4月12日の仮想通貨市場で、ビットコインがわずか30分で1,000ドル以上値上がりするという出来事があったのは記憶に新しいでしょう。急騰の理由は諸説ありますが、有力なものはBlossom(ブロッサム)というインドネシアの投資ファンドが、仮想通貨とブロックチェーンがイスラムの教典であるシャリーアに準拠しているか否かを精査するレポートを出したことが挙げられています。同レポートでは、仮想通貨がシャリーアに明確に違反していないとして、今後イスラム圏でも仮想通貨は許容されるだろうと述べています。

イスラム圏で仮想通貨が容認されれば、実に全人口の四分の一、16億人以上の市場を開拓する事に繋がります。今回、イスラム圏での仮想通貨のこれまでのあり方を知ることで、今回のレポートが与える市場へのインパクトを読み解いていきます。

イスラム教では仮想通貨は一部禁止されていた

仮想通貨の将来とイスラム圏の仮想通貨容認に関する動向今回、なぜこのようなレポートが出されたかというと、そもそもイスラム圏では仮想通貨の位置づけが曖昧だったから、というのが理由の一つです。これまでもエジプトでは、シャリーアに違反することに悪用される可能性があるとして、仮想通貨が禁止されていましたし、イスラム教ではギャンブルが禁止されています。仮想通貨投資はギャンブルとは違いますが、激しい値動きがある仮想通貨への投資がギャンブルであるとみなされていたこともあります。

イスラム圏は仮想通貨だけではなく、銀行でもシャリーアに基づいた金融政策のルールが適用されています。銀行でも投機的取引、不確実な取引などシャリーアに則らない取引はおおむね禁止されています。それでは今回のレポートでは、なぜ仮想通貨がシャリーアに違反しないと書かれているのでしょうか。

ビットコインがイスラム通貨として合法である理由

今回のレポートは、前述のとおり、Blossom(ブロッサム)という投資ファンドが発表しています。その創業者であるマーティン氏はビットコインを「慣習貨幣」であると位置づけており、イスラム通貨としても適格であると述べています。例として、ドイツとアメリカを挙げ、政府に法的通貨として認められているビットコインはハラル(シャリーアに準じている)であるとし、アメリカなど、政府から認められてなくても、多くの企業に決済手段として認可されていることから、イスラムの教義に準じていると発表しています。ただし、仮想通貨のICO(新規上場)に関しては、極めて不確実で勧められないとしています。また、レポートの執筆者である、アブバカル氏はブロックチェーンという技術が過剰な不確実性を減らすという点で、シャリーアの精神に相似していると言及しています。

また、これまでイスラム圏で仮想通貨が認められてこなかった理由のひとつに、そもそもイスラム法学者の多くが、仮想通貨の複雑さを理解できなかったという事が挙げられます。これを機に仮想通貨に対する認識が改まり、シャリーアにおける仮想通貨の解釈が変わってくる可能性があります。

イスラム圏ではすでに金投資に関する仮想通貨が誕生している

イスラム金融でもフィンテックの波は急速に広がっており、今回のレポートに関してもその流れを受けたものと言えます。その大きな流れの発端となったのが、2016年末に発表された「金への投資」解禁です。シャリーアでは宝飾品として金を保有するのは問題ないとされてきましたが、金ETFなどの金融商品としての投資は明確に許されていませんでした。しかしムスリムの間では金投資への需要が高く、それに対応するためにイスラム法学者を交えて、金投資に関するルールを策定したのです。

この金投資解禁に合わせて、イスラム金融市場に初めて登場した、イスラム法を遵守した仮想通貨「OneGram」が登場しました。実はイスラム圏でも仮想通貨は生まれていたのです。このOneGramはブロックチェーンを用いて、金を裏付けする通貨です。OneGramの創設者であるモハメド氏は「OneGramの登場で、デジタルテクノロジーを活用したイノベーションを起こすことが出来る」と言及しています。確かに歴史上最も古い通貨の一つである金と、デジタルテクノロジーを融合させ、それをイスラム法に準ずる形で仮想通貨として運用することが出来たのは大きな功績と言えます。またOneGramはその名の示すとおり、一個につき、最低一グラムの現金の金が厳重に保管されています。投機的取引である、シャリーアの掟を破らないための方法です。このあたりもOneGramがシャリーアに準拠した仮想通貨であると言えます。

OneGramはこれまでに数千万ドル相当分が発行されていますが、予定発行数の半分にも達していないと言われています。今年の5月にはBittrexやPoloniexなどの海外仮想通貨取引所に上場すると言われており、それまでには全て発行することを公言しています。当面は東南アジアや中東・北アフリカでの需要が大きいと言われており、OneGramは今後注目を集める仮想通貨の一つであるといえるでしょう。

OneGramにつづく、イスラム圏での仮想通貨の動き

約16億人のイスラム教徒が仮想通貨市場に流れ込む事の意味とはイスラム圏の中でも国によって、仮想通貨の認識に異なりがあります。前述の通り、エジプトでは厳格に禁じられています。トルコやイランも元々禁止している立場でしたが、徐々に潮流を感じ取り、国が独自の仮想通貨を発行する動きを見せています。一方で、UAEやインドネシアなどの一部のイスラム教国は仮想通貨の取引を容認しており、特にUAEのドバイは最も寛容と言われています。実際に2017年の10月にはドバイ政府自ら「emCash」という仮想通貨を発行しており、すでに公共料金やショッピングの決済に使われています。

また、大国サウジアラビアも仮想通貨の取引を静観しており、同国の電力会社であるACWAパワー社は「SolarCoin」という仮想通貨を発行しています。こちらは太陽光発電促進のために作られた仮想通貨です。SolarCoinはその名の通り、太陽光発電で得た電力でマイニングをしている事と、人工衛星のデータセンター「スペースベルト」で保管されているという事が大きな特徴です。

これらの仮想通貨に関しては、主要な仮想通貨に比べるとまだまだ成長途上である感は否めませんが、イスラム金融圏内での仮想通貨の発展を占うという意味では、重要な役割を担っています。今後各取引所に上場という流れになればますます注目は集まります。

イスラム圏での今後の仮想通貨の動きに要注目

今回のBlossom(ブロッサム)のレポートは一時的にビットコインの価値を押し上げた、以上の価値があります。これによりイスラム圏での仮想通貨のあり方を再考させたという点では非常に功績があります。このレポートがすべてのイスラム圏の意見を代表したものではもちろんないですが、シャリーアの基準を柔軟化させる役割は持つことでしょう。

注目すべきは、イスラム圏で仮想通貨投資が認可される流れになった時、世界人口の約四分の一であるムスリムが仮想通貨市場に参入してくる可能性があるという点です。これは市場にとって紛れもなく大きなインパクトとなることでしょう。

必要なのはシャリーアと仮想通貨の解釈が進むことです。厳格と思われているイスラムの教義もフィンテックの流れに応じて、柔軟な対応を迫られています。しかし着実に独自の進化を続けながら、その足並みは揃ってきているように感じます。今後のイスラム圏での仮想通貨の動きは市場全体の活気にも関わってくるので、注目していきたいところです。