近年、急激にその普及率を高めている仮想通貨ジャンルに、「ステーブルコイン」と呼ばれるものがあり、価格の変動が激しく投機性の高い他の仮想通貨と異なり、法定通貨に対し常に一定の価値をキープするシステムになっていることから、リスクマネージメントツールや取引所における決済期間通貨として、多くのユーザーに利用されています。

国内の取引所ではまだ取り扱いがないものの、アメリカの本拠を構える世界第2位の取引所、ビットトレックスがいち早く上場させましたが、ステーブルコインの先駆け的存在である、テザー(通貨単位USDT)・ニュビッツ(通貨単位NBT)に続き、3銘柄目となるトゥルーユーエスディー(通貨単位TUSD)を追加上場し、一躍注目が集まっています。

ステーブルコインの利用価値とリスク

ステーブルコイン「TUSD」がビットトレックスに3銘柄目上場USDTやNBT、そして今回上場を果たしたTUSDなどは、世界で信用されているUSドルと連動し固定相場を維持している仮想通貨であり、「ドルペッグコイン」とも呼ばれています。ドルペッグは現実通貨の世界でも採用されていて、香港ドルやエルサルバドルの通貨コロンなどがいい例ですが、経済の安定していない開発途上国や小国が、自国通貨価値の安定性を維持することを目的に、政府や中央銀行が金利調整や為替介入を実施し、世界的な基軸通貨であるUSドルとの相場を維持することがあります。

つまり、変動が激しい通貨を安定化できるのがドルペッグ制であり、同じく価値変動が大きい仮想通貨の市場においてUSドルのような基軸通貨となりえる可能性を、ステーブルコインは秘めています。どうやって価値を維持しているかと言えば、売り注文が出て価格が低下し始めた場合、各通貨の運営や提携金融機関が買い注文を入れ、価格変動を最低限に保つシステムになっています。

投機性の強い他の仮想通貨は、ともすれば1営業日で十数%価格が変動することもあり、欠損が大きく出るリスクも高いですが、自国通貨が使えない海外取引所にステーブルコインがあれば、相場乱高下中の「避難場所」として利用することが可能になります。また、長期的に資産を安全に保管したい場合、価値変動の少ないステーブルコインは、たんす貯金のような役目を果たすことも可能です。

ただし、運営会社や提携企業の相場調整資金が尽きてしまった場合、こういったステーブルコインは価値を保てなくなり、たちまち通貨としての信頼性とそのシステムは崩壊します。ですので、ステーブルコインは、運営会社やそれを支えている企業がどれほどの資金力と、信頼性を持っているかが、取捨択一のポイントになってきます。

TUSDは信頼にあたるステーブルコインなのか

前項のことを踏まえて、この度新たにビットトレックスに上場したTUSDは「1USドル=1TUSD」の維持されるようになっていますが、その担保はユーザ―自身が信託銀行に開設したエスクロー口座に入金・法的に管理されているUSドルであり、すべてのユーザーがエスクロー入金をしたUSドル残高以上のTUSDは、システム上この世に存在しません。

つまり、取引所において売り注文があれば、エスクロー口座からUSドルが出金されるとその分のTUSDが消滅し、エスクロー口座に入金がなされその残高が増えれば、スマートコントラクトによってTUSDが発行されるという、いたって単純明快な作業が行われるだけのことです。

また、エスクロー口座の保有残高は毎日公表され、第三社の監査機関によって毎月監査を受ける決まりになっているうえ、TUSDの発行元は、信託銀行に存在するエスクロー口座に一切介入・接触することができないという、万全のセキュリテー管理を敷いています。

準備金以上のコインを不正に発行?USDTへの不信感噴出

国内メガバンク発行予定の仮想通貨もステーブルコインなのか現在最も有名で、規模の大きなステーブルコインであるテザー社が発行するUSDTも、USドルと1対1の価値をキープするドルペッグ通貨ですが、その信頼性についての不穏なうわさが絶えません。このUSDNの場合前述のTUSDと異なり、通貨発行の担保となるUSドルを預託するのが、USDNを発行するテザー社自身です。

そして、ドルペッグコインの仕組み上、発行コインの時価総額同等のUSドルを保有している必要があるのですが、本当にそれだけのUSドルを、テザー社が保有しているのかについて、懐疑的な見方が蔓延しているのです。

