4月6日に匿名性で有名なモネロが5種類に分裂したというニュースが流れました。もともとモネロVというハードフォークを予定していたのですが、今回の分裂はそれとは別のものです。今回はこうした分裂がなぜ起こるのか、モネロやビットコインを例にとってまとめていきます。

匿名仮想通貨モネロとにはどんな特徴があるか

匿名仮想通貨モネロが5種類に分裂モネロには「リング署名」「ステルスアドレス」という仕組みが採用してあり、送金者や送り先の情報が第三者にはわからないという特徴があります。匿名性が高いことが理由で、以前は武器の売買などを取り扱っていた闇サイトなどで流通していました。コンセンサスアルゴリズムにはPoWを採用しています。これはビットコインなどと同じ仕組みであり、ブロックチェーン上にデータの記録・保存をするのに貢献があった人に対して報酬が与えられる仕組みです。

ビットコインとの違い

ビットコインは最初に開発された仮想通貨です。法定通貨に置き換わる新しい通過として流通することを目的として開発されましたが、最初であるためにいくつかの欠点も存在します。例えば、多くの人が利用するようになると決済のスピードが遅いことが原因で実用的でないなどが代表的な問題として顕在化してきました。モネロはこうした問題を解決し、現実的に決済用に利用可能な仮想通貨を目指して開発されたものです。

ブロックサイズ・承認スピードの違い

ビットコインではデータを記録するためのブロックサイズは1MBに、承認は約10分間に1度に設計されています。モネロではブロックサイズが自由にでき、承認スピードが約2分間に1度とスピードアップされています。このため、ビットコインよりも多くの処理をすることができるようになります。処理できる件数が増えることで、実用上使いやすく、手数料も安く設定できることが期待されています。

マイニングで報酬を得るチャンスが平等

マイニングによって報酬を得られるのは、コンセンサスアルゴリズムにPoWを採用している仮想通貨です。モネロもビットコインと同じくPoWを利用していますので、マイニング可能です。実はビットコインからビットコインキャッシュが分立したのも、今回のモネロの分裂もこの「マインングによる報酬受け取り」が原因となったものです。

ビットコインとの違いはアルゴリズムを工夫することによって、マイニングが容易になっており一部のパワーのあるマイナーだけに報酬が偏らない仕組みが採用されていることです。そのため、一般のマイナーでも平等に報酬を受け取ることができます。

仮想通貨に大きな影響を与えるマイニングマシンASIC

ビットコインなどのPoW(プルーフ・オブ・ワーク)コンセンサスアルゴリズムを採用している仮想通貨では、ブロックチェーン上へのデータの記録・保存に貢献のあった人が報酬を受け取ることができます。このことを一般に「マイニング」と言いますが、この報酬を目的として多くの人がブロックチェーンの維持に協力することで、分散管理を実現することができます。

ビットコインのマイニングにはGPU(グラフィックボード)と相性の良いSHA-256というハッシュ関数が用いられています。GPUは画像処理専用のボードで、大量の情報を素早く処理するのに向いていますが、CPUと違い複雑な処理は苦手です。これまではコンピューターゲームなどで画面上に出力する画像処理をするために用いられていましたが、仮想通貨ブームによってマイニングへの利用が拡大したため、一時品薄になることもあったほどです。

マイニング専用マシンASICの登場

ビットコインの価格が急上昇するにつれ、より効率的にマインングするための専用マシンが開発されてきました。中国に本拠を持つBItmain社がこうした専用マシンであるASICの世界最大の製造メーカーであり、現時点ではほぼ市場を独占している状態です。ASICはビットコインマイニング専用に開発されており、圧倒的なパワーがあるためGPUマイニングではとても太刀打ちができない状態となっています。

仮想通貨の理念と大規模マイナーとの戦い

ASICを大量に導入し、大規模マイニングをする事業者が登場するようになり、新たに承認されるブロックのほとんどをこうした専用業者が独占するような状態が出現してしまいました。こうした「資本を持つものが資源を独占する」という状況はブロックチェーンの理念である「分散記録により、恣意的な操作の及ばないプラットフォームの構築」に反してしまいます。

