2018年になって米国証券取引員会(SEC)の仮想通貨関連業者への取り締まりが強化されつつあります。そうした影響もあってビットコインなどの仮想通貨価格については上値が抑えられ若干の下落傾向が続く相場となっています。今回はこうした規制が実は将来的に仮想通貨の安定取引を実現し、新たな投資を呼び込む可能性があるということをまとめてご紹介します。
SECの仮想通貨に対する規制の動き
最近のニュースからSECに関するものをいくつかピックアップしてみましょう。
◯Circle(サークル)社が仮想通貨取引所Poloniex(ポロニエックス)を買収。(2月27日)
買収に先立ち、サークル社はSECに対して説明を行い承認を得ています。現在、仮想通貨取引所はSECの管理下にある訳ではないので、報告も承認も義務ではありませんが一応「筋を通した」ということでしょう。
◯SECが不正なICOの取り締まりを実施。関係者に対して召喚状を送付。(3月1日)
◯SECが仮想通貨関連企業80社を召喚(3月5日)
◯仮想通貨を証券とみなし、取引所も「証券取引所」として登録を義務付ける方針を発表。(3月8日)
このあたりのニュースが「規制を強化か?」と報道されたため仮想通貨価格の下落に結びついているようです。
◯シカゴオプション取引所(CBOE)がSECに対し仮想通貨に干渉しないように求める。(3月27日)
仮想通貨は非集権的なプラットフォームで利用されこともあり、国家の干渉には馴染まないとされています。この要請はその思想に基づいたものです。実際これまで規制の対象となっていなかったことも多種多様の仮想通貨が生み出された理由の一つです。CBOEは仮想通貨を重要な商品の一つと考えていますので、強力な規制によって投資意欲が減衰することを懸念しています。
一定の規制により健全な取引市場が形成される
こうしたニュースを見ると、まるで仮想通貨の普及を懸念し阻害しているように思えるかもしれませんね。しかし、それぞれのニュースをよく読んでみるとわかる通り「SECが仮想通貨の市場を抑制しようとしている」とはどこにも書いてありませんし、実際に事実とは異なります。「証券とみなす」という記述からもわかる通り、正体不明の無価値なデジタルデータではなく、一定の価値のある財産として正式に認めた、というのが正しい認識です。
現在アメリカで、仮想通貨についてはSECやCFTC(米国商品先物取引委員会)、財務省、FRB、各州の関係機関などがバラバラに管理をしている状態です。今後、SECが一定のルール作りを主導し、管理・監視を行うことで健全な取引市場が形成され、一般の投資家も安心して投資対象として選択できるようになるでしょう。その意味で「規制」=「阻害」という認識は短絡的です。
ビットコインの未来に賭けたウィンクルボス兄弟
仮想通貨関連のニュースでウィンクルボス兄弟の名前を見かけることが多くなってきました。世界最大のSNSであるfacebookと創業者のザッカーバーグについて描いた映画「ソーシャルネットワーク」にも登場したウィンクルボス兄弟は、早くからビットコインへの投資をしていたことでも有名です。現在は仮想通貨長者の世界番付4位にランクインし、個人資産は10億ドル前後と推定されています。
兄弟は仮想通貨取引所であるGemini Trust Companyを運営しており、コインベースと並ぶアメリカでも最大規模の取引量となっています。2017年にはビットコインの先物取引上場でも重要な役割を果たしました。シカゴオプション取引所(CBOE)はGeminiと提携し、マーケットデータをデリバティブ取引やインデックス作成のために提供しています。現在はシカゴ・カーマンタイル取引所(CME)でもビットコイン先物が上場し、活発に取引されています。
国内仮想通貨取引所でも先物を取り扱っているところはあります。しかし、CBOEやCMEなどの歴史と実績のある取引所に上場されるのは、こうした仮想通貨取引所とは異なる特別な意味があります。言い方は悪いかもしれませんが、これまで仮想通貨は金融当局にとって「正体不明の電子データ」にしかすぎませんでした。だからこそ法の規制を受けない「野放し」状態だった訳です。取引に参加するのもキャズム理論で言うところのイノベーターで、ごく一部の人しか関わりのないものでした。
