでしょうか。しかし、あまりに楽観的に考えるのも危険です。規制をしないということは、裏を返せば現時点では仮想通貨は話し合う価値すらないということです。今後仮想通貨の技術が発展するには世界共通の規制を決め、マネーロンダリングなどの犯罪は撲滅しなければなりません。7月に再び会合が開かれるとのことですので、それまでの各国の動向も要チェックです。