大暴騰で始まった2018年の仮想通貨業界に大ブレーキをかけるきっかけの一つとなったコインチェックによるNEMの流出騒動。まだ完全な収束はしていない中ですが、NEMの補償を行い、制限されていた取引を徐々に解禁して行っているさなか、コインチェックはマネックスグループの出資を受け入れる形で再建を図る方針を打ち出しました。
どちらかというと新興のベンチャー企業が主体となって業界をけん引していた印象を受ける仮想通貨業界ですが、少しずつ情勢が変わり、大手企業や、メガベンチャーといったプレーヤーが参入しながら、再編、健全化されていっている一面が窺えます。
ニュースの概要
コインチェックは今回の流出騒動を受けて、二度にわたる金融庁からの業務改善命令を受けています。
盗み出されたNEMがマルチシグの未実装や、ホットウォレットでの管理など、ずさんな体制で管理されていたことを受け、顧客資産保護の徹底という観点や、そういった最も重要な部分を後回しにしていたことなどに対する経営体制の強化、さらにはマネーロンダリングの温床ともなりかねない匿名通貨の取り扱いなどに際しての対策強化などを課題とし、業務再開、正式な登録業者としての認可を目指して動いていく中で、大手企業の買収を受け入れるのではないか、といった推測は立っていましたが、ネット証券大手の「マネックス証券」を中核の事業会社として有するマネックスグループの傘下に入る方針を固めたようです。
マネックス証券も、かつては金融庁からの業務改善命令を受けながらも改善し、成長してきた企業です。
インターネットを中心とした金融業の運営の豊富なノウハウを持ち、金融のシステムについても知見があります。ネムの流出騒動を受け、コインチェックの中核メンバーには金融出身者がおらず、セキュリティなどのシステム周辺に関するエキスパートが不在だったことは被害を受けた原因として指摘されるとともに、再開に向けての大きな課題の一つでした。今回の出資は数十億円規模といわれていますが、資金面の解決だけでなく、改善すべき課題を解決するノウハウを持つ企業の傘下に入る形で、運営の再開を目指す意図も大きいとされています。
今回、マネックスグループでCOOを務める勝屋敏彦氏がコインチェックの新社長に就任する方針であることが報じられています。若干27歳で代表を務めていたCEOの和田氏や、実質的に経営の中心であったCOOの大塚氏は今回の騒動の責任を取る形で、経営の中心からは外れる見通しです。なお、この案件が最初に報じられた際、マネックスグループの株価は暴騰しています。仮想通貨の価格は今一つ振るいませんが、まだまだ仮想通貨に期待している投資家が多いことが伺えます。
利益最優先となった仮想通貨業界の暴走
NEM流出騒動の後、まずはコインチェック1社に対して金融庁の立ち入り検査が入り、業務改善命令が出ましたが、その後、登録業者、みなし業者合計40社弱に対して立ち入り検査が行われました。そして、大手のGMOコインや、3大取引所を運営するコインチェック、テックビューロなどに業改善命令が出たほか、2社に対し業務停止命令が出ました。
こうした流れを受け、複数のみなし業者が申請を取り下げ、もしくは申請を見送る形で、仮想通貨取引業への参入を断念しています。仮想通貨元年といわれた2017年、コインの価格上昇とともに業界が盛り上がり、大手取引所のテレビCMでもお茶の間を賑わせるようになりました。
最大規模の取引所での月間取引量が「兆」という単位を記録し、ネガティブなニュースではありながら、コインチェックが400憶を超える補償を自己資産で行うことを数日で決定するなど、仮想通貨取引業が非常に儲かるといった印象は強かったのではないかと思います。大手企業や、大手企業から出資を受けた企業も参入している一方で、新興のベンチャー企業も業界に積極的に参加していました。
しかし、仮想通貨取引業が認可制となる中で、半数以上が申請を通すことが出来ないみなし業者であったことから、全ての企業が、金融庁が策定した基準をクリアするような運営を行ってはおりませんでした。
さらには、発端はコインチェックの騒動でしたが、金融庁が立ち入り検査を行った結果、一度は審査をクリアした業者であっても業務改善命令を受けるような運営を行っており、さらにはみなし業者の中には顧客資産を混合どころか、指摘に流用しているような企業もありました。
仮想通貨取引業は、仮想通貨の扱いが手探りながらも公的に定まっていく中で、「金融業」としての扱いを受けていくことになりますが、そのような中でも、利益を優先で考え、システムの整備やコンプライアンスの制定が置き去りになってしまっていた感が否めないのが正直なところであったのではないでしょうか。
大手企業を中心とした業界の再編
今回、三大取引所の一角であり、仮想通貨業界を代表する気鋭のベンチャー企業でもあったコインチェックが、大手であるマネックスグループの傘下に入ることになったことは非常に象徴的なトピックでしたが、DMMが昨年後半から仮想通貨の取引所やマイニング事業へ参入してきたり、インターネット大手のサイバーエージェントや、LINEが今後仮想通貨事業に参入する意向を示しています。
これらの企業も、全産業の中で見ると、ベンチャー企業といわれるような分類ですが、2017年に仮想通貨業界を賑わせてきたような企業に比べると、規模も歴史もあるような大手企業です。このような企業群が積極的に参戦してくることは、業界にとってどのような意味があるのでしょうか。筆者の見解としては全体的にはポジティブな材料としてとらえています。
一つは、仮想通貨の信頼の向上です。新しい事業に積極的に参入しつつも、「全くわけのわからないもの」には手を出しにくいであろうクラスの企業群が仮想通貨業界に参入している、しようとしていることは仮想通貨が単なる値動きの激しい投機商品ではなく、長期目線で価値を持っていくものであると、少なくとも過去、先見の明をもって事業を拡大してきた企業のリーダーたちは判断しているということを示すのではないでしょうか。
また、「大手の資本が入っている会社」くらいでは信用できなかった投資家たちも、大手企業が出資ではなく直接参入してきたことで信用する、といったことも考えられるのではないでしょうか。
2点目に、大手企業が参入することでコンプライアンスが強化されることが期待されます。これはルール無用となっていた仮想通貨業界に、一般の投資家が参入しやすくなるうえでは、単なるネームバリューによる安心感以上の価値があります。創業したばかりのベンチャー企業にとってはとにかく生き残ることが最優先になりますので、どうしてもコンプライアンスよりも利益を優先してしまう側面は見られてしまうと思います。
既に他の事業で名前が知られている企業群は、利益を追求するのは当然のこととはなりますが、仮想通貨事業で利益を上げられないことよりも、自社の看板に傷がつくことの方が、不利益が大きいため、必然的にコンプライアンス意識が高くなります。そういったプレーヤーが業界に参入し、リードしていく中でまだまだルールが未整備な仮想通貨業界全体の健全化の方向に舵が切られることが期待されます。
仮想通貨業界の再編と今後
大手企業の参入傾向は、まったく新しいトレンドではないですが、コインチェックの買収というのは一つの大きなシンボルとなったといえるでしょう。仮想通貨市場参加者の中には、仮想通貨の不安定さやルール無用さを好み、大手の参入を快く思わない方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、仮想通貨に限らず、まったく新しいものが長期的に、しっかりと価値を持ったものになるにあたっては必要なプロセスであると言えるのではないでしょうか。また、成功体験を持つ大手企業がこのように参入してくること自体は仮想通貨市場にとって歓迎的な出来事であると言えます。2017年は「仮想通貨元年」。広く認知されましたが、本格的に市民権を得ていくのはまだまだこれからです。