仮想通貨に関する所得の計算方法等について(FAQ)で認められた2種類の計算方法
仮想通貨の確定申告を巡っては、国税庁が2017年内にタックスアンサー及びFAQを公表しています。タックスアンサーの段階では仮想通貨の使用による所得は雑所得に該当する点だけ明らかになっていますが、12月に公表されたFAQhttps://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/171127/01.pdf
では確定申告にあたっての注意点が一通り掲載されました。
この中で、計算方法について詳細な理解が必要な部分は、購入単価(取得価格)の計算です。例えば1ビットコイン(以下、単位としてのビットコインはBTCと表記)10万円で購入しただけを再び円に換えるのであれば、購入単価は1BTC=10万円とすればよいだけです。
しかしここに1BTC=100万円で購入したものも含まれると、購入単価の計算が必要になります。小売店の利益(売上高―仕入原価)を計算する際の仕入原価も、様々な仕入れ値のものが混じりますので、同様の計算が必要です。この購入単価の計算方法が、仮想通貨に関する所得の計算方法FAQで明らかになっております。
原則は移動平均法 株の購入単価計算でも同様の計算
原則的な購入単価の計算方法は、移動平均法であるというのが国税庁の見解です。移動平均法とは、円換金(もしくは仮想通貨による物品購入などの利益確定)時の平均的な購入単価を、円換金時の収入に対する必要経費とするものです。例えば、下記の年月日にビットコインを取得したとします。
2018年1月15日:0.01BTC(1BTC=130万円)
2月5日:0.15BTC(1BTC=90万円)
この後、2月15日に1BTC100万円で0.08BTCを換金した場合、所得計算はどのようになるでしょうか?収入金額は100万円×0.08BTC=8万円、必要経費は92.5万円×0.08BTC=7.4万円で、差し引き0.6万円が仮想通貨の所得となり、雑所得に算入されます。購入単価の92.5万円という数字は、(130万円×0.01BTC+90万円×0.15BTC)/(0.01BTC+0.15BTC)で計算されます。この後、2018年内にビットコインの取得が無ければ、必要経費計算を行う上での購入単価は92.5万円のままです。
ただ、この後3月15日に1BTC=90万円で0.24BTCを取得した場合、購入単価はどう変わるのでしょうか?2月15日に0.08BTCを手放した時点での購入単価は92.5万円ですが、その後ビットコインを手放す上での購入単価は変わってきます。購入単価の計算は、(92.5万円×0.08BTC+90万円×0.24BTC)/(0.08BTC+0.24BTC)=90.625万円となります。
3月15日時点で手持ちの92.5万円×0.08BTC分と、取得した90万円×0.24BTC分を平均します。一旦平均して購入単価を計算してから、再度平均して購入単価を計算し直す(移動して平均)ことから、移動平均法と呼ばれます。4月5日に0.08BTC(1BTC=73万円)を手放した場合、収入金額は73万円×0.08BTC=5.84万円、経費は90.625万円×0.08BTC=7.25万円で、差し引き△1.41万円が所得額となります。
2月15日に換金したことによる所得0.6万円と通算すると、△0.81万円が所得です。原則的にはこの移動平均法を用いて購入単価を計算しますが、株式取引の特定口座においても同様の方法で購入単価が計算され、特定口座年間取引報告書に収入金額(売却額)と購入金額が記載されます。株式では厳密には総平均法(この方法の説明は後述)に準ずる方法で購入単価を計算しますが、実際の計算上は移動平均法と同様です。
小売業の原則的な購入単価計算方法はこの方法ではないのですが、税務署への届出により移動平均法を選択することも可能です。なお翌年に持ち越す手持ちの仮想通貨は、90.625万円×0.24BTC=21.75万円と計算します。
総平均法でもOKだが継続適用が求められる
