Facebookの仮想通貨関連の広告禁止から始まる「ウェブ上における仮想通貨の広告減少」
会員数約20億人の世界最大のSNSであるFacebookが、1月30日に突如、「仮想通貨関連の広告」を禁止すると発表しました。
Facebookが規約で禁止した広告コンテンツは、「仮想通貨(暗号通貨)・バイナリーオプション・ICO」です。約20億人というFacebookの会員数の多さを考えると、仮想通貨市場に参加する新規個人投資家数が減少しやすくなるビッグニュースだったのですが、その前の1月26日に「コインチェックのNEM大量流出事件」が発生していたため、相対的にFacebookの広告禁止のインパクトは小さくなりました。
コインチェック事件ですでに仮想通貨市場が大暴落していたからですが、それでもビットコイン価格に「約10%超の下落」を一時的にもたらす影響がありました。
Facebookが広告を禁止した「ICO(Initial Coin Offering:新規仮想通貨公開)」というのは、簡単に言えば「新しい仮想通貨」を発行して資金を集める行為です。株式市場における「IPO(Initial Public Offering:新規株式公開)」に当たる仮想通貨市場での資金調達手段が「ICO」ですが、ICOは実際の企業活動・収益(証券取引所の株式上場条件)が証明されているIPOよりも格段にハイリスクなものになります。
最悪1円も戻ってこないのがICOで、ICOの中には初めからまっとうなプロジェクト事業をするつもりがなく、トークン(仮想通貨)発行でお金だけを集めようとしている詐欺的なものも含まれます。Facebookなどの大手IT企業は、仮想通貨・ICO関連の広告に「虚偽・誇大・詐欺の広告」が含まれている可能性を恐れているのです。
Facebookに続いてGoogle、Twitterも仮想通貨+ICOの広告を禁止すると通告
Facebookに続き、Googleが6月から仮想通貨関連のすべての広告を禁止するという相当に厳しい「仮想通貨・ICO関連の広告禁止ポリシー」を打ち出しました。Googleが6月から広告掲載をしないとする広告コンテンツは「ICO・仮想通貨交換所(取引所)・仮想通貨ウォレット・仮想通貨取引のアドバイスなどを含むがこれらに限定されない」です。
この通達内容を見ると、仮想通貨とICOに関連する広告はほぼすべて広告を出稿できなくなることになりそうです。Googleは2017年の1年間で約32億件にも上る「悪質広告」を削除したと報告しており、その中に相当数の「虚偽情報・誇大広告を含んだ詐欺的な仮想通貨・ICO関連の広告」があったと推測されています。
GoogleはブラウザのChromeからも、「ビットコインをはじめとする仮想通貨のマイニングスクリプト(採掘プログラム)を含む拡張機能」を排除するとしています。4月2日のGoogleの発表では、マイニングのChrome拡張機能は、すでに「Chrome Web Store」に登録できなくなっていますが、現時点で登録されているマイニング拡張機能も6月下旬にすべて削除するとしています。
例外として、マイニングを実行しないブロックチェーン関連のChrome拡張機能は、今後も登録したり利用したりする事ができます。日本で若年層の利用者が多いTwitterでも、「コミュニティーの健全性・利用者保護」を理由として、3月27日から仮想通貨・ICOの関連広告を段階的に禁止していく方針をすでに出しています。ただしTwitterでは「金融庁認可の登録仮想通貨交換業者」に関しては、例外的に広告を出稿できるとしています。
世界的な大手IT企業の仮想通貨・ICO関連の広告禁止がもたらす影響
世界最大のSNSであるFacebook、世界最大の検索エンジンであるGoogle、世界最大の短文投稿型(つぶやき型)のSNSであるTwitterにおいて、「仮想通貨関連の広告」が禁止される影響は非常に大きなものになります。Facebook・Google・Twitterを合わせた世界のウェブ広告市場に占めるシェアは「約70~80%以上」とも言われ、この広告禁止によって、ウェブユーザーの大半に仮想通貨関連の広告が目に入らなくなってしまうからです。
Googleの検索連動型広告・コンテンツ連動型広告(Adsense広告)、FacebookやTwitterのタイムライン広告・インフィード広告に、「仮想通貨・ICOの広告」が一切でなくなる(Twitterでは認可された仮想通貨事業者は広告を出せますが)と考えると、その影響範囲の大きさが自ずから分かると思います。ウェブのライトユーザーは、ほぼこれらのサービスだけで利用時間の大半を使っているからです。