それが金融当局の管理・監督の元、多くの金融商品の取り扱い実績がある”正規の”取引所へ上場したのですから、もはや「正体不明の電子データ」ではないことが認められたということです。セキュリティの面でも一般の仮想通貨取引所とは段違いの堅牢さです。国内でも金融庁が仮想通貨交換業者に行政処分を実施したばかりですが、その内容を見ると「内部監査体制の不備」「システム障害が頻発し、再発防止対策が不十分」など、基本的なことさえ整備されてない状況が明らかとなりました。
中には「顧客の預かり資産の私的流用」を指摘され業務停止処分になった取引所もありました。月間の取り扱い高が数百億円に達するような取引所であっても、このレベルというのが実態であったと認めざるを得ません。2013年に破綻したマウントゴックスは、元はトレーディング・カードのオンライン取引所だったぐらいですから、多額の金融商品を取り扱うことを前提として設立された正規の取引所とは比べるべくもないですね。国内事業者については金融庁の監督のもと、今後は信頼できる取引所として利用ができるようになるはずです。
ウィンクルボス兄弟の描くビットコインの未来
ビットコイン先物を正規の取引所に上場させることで、金融商品の一つとして仮想通貨が正式に認められました。非常に画期的なことであり、仮想通貨の歴史を振り返る時には間違いなくエポックメイキングな出来事として取り上げられるはずです。ウィンクルボス兄弟の次の狙いは仮想通貨ETFを上場させることです。2013年から繰り返しSECへの申請をしていますが、未だ許可が出ないため実現していません。
仮想通貨ETFのナスダックなどへの上場が実現したらどのような影響があるのでしょうか。もちろん、一般の投資家が投資先として選択しやすくなりますので、これまでよりも多くの資金が流入するのは間違いないでしょう。しかし、重要なのは一般の個人投資家ではありません。多額の資金を運用している機関投資家が最も重要なターゲットです。
こうした機関投資家の場合、顧客の年金資金などを預かって運用しています。顧客の大事な資金ですので、投資対象には一定の信頼性が必要です。例えば取引先の倒産などの「カウンターパーティリスク」を回避する義務が課されます。仮想通貨専門の取引所の場合はこの基準を満たしていないため、機関投資家はどんなにリターンが見込めると考えても、これまでは仮想通貨を投資対象とすることができませんでした。
仮想通貨ETFがナスダックなどの信頼できる市場で取引ができるようになれば、こうした機関投資家が参入してくることが期待できます。仮想通貨インデックス連動型ETFという種類のものであれば、ビットコインやイーサリアムなどの有名銘柄は必ず組み込まれます。総量に制限のあるビットコインの場合、多額の資金が流入すればするほど現時点以上の価格上昇が見込めます。ウィンクルボス兄弟の狙いはこうした機関投資家の大量の資金です。世界の金融市場を左右する機関投資家という本格的なプレイヤーの登場で、金融商品としての仮想通貨が一段と面白くなってくるはずです。
ビットコインは金に変わる価値を持つようになる
ウィンクルボス兄弟は「将来的にビットコインの時価総額は金全体の時価総額に匹敵するようになる」と発言しています。金の時価総額は7兆ドルということですから、これが本当になればビットコインの価格は現在の数十倍以上に上昇することになります。ほんの数年前までは無価値だった電子データが、昨年末には一時2万ドルを超える価格で取引されました。数年後に100万ドルになる可能性を誰も否定できません。
つい先日もウィンクルボス兄弟は仮想通貨の自主規制団体を設立すると発表しています。CFTC(米国商品先物取引委員会)の委員はこの発表に対し歓迎する旨のコメントを出しました。一定の基準とルールを設定し、一般投資家が安心して資金を投入できる環境整備することで、イノベーターやアーリーアダプターだけが参加していた先行市場から、マジョリティーをターゲットにしたメインストリーム市場への転換が間近に来ています。規制強化のニュースでやや下落傾向が続く仮想通貨ですが、将来の大ジャンプに備えて力を溜めている時かもしれません。