先日発生したコインチェックへのハッキングによるXEM流出問題は、被害者全員に対する円による返金によって、一応の終息へと向かっています。しかし、この事件の余波は仮想通貨市場全体におよび、海外にも飛び火して、仮想通貨銘柄・コミュニティーに対してというよりも、それを取り扱っている取引所への監視体制がどんどん強まっています。今回は、後を絶たない仮想通貨取引所の不祥事に起因した、監視体制強化の現状を整理するとともに、今後の展開について徹底予想をしていきます。

金融庁による仮想通貨取引所への監視強化

XEM流出事件にはじまる仮想通貨取引所への監視体制の強化1月下旬に起きた、XEM大量流出事件を重く受け止めた金融庁は3月8日、コインチェックに二度目となる業務改善命令を出すとともに、「みなし」で仮想通貨取引をしている5社、さらにGMOコイン・Zaifといった登録業者2社を含む、計7社に対しても業務改善命令を出しました。このうち、みなし仮想通貨取引業者であるビットステーションとFSHOに対しては、国内取引所としては初となる、1ヶ月の業務停止命令を伴う厳しいものとなりました。

金融庁が、これまで比較的緩やかであった手綱を締める一番の要因となったのは、確かにコインチェック事件ではありますが、ビットステーションでは、筆頭株主によるBTCの私的流用が明るみに出たこと、FSHOでは義務化されている仮想通貨の高額取引届け出や、職員の適切な研修がなされていなかったことが、それぞれへの処分を重くする原因となりました。

こういった金融庁の態度硬化による仮想通貨市場への影響はすさまじく、業務改善・停止命令を受けたビットステーション含め、これまで5社が金融庁への登録申請を取り下げ、事実上仮想通貨市場から撤退する意向を29日までに示す事態となっており、こういった企業の仮想通貨市場撤退の流れは、今後も相次いでいくものとみられます。

日米両国監視強化の余波か?ビットコイン・アルトコインの下落

仮想通貨市場全体を揺るがした、前項の行政処分が下されるまさに数時間前、アメリカの証券取引委員会(SEC)は、仮想通貨及びICOトークンがSECの主張する「証券」に該当するという理由から、自発的にSECへ登録をするように、仮想通貨プラットフォーム管理者に対して異例の通達を出しました。併せて、仮にSEC登録されてない取引業者を消費者が使い、盗難や詐欺などのトラブルに巻き込まれた際、SECは救いの手を差し伸べない意向を暗に示しました。

この、日米足並みのそろった監視体制の強化がすべてではないにしろ、BTCを筆頭に他のアルトコインも3月8日早朝を境に下落をはじめ、現在までその傾向は続いています。例えばBTCの場合、金融庁による行政処分前夜「120万円/1BTC」ほどであった価格が、執筆時点である3月30日現在では「71~72万円/1BTC」と、わずか3週間ほどで40%もの下落幅を示しています。

ブラックマネーのロンダリングやさらなる犯罪の誘発が懸念材料に挙げられている

G20後の現在の状況と今後の展開を徹底予想ここまで日米両国が仮想通貨、特に取引所に対する監視を強めている背景には、セキュリティ体制の整っていない取引所が、マネーロンダリングやテロ資金確保の温床になりかねないという判断がなされているからです。事実、580億円相当流出してしまったXEMは、運営財団は自動追跡プログラムを開発・行使して行方を追ったものの見つからず、財団は3月18日に犯人追跡打ち切りを発表しました。また報道によると、既に9割を超えるXEMが第三者を介して他の仮想通貨や、現物紙幣などに換金されている模様です。

コインチェックの、ずさんな管理体制によって失われたXEMは、ハッキングという犯罪行為で盗難された、まさにブラックマネーですが、現状を判断すればそのロンダリングを許してしまっているということです。つまり、何らかの新たな犯罪に利用される恐れや、テロ支援国家の手に渡るリスクもゼロではないわけです。

3月19・20日のG20で初めて取りざたされた仮想通貨監視強化問題

こういった流れの中、注目のG20財務相・中央銀行会議が3月19,20日開催され、その中で各国首脳陣は混迷する仮想通貨取引について、「監視を強化する必要がある」としながらも、規制については推移を見守り当面実施しない方針を発表しました。国際的な金融案件について、各国財政当局のトップが集い話し合うG20という最高意思決定会議において、初めて仮想通貨対策について「規制は早い」と、一歩踏み込んだ判断が示されたという安堵感が市場に広がり、一時仮想通貨はどの銘柄も軒並み値上がり傾向を見せました。

しかし、先程も触れたとおりそれは長続きしませんでした。これはかつてから仮想通貨への規制強化に積極的なヨーロッパ諸国と、今や仮想通貨大国ともいわれ始めている日本やアメリカ両国との見解の相違が浮き彫りになったからです。特にフランスはドイツと共に、G20に一般市民への投資勧誘の禁止など特別の措置をとるよう提案し、参加者4分の3からの賛同を得たと、同国ブリュノ・ルメール経済・財務相が語るなど、仮想通貨に対する強い規制が必要であるという考えを示しています。

仮想通貨取引所への監視強化はマイナス材料でしかないのか

ここまで示したように、国内外での仮想通貨取引所の監視体制は強化の一途をたどり、それを受けて各仮想通貨は値下げを続けていますが、大きな損益を出した投資者はともかく一般ユーザーにとってみれば、必ずしもマイナス材料であるとは言い難いところです。なぜならば、今回監視が強められているのは仮想通貨自身ではなく、犯罪やマネーロンダリングに標的となっている各取引所に対してものであり、日本の金融庁や米国SECの介入によって、脆弱な取引業者が淘汰されることで、マーケット全体の健全性が上昇していくからです。

分かりやすく言えば、倉庫にカギをかけておらず商品が盗まれ放題の状況であったり、冷蔵設備が整っておらず商品が腐ってしまったりしている青果卸売業者が、市場から締め出されている最中なのが現在の仮想通貨市場であり、「市場の成熟」というゴールに向かう上で、いたって当たり前の過程を踏んでいるにすぎないのです。つまり、本来市場が持つべき自浄作用が仮想通貨にはまだ備わっていない状況であるというのが、経済評論家などの中では支配的です。

ただし問題は、市場が成熟期を迎える前に爆発的にその時価総額が膨らんでしまったため、犯罪や詐欺による不正・不祥事が乱発してしまっていることで、その歯止めをかけるために日米両財政当局は監視体制を揃って強化しているのです。そして監視強化が功を奏してマーケットが安定し、併せて仮想通貨自身のプラットフォームや、ブロックチェーンなどのセキュリティに対するアップデートが進めば、仮想通貨は国際的に信頼性・利便性の高い優秀な決済ツールとして、その普及が進んでいく可能性があります。

また、投資材料として仮想通貨を見ても、誰の監視も受けずに仮想通貨業者が「みなし」で運営を続けるより、株式証券取引所などが遵守しているのと同じような監視・ルールの元で、仮想通貨を取引できる方が、投資材料として安心であるに決まっています。結果として、多くの投資家が仮想通貨を投資材料として再評価し、今よりも大きな取引規模になる可能性もあります。つまり、コインチェック事件を発端とした金融庁の行政処分は、裏を返すとこれまで棚上げされていた取引所の問題点を浮き彫りとし、安全性への対応・対策を金融庁及び、各業者が真摯に取り組んでいくための、良いキッカケになったのではと考えています。