1月のフェイスブック、3月のグーグルに続き、Twitterにおいても広告掲載禁止という措置がなされることになりました。今回は、この業界騒然のニュースについて現在までの流れと仮想通貨市場への影響などを整理し、今後の展開について考察をしてまいります。
フェイスブック・グーグルに続きTwitterも広告禁止を決定
去る3月26日、全世界に約3億3000万ユーザーを持つSNSサイトTwitterが、先だって仮想通貨広告の掲載禁止を発表していたフェイスブックやグーグルに倣い、「コミュニティーの保護」を目的に、新規仮想通貨公開(ICO)やトークン販売、さらに仮想通貨取引所自体の広告掲載を禁止する、新しい規制を追加すると発表しました。
禁止並びに既存広告の削除作業は、翌27日から段階的に進行中で、同社広報のコメントによると、1ヶ月以内に全ての広告主に適応されることになりました。なお、フェイスブックは既に1月の発表時点から禁止をはじめ、グーグルは3月14日の発表で、6月から広告掲載を一切認めないことを明らかにしています。
もちろん、今回新たに広告掲載禁止を明言したTwitterと、先行したフェイスブック、グーグルのいずれにしても禁止しているのは広告であり、仮想通貨に関する投稿を全面的に禁止しているわけではありません。しかし、「正規の広告」で集客をしていた仮想通貨関連業者や、取引所運営業者に加え、仮想通貨広告でアフィリエイト収入を得ているユーザーからは、非常に強い反発が上がっています。
相次ぐ広告掲載禁止措置発表にマーケットも敏感に反応
今回、3大SNSメディアが発表した広告禁止は、スパムや誇大広告などから消費者を保護するための措置ではあるものの、BTCをはじめとする誕生したばかりの仮想通貨に与えるダメージは、計り知れないものがあります。特に、知名度においてBTCに遠く及ばないアルトコインコミュニティーにとってみれば死活問題になりかねず、一連の発表以降、全ての仮想通貨においてその取引が停滞し、値下がりに歯止めがかからない傾向を続けています。
事実、Twitterが広告掲載禁止を発表した直後から、トレーダーの中に市場への落胆と悲壮感が広がり、徐々に日を追うごとに値を下げ、29日ビットコインでは昨年11月の大暴落時に迫る、1BTC/7,500USドルの水準まで下押し圧力がかかり、主要なアルトコインであるイーサリアムも、それに追随する形で月次損失が約50%に拡大する、1ETH/410USドルにまで下落しました。
この、仮想通貨各銘柄の低空飛行状態は、Twitterが広告禁止を完了する1ヶ月後並びに、グーグルが禁止ポリシーを実装する、6月辺りまでは続くという見方が大勢を占めています。その結果、コインチェック事件がようやく終焉に向かっている中、仮想通貨の時価総額がなかなか回復しない、大きなマイナス材料になってしまっています。
米国商品先物取引委員会による「詐欺行為」への警告への反応か
このような、相次ぐSNSネットワークによる仮想通貨広告禁止の流れが出た原因に、米商品先物取引委員会(CFTC)が2月15日、ソーシャルメディアが悪用され曖昧な情報を記載した広告を大量に流布し価格を吊り上げ売り抜く、「ポンプ・アンド・ダンプ」と呼ばれる手法の温床になっているという警告を、2月15日全世界の投資家に向けて発表したことが挙げられます。
CFTCは続いて、日本の金融庁を含む国内外の金融当局と連携を密にし、仮想通貨に関連した詐欺行為に対抗することを明言しました。この2つの発表を受けて、各SNSメディアがこぞってそれに反応し仮想通貨広告の全面禁止に踏み切った、という考えを示す専門家が多く見られます。つまり、各SNSメディアは「仮想通貨広告による自身の発展」と、「ユーザー保護による信頼性のアップ」を天秤にかけ、後者を優先する方がメリットが大きいと判断したわけです。
一部では広告禁止処置に対する訴訟問題にまで発展
