4月6日にマネックス証券がコインチェックを買収すると発表されました。コインチェックは1月に起きた大量のネムの流失事件後、経営の再建を目指していましたが、個人的に親交のあったマネックス証券の松本氏に助けを求めたということのようです。今回のこの件について記事にまとめてみます。

コンチェック買収の概要

マネックス証券がコインチェックを買収買収額は36億円と発表されています。発行済株式の全てをマネックス証券が取得し、完全子会社化されます。一連の記者会見で登場していた和田晃一良代表取締役社長と大塚雄介取締役COOは経営責任をとり取締役を退任しますが、執行役員として会社には残るようです。マネックス証券の松本大は「将来的に和田晃一良氏を再び社長にすることもあり得る」とコメントしています。

新たに代表取締役社長に就任するのは勝屋敏彦氏です。三菱銀行出身で2006年にマネックス証券に入社後、取締役社長などを歴任している人物で生粋の「金融畑」を歩んでいます。

多くの仮想通貨取引所に共通することですが、こうした「金融の専門家」がトップにいないのが理由の一つで、ややセキュリティやコンプライアンスの面で不安があるというのがいなめませんでした。今後は、長年金融事業に携わってきた専門家がトップに立つことによって、こうした面が改善されるのを期待したいところです。

記者会見での発表では、2ヶ月後を目処として金融庁への登録を完了、正常化したいということでした。3月に行政指導を受けた内容について早急に改善し、適切な対策と報告が求められます。なお、記者会見当日には「技術的な安全性等の確認とともにマネー・ローンダリング及びテロ資金供与リスクに鑑みた措置を講じました。」というアナウンスとともに、REP、DASH、ZECの各通貨については出金と売却が再開されました。また、流出したネムの保証も自己資金ですでに全て支払い済みです。

マネックス証券とはどんな証券会社か

マネックス証券はネット証券黎明期に、個人がインターネットを利用した投資をする時代が来ることを見抜いた松本大氏がソニーと共同で1999年に創業しました。松本氏はゴールドマン・サックスのゼネラルパートナーだった人物で、今年54歳と一時代を築いて来た創業者の中ではまだ若手に入る部類です。

Moneyのyを1文字前のxに変えたMonexが社名で、「一足先の未来におけるお金(マネー)とのつきあい方を設計・デザインして、顧客に提供していく」という思いから名付けられたとされています。今聞くとまるで仮想通貨の到来を予測していたような話に思えますね。

当時は証券会社というと、野村證券・大和証券のような大企業や富裕層の個人投資家を主な顧客とした窓口対面型が主流であり、今のように一般個人が盛んにネットを利用した投資をするというイメージはなかなか持ちにくい時代でした。

国内では中堅の証券会社であった松井証券がいち早く個人投資家をターゲットとしたネット証券に取り組んでいましたが、まだそれほどメジャーではなかった頃です。

SBI証券の前身であるイー・トレード証券や楽天証券の前身のDLJディレクトSFG証券などもほぼ同時期にサービスをスタートさせています。マネックス証券は2000年代前半にはインターネット証券の中でも高いシェアを誇っていた時期もありましたが、現在はSBI証券、楽天証券に大きく水を開けられて業界3位(口座数)となりました。

コインチェック再生の鍵となるか特にここ数年はSBI証券の伸びが著しく、差は開くばかりという状態であり、マネックス証券としては仮想通貨という新たな事業領域に魅力を感じる理由が十分にあったものと思われます。

マネックス証券といえば、ライブドア事件の時にもある意味で、大きな役割を果たしました。2006年に証券取引法違反の疑いで東京地検からの家宅捜索を受けたことがきっかけで、ライブドア株が一時的に暴落します。

この時、翌日にはやや落ち着きを取り戻した株価でしたが、マネックス証券が予告なしにライブドア株およびその関連会社の担保能力を「掛け目ゼロ」にしたことがきっかけで、売りが売りを呼ぶ展開となり、数日にわたる株価の暴落を招いてしまいました。