そのため、仮想通貨の開発グループとマイニング事業者やASIC製造メーカーとの間での対立が発生し、それぞれの思惑に即したプロジェクトが別々に動き出して行くようになります。こうした対立が元になり、仮想通貨の分裂ということが起こってしまいます。

ビットコインとビットコインキャッシュの分裂

仮想通貨のハードフォークとその背景についてビットコインでは取引量の増加に伴い、当初の仕様では十分な処理ができない問題が現実化してきました。単純に言えば「スピードが遅すぎて実用的ではない」ということです。ブロックを記録する容量が1MBしかないこと、ブロックの生成感覚が約10分間と長いことなどが改善されるべき点と思われています。

そこで、コアの開発グループではブロックに記録する情報に工夫することで同じ1MBでも記録できる件数を増やすバージョンアップをすることにしました。これを「Segwit」と言います。

ASIC事業者との対立
ところがASIC製造メーカーやASICを大量に導入してマイニングを実施している事業者はこの仕様変更に反対します。ASICは特定の目的のために構築されたハードウエアのため、こうした仕様変更には耐性がないので、もしSegwitが実施されるとマイニングができなくなるというのが大きな理由です。

ビットコインを改良し、より実用的な仮想通貨へとブラッシュアップしたいコア開発グループと仕様変更に反対し、マイニングによる収益を重要視するASIC陣営との対立がビットコインとビットコインキャッシュが生まれてきた原因です。ビットコインがコア開発者、ビットコインキャッシュがASIC陣営が支持する仕様を実装しています。

モネロの分裂とその概要

モネロは元々、こうしたASICに対する「耐性」を持つように設計されていました。そのため大規模事業者によりマイニングが独占されることなく、一般のマイナーにも平等に報酬が分け与えられる仕組みが維持されてきました。

ところが今年に入って前述のBItmain社がモネロのマイニングが可能な専用マシンである「アントマイナーX3 ASIC」を発表します。これに対して開発者グループは素早い対応をし、ハッシュアルゴリズムであるクリプトナイトを半年ごとに修正すると発表し対抗しました。また、PoWについても見直しをはかり、マイニングの集権化を防止する対策をするともアナウンスしていました。

4月6日にモネロが分裂、全部で5種類に

今回のモネロの分裂はこうした対立が元になったものです。新しく分裂してできた通貨(プロジェクト)は次の4種類です。

Monero Classic モネロクラシック
Monero-Classic(XMC) モネロクラシック
Monero 0(XMZ) モネロゼロ
Monero Original モネロオリジナル

同名のプロジェクトであるモネロクラシックは2つともASICの存在とマイニングへの参加を許容するグループです。モネロの仕様変更に反対し、集権化もセキュリティの強化や市場の活性化に必要だという主張をしています。

モネロゼロは現在のモネロが進もうとする、定期的な仕様変更には反対するグループのようですが、中央集権化にも距離を置く立場のようです。モネロオリジナルについては開発グループの詳細が不明です。

利権と理念の対立が分裂を起こす原因

ブロックチェーンとそれに関連する技術は、今後の世界を大きく変革するポテンシャルを持った画期的なものです。多くの開発者はそれぞれに抱える理念を実現するためにプロジェクトをスタートさせています。

ところが、仮想通貨が投資対象として急激に脚光を浴びるようになってからは、理念とは別に利益を確保する目的で参入する事業者が事実上のステークホルダーとして活躍するようになりました。こうした理念と利権の対立がプロジェクト分裂の大きな要因となっています。

個人だけでなく、大資本を持った事業者も参加することは仮想通貨の未来にとって決して悪いことではありません。また、まだ様々な問題を抱えるブロックチェーンとそれに付随する技術が、より洗練されたものになるための仕様変更なども過渡期としては必要であると思います。

しかし、一部の事業者の思惑で市場が左右されるような寡占状態や、一般の利用者にあまり関係のない対立による度重なる分裂は、あまり望ましい状態とは言えないでしょう。できれば、何らかの合意形成のシステムや新たなルール作りなどを経て、自由度は確保しながら混乱を避ける仕組みが欲しいものだと思います。