一方、仮想通貨コミュニティーや投資家の中からは依然強い反発の声が上がっており、中でもロシアの投資家であるウラジミール・オレオフ(Vladimir Orehov)氏は、同国のグーグル代理店を相手取り、20億ルーブル(約37億円)の損害賠償請求を起こしています。同氏は訴訟理由として、仮想通貨の広告を表示しないようにするという決定は、ビジネスチャンスを逃してお金を失うと主張しており、彼の考えに賛同した投資家や仮想通貨スタートアップ企業の中には、新たに訴えを起こす動きが広がりを見せつつあります。
確かに、仮想通貨市場は不確定な要素が多いうえにギャンブル性も高く、FXや株式などに比べスパム広告や誇大広告による被害拡大が、強く懸念されています。とはいえ、善悪の見極めもなくすべての広告を禁止する措置は行き過ぎで、ビジネス拡大や資金調達を容易にする仮想通貨本来の利点や持ち味を、大きく阻害する措置であるとの指摘もあります。
また、そもそもSNSに掲載されているものも含めネット広告とは、世の中にあふれる様々な商品・サービスを、世界中に不特定多数存在するユーザーに向けて発信するものであり、ユーザーが自由意思と自己責任によって、取捨択一できるのが利点です。それを活用してビジネスを成功させた企業はごまんと存在するうえ、今回仮想通貨広告掲載の禁止措置をしたTwitter、フェイスブック、グーグルはその最たる企業です。
仮想通貨という、1ジャンルに特化して広告掲載を禁ずる措置は、資本主義経済の根本からみて著しく公平性に欠け、仮想通貨広告を全面的に禁止するならば、いっそすべての広告を停止すべきだという、非常に極端な持論を展開するものも現れてきています。
SNS媒体による広告掲載禁止が果たして詐欺・犯罪行為の抑止力となりえるのか
最後に根本的な問題ですが、今回の3大SNSメディアの相次ぐ仮想通貨広告掲載禁止によって、関連する詐欺・犯罪行為がすべて抑えられるのか、というポイントについて述べると、残念ながらその答えは「否」と言わざるを得ません。確かに、スパムや誇大広告をSNSから排除するこの措置によって、一般消費者をだましてお金をせしめる「地道な」詐欺行為は、一定期間抑制されるかもしれません。しかし、先のコインチェック盗難事件もそうですが、これまで発生した大規模な詐欺・犯罪行為は、大きな決済料とユーザーボリュームを持つ、取引所や仮想通貨コミュニティ内部で起きています。
「緩和と規制」は、仮想通貨ビジネスだけでなく、全ての商取引において必要なものですが、極端すぎると良くも悪くも経済に混乱が発生するうえ、副作用が大きく出てしまう可能性があります。例えば、1996年から2001年にかけて断行された大規模規制緩和である、「金融ビックバン」がその顕著な例で、金融市場のグローバル化が目的でしたが、銀行や証券会社の倒産など巻き起こった現場の混乱のわりに不発に終わった、と評価されています。今回の仮想通貨広告禁止という「規制強化」も、そんな極端な例に属していると考えられますが、一般的に詐欺・犯罪行為を押さえつけるための規制が強化されると、より地下深くに潜り手口は巧妙に、被害額も天文学的になってしまう恐れがあります
また、前述した通り各SNSは広告は禁じる方針であるものの、関連する投稿をすべて止めるわけはありません。ですから、広告掲載禁止後に「仮想通貨」と検索した場合、次々に関連するコンテンツが表示され、正しい情報を伝えているコンテンツに紛れた、怪しいコンテンツが今後増加していく可能性があります。つまり、今回の仮想通貨広告掲載禁止が、小手先の措置にならないためには、各SNSメディアによる普遍的なパトロールと、抜本的な構造改革策が必要なのです。
今回のように、「トカゲのしっぽ切り」的に仮想通貨広告を禁止することが、詐欺被害をどれほど食い止める効果を生むのか、現時点では全くもって未知数な状態で、仮想通貨市場の健全な成長と、それに伴う未来の経済発展に影を落とすだけの「愚策」に終わらないことを、切に願う限りです。