あまりに多くの売り注文が殺到したため、当時の一日の約定数の限界に達する恐れから異例の「全銘柄取引停止」措置が取られるほどの大きな影響を出しています。

これについて当時のCEOだった松本氏は「投資家保護を最優先とする経営判断」だったとコメントしています。マネックス・ショックとも呼ばれる一連の事件についての正否の判断は他に任せることとしますが、松本氏がこの事例でもわかる通り、ドラスティックで素早い判断と実行力を持った人物であることは明らかであろうと思われます。

今回のコインチェック買収にしても今年の3月に打診があり、4月に正式発表というスピード感を見ても納得の行くところです。

大手証券・金融関係企業の仮想通貨への取り組み

では、マネックス証券以外の証券会社は仮想通貨についてどのような姿勢を見せているのでしょう。

業界大手の野村證券や大和証券については、現在のところ仮想通貨については関連するシンクタンクなどで行なっている調査・レポートは散見されるものの、具体的な取り組みについて発表はなされていないようです。やはり、ネット専業の証券会社の方がこうした新しいビジネスについては親和性も高く、積極的と言えるでしょう。

ソフトバンクグループであるSBI証券は、現時点で総合口座数400万口座を突破しネット証券では最大のシェアを誇っています。2017年にSBIバーチャル・カレンシーズ株式会社を設立し、仮想通貨取引所の登録も完了、すでに申し込みも受け付けていますが現時点ではまだサービスを開始できていないようです。Huobi Universal Inc.との業務提携を解消するなど、やや混乱も見られているようですが、間もなく取り扱いが開始されるものと見込まれています。

TVCMでも一般によく知られていると思いますが、DMMグループはDMMビットコインとして仮想通貨取引所をスタートさせています。ちょうどコンチェック事件と時期が重なったため、余計に印象に残った方もいるのではないでしょうか。

もともと、DMMグループはこうした新しいビジネス領域には積極的に参入する企業風土があり、ビットコインでの決済については早くから取り入れていました。DMM.com証券はFX取引を特徴として打ち出していますが、DMMビットコインでもアルトコインのレバレッジ取引に特徴を出しています。

このようにフットワークが軽く、インターネット取引・個人投資家を主体としている証券会社は仮想通貨取引についても意欲的に参入して来ています。

マネックス証券も何らかの形での参入については検討していたかと思いますが、一からシステムを立ち上げたり、新たな顧客を確保するためのコストや労力を考えると、コインチェックからの申し出は渡りに船だったはずです。

前述した通り、起業して数年のコインチェックですら400億円近い弁済金を内部留保で保有していたというのですから、収益性については申し分ないでしょう。今回買収に使った36億円は安い買い物だったのではないでしょうか。

コインチェックは再生するか

長く証券会社を運営しているマネックスが本社となることで、経営の安定性、セキュリティの問題など、これまで課題となっていた部分が解決する見込みが高いと思われます。

170万口座を超える顧客を抱えていること、国内では他で売買ができないアルトコインの取り扱いもあることなどを考慮すると、一連の事件によって企業に対する信頼性を損なったとはいえ、ポテンシャルは持っている企業であると言えます。

その意味ではマネックス証券のバックアップによって、コインチェックが再生する可能性は高いといってよいでしょう。

本格的な金融業者の参入で国内の仮想通貨取引は新たなステージに突入

2013年に破綻したマウントゴックスは、もともとゲームで使うカードのトレーディングをしていた会社でした。これまでは仮想通貨取引所や関連する事業所は金融の専門家ではない、どちらかというと技術者が主体となった世界でした。

そのためか、金融事業者に比べてセキュリティやコンプライアンスに関してはやや甘い側面があったことは否めません。

しかし、今回まとめた通り証券会社などの参入や行政の監督の強化などによって、今後は本格的なプレーヤーが活躍するフィールドに変化していくことが見込まれます。