移動平均法に代えて、総平均法を選択することも可能です。この方法による購入単価の計算は、移動平均法のように都度できるものではなく、1年間(1月1日~12月31日)を終えてみないとできません。よってこまめに計算したい方にとっては、この方法を選択するのは向いていません。2018年の年間取引が移動平均法の例と同様に、
(取得)
2018年1月15日:0.01BTC(1BTC=130万円)
2月5日:0.15BTC(1BTC=90万円)
3月15日:0.24BTC(1BTC=90万円)
(円換金)
2018年2月15日:0.08BTC(1BTC=100万円)
4月5日:0.08BTC(1BTC=73万円)
となっていた場合、総平均法による購入単価は、(130万円×0.01BTC+90万円×0.15BTC+90万円×0.24BTC)/(0.01BTC+0.15BTC+0.24BTC)=91万円となります。2月15日・4月5日の取引では両方とも、経費計算上の購入単価はこの単価であり、移動平均法のように日によって異なるわけではありません。年間の収入金額は100万円×0.08BTC+73万円×0.08BTC=13.84万円、必要経費額は91万円×(0.08BTC+0.08BTC)=14.56万円、差し引きの所得金額は△0.72万円になります。
移動平均法による例と比較すると、損失の額が小さくなっていますが、翌年に持ち越すビットコインは91万円×0.24BTC=21.84万円と大きくなります。仮想通貨の値動きや購入数量・売却数量により、どちらの方法が有利になる(所得が小さくなる)かが変わります。ただ例えば2018年に仮想通貨の取引を始めて、総平均法を選択した場合は、2019年以降も総平均法で購入単価を計算することになります(移動平均法を選択した場合も同様)。
よって、取引をした初年度の所得の大小で選択するというより、移動平均法のようにこまめに計算できる方がいいか、総平均法のように最後にまとめて計算できる方がいいかで選択したほうが良いです。なお移動平均法と総平均法のどちらをとるかについて、小売業の仕入原価計算方法のように届出が必要になるわけではありません。
仮想通貨流出など損害が出る場合にも購入額を計算する
2018年に入り、コインチェック社の取り扱っていた仮想通貨NEMの不正流出事件が起きました。3月にはコインチェック社により約460億円の補償が被害者に行われ、その後コインチェック社もマネックスグループ傘下になるなど動きがありましたが、このような流出損害と補償があった場合にどう確定申告していくかも問題です。約460億円の補償額はコインチェック社なりの算定基準に基づいて計算されておりますが(当初は約580億円とされていましたが、仮想通貨のレート下落等の影響で低下)、確定申告を行うにあたっての損害額算定に当たっては、上記のいずれの計算方法を選択するかにも影響されます。
もっとも損害を申告するとなれば、所得税・住民税負担を軽減する方向に働きます。その申告方法については、仮想通貨の取引による所得が雑所得に該当することが2017年になって国税庁から明らかにされたのと同様に、国税庁の見解を待つことになります。お金の盗難損失があった場合、雑損控除という所得から差し引かれる控除が利用できます。これは、仮想通貨の流出にも該当するように見えます。
しかし雑損控除を使うにあたっては、盗難の対象が日常生活に必要な資産という条件があります。仮想通貨がこの条件に当てはまるとは言い切れない点があり、ここでも国税庁が見解を示す必要があります。もしこのような条件に当てはまらない場合は、もう1つの見解としては仮想通貨投資により雑所得のような継続的な利益を生む考え方もありますので、この場合は雑所得における必要経費(仮想通貨という資産の損失)になります。
ただいずれにしても、流出した仮想通貨が取得した段階でいくらの購入金額になるかを算定できなければ、申告のしようがありません。税金負担につながる利益の申告だけでなく、このような税負担軽減につながる損害の申告においても、購入単価の計算を理解しておく必要があります。なお実際の補償金額が、移動平均法または総平均法により算定された購入単価を上回る場合は、上回った差額は雑所得として申告することになり、所得税・住民税課税の対象となる点には気をつけてください。