というのが、2017年12月31日時点でのUSDNの時価総額は14億135万USドルほどだったにもかかわらず、1か月後の1月末には実に1,6倍となる、22億4,714万USドルにまで急上昇しました。

価格変動の激しいビットコインや、アルトコインならば何ら不思議もない変動幅ですが、価値変動の少ないステーブルコインの性質上、こんな短期間で時価が8,46億ドル(約910億円)も増えるのは不可思議でしかなく、たちまち専門家からはテザー社が保有するUSドルの総量と、USDTの時価総額が一致しないのではないか、という疑問の声が噴出しました。

また、それはUSDTを上場させているビットトレックスとビットコインに飛び火し、専門家の中にはビットトレックス運営とテザー社が裏で手を結び、取引所内でTSDTによってBTCを買い漁っているといううわさまで流れ、ビットコインを含むすべての仮想通貨に悪影響が及ぶ可能性まで出てきました。

ビットトレックスがUSDT・NBTに加えてTUSDを上場させた背景

もちろん、大口投資者がUSDTに目を付け、巨額のUSドルをテザー社に入金したことも考えられますが、とかくステーブルコインを含む仮想通貨というものは、いったん悪いうわさが出回るとその収集が困難を極めるため、今回ビットトレックスが行った信頼性を評価されているTUSD上場は、ユーザーのリスク回避への選択肢増加という観点からみれば、いたって賢明な判断と言えます。

事実、上場直後からリスクを恐れたUSDT保有者のTUSDへの流出が始まっており、このままテザー社が破たんの道を歩む可能性も高まってきました。ただ、それでもビットトレックスはUSDTの取り扱いを停止したわけではなく、併せて保持されるべき対ドル価値を、今のところUSDTはしぶとく確保しています。

ここで疑われているのが、ビットトレックスによるビットコインの価格操作によるテザー社のUSドル確保であり、ビットコインが大量に売られ暴落した直後に、USDTが大量発行されているという指摘もあります。

ビットトレックスがTUSDを上場させたのは、取引所としての信頼性確保と、ユーザーのリスク回避がその意図とも考えられますが、背景には保有するUSドルを超え発行されていると噂され、信頼性が失墜しているUSDTに変わる、新たなビットコイン獲得の矛先をTUSDに向けた可能性も示唆されています。

システム的には非常に将来性の高いTUSDですが、上場した取引所にビットコインの価格操作の道具として使われてしまうと、元も子もないととになりかねず、今後TUSDの発行枚数と時価総額がどのように動いていくかに、専門家たちは注目しています。

日本のメガバンクなどが発行を計画している仮想通貨もステーブルコインなのか

ここまで触れてきた、ドルペッグのステーブルコインは、現時点で国内の取引所では取り扱いが無く、特に手続きが必要でない円建て取引が可能であることと、テザー社が抱かれている疑惑を加味すると、今後も国内でドルベックコインを上場させるところは、出てこないものと考えられます。

では、国内でステーブルコインが運用されることはないのかというとそうではなく、例えば三菱UFJファイナンシャルグループが、2018年度中の発行と自社運営の取引所開設を予定している「MUFJコイン」も、1MUFJコイン=1円に価格をキープさせる、いわゆる円ベック型のステーブルコインです。

そんなの仮想通貨ではなく、電子マネーみたいなものだという意見もありますが、現金の前払い方式の電子マネーの場合、銀行を介さずに100万円超の送金を禁じる資金決済法が適用されます。しかし、仮想通貨として発行すれば法定の「お金」とはみなされず、100万円超の送金が可能なため、特に企業間の取引決済において威力を発揮します。

また、SBIホールディングスが、2017年9月にその発行を発表した「Sコイン」も、対円との相場レートを保つステーブルコインとなる見込みで、すでに同社が開設しサービス提供を始めている「SBIバーチャル・カレンシーズ」に上場する可能性が高く、オープンソースの金融プラットフォームである「XCP(カウンターパーティー)」と同じような運用をされる予定です。

さらに、みずほ銀行・ゆうちょ銀行と数多くの地方銀行が提携して、発行・運用を予定している「Jコイン」も、日本円のレートと固定されるデジタル通貨で、中国のモバイル決済サービス「アリペイ」と接続し、インバウンド需要を取り込むのが狙いとなっています。

しかし、こちらは取引所などには上場せず、仮想通貨というより電子マネーとみるべきで、そうなるとマネーロンダリングの防止を目的とした、前述の100万円の壁に抵触する可能性があると考えられます。