どうして世界最大級のIT企業がこぞって、「仮想通貨・ICO・バイナリーオプション関連の広告」を、(法律で強制されているわけでもないのに)自主規制して禁止するのでしょうか。ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)、リップル(XRP)などの仮想通貨に投資している人からすると、「全面的な広告禁止」には納得がいかないわけですが、禁止の理由は大きく「詐欺を目的としたプロジェクト事業の実体がないICO・仮想通貨の広告」と「仮想通貨取引にまつわる虚偽情報・誇大広告(誤解を招く広告)」に分けられます。
仮想通貨というと実際に投資している人でも、大半はbitFlyerやGMOコインなどの認可取引所でビットコインやイーサリアムといった知名度があり名前の知れた仮想通貨を売買しているだけですが、ウェブ広告にはいわゆる「草コイン(無名コイン)のICO」を扱ったものも多くあるのです。
草コインの全てが詐欺ではないのですが、中には「ノーリスクかつ短期で何十倍にも値上がりする・世界的に価値のある事業体に投資するトークンなので絶対に安全」といった明らかな詐欺的内容を謳っている広告もあるのです。草コインはまだ海のものとも山のものとも知れないので、非常にリスクが高く投資資金がゼロになる恐れもあるのに、ノーリスク・ハイリターンで宣伝していれば虚偽情報・詐欺行為になります。
ネット証券大手のマネックスグループが、経営再建中のコインチェック買収案を提示
詐欺的なICO広告以外にも、「仮想通貨のハイリスク性」を無視した誇大広告・煽り広告も問題視されています。「退職金でビットコインを買おう」「未来の世界通貨となる革命的な仮想通貨」などの宣伝文句も誤解に基づくハイリスクな投機を煽っていて、広告閲覧者が大きな損失を被る恐れがある為に禁止されます。
大手IT企業は、自社掲載の虚偽・誇大な広告を閲覧した事で利用者が取り返しのつかない大きな損失を被った時(退職金を仮想通貨投資で失えば人生設計が狂います)に、訴訟を起こされたり倫理的責任を問われたりする事を警戒しているのです。
仮想通貨関連のウェブ広告が大手IT企業に自主規制される中、仮想通貨市場にとってのグッドニュースも入ってきています。セキュリティーの甘さから「NEM大量流出事件」を起こして、約460億円を現金補償したコインチェックを、マネックスグループが買収して子会社化するのではないかというニュースです。
傘下に資本金122億円のマネックス証券(1999年設立)を抱えるマネックスグループは、金融サービスの顧客を多く抱え、「ネット証券・FXのノウハウ」を長く蓄積していて経営体力もあります。4日時点ではまだ決定していませんが、コインチェックがマネックスの子会社になれば、経営面・信用面でのメリットは大きいのです。
コインチェック買収・再建によって進む取引所業界の再編
4月3日、マネックスグループがコインチェックを買収して経営体制を刷新するというニュースが流れた事で、マネックスG(8698)の株価がストップ高(344円→424円)になるまで高騰しました。現段階の報道によると、マネックスGはコインチェックに数十億円規模の買収を提案した模様で、国内最大手の取引所であるコインチェックの潜在的な収益力を考えると(約460億円を現金補償+12~1月には1兆円以上の取扱高)、「腐っても鯛」で非常に割安な買収と市場は見ているようです。
コインチェックは現経営陣のままでは金融庁認可を受けられず、営業停止・廃業に追い込まれるリスクもあるので、支援先を探していましたが、和田・大塚らの現経営陣は「経営陣刷新(ポスト喪失)・買収金額」でまだ決断がつかないのではないかとの見方が出ています。
コインチェックがマネックスGに買収されて経営陣が一新されれば、金融庁認可の可能性が高まるとの予測から、仮想通貨市場もこの動きを歓迎しており、4日未明にビットコインが久々に80万円以上まで上昇しました。コインチェック再建を含め、仮想通貨の取引所業界が健全化されて淘汰が進み、「投資家が安心して利用できる取引所」だけが残っていくというのは、仮想通貨市場・投資家にとっても非常に歓迎できる「取引所再編劇」であると言えるでしょう。
経営者が利用者のビットコイン資産を流用して業務停止命令を受け廃業したビットステーションなどは論外ですが、自社でセキュリティーを強化してコンプライアンスを高められない取引所は、「仮想通貨の信用・安心」をこれ以上失墜させないために市場から早期に退場してもらう必要があります。
ビットコインバブルが弾ける一因となったのが「取引所リスク(サードパーティーリスク)」でしたが、ビットコインをはじめとする仮想通貨投資の熱量が戻ってくるための必要条件として、「仮想通貨交換事業者(取引所)の健全な淘汰・選別」と「仮想通貨投資家(認可取引所利用者)の法的な保護体制の整備・技術的なセキュリティー強化」が出てきているのです。