新しいICOの「WELL(ウェル/単位:WELL)」は現在、トークンセール中です。ICOの目的は、分散型ブロックチェーンの技術を活用し、ワールドワイドに遠隔医療を提供できるプラットフォームを構築することです。
国境のない医療のグローバルマーケット構築を目指すWELL(ウェル)
WELLは医療(ヘルスケア)に関連した仮想通貨です。名前は英語で「健康」を意味するwellness(ウェルネス)からきています。これは1961年にアメリカ人医師ハルバート・ダンにより、healthより積極的な「健康づくり」を指す言葉としてつくられました。
医療系の仮想通貨はすでにいくつかありますが、アメリカ・カリフォルニア州に本拠地を置く(登記上の本社は英国領ヴァージン諸島)WELLには、国境を超えた医療・ヘルスケア関係者のグローバル・ネットワークをつくるという、実現すれば世界初の構想があります。ICOの目的は、仮想通貨の「分散型ブロックチェーン」技術をベースに、ネットワークを介して遠隔医療を提供するプラットフォームを構築して、国境を超えて世界の医療従事者と患者とを結ぶ医療のグローバルマーケットをつくり出すことです。
医療はドメスティック(国内型)な産業です。日本に住む人は病気になれば日本の診療所や病院に行き、日本語を話す医師の診察や治療を受け、会計窓口では日本の健康保険を使って自己負担分を日本円の法定通貨で支払います。処方せんを持っていき薬を調剤してもらうのも日本の薬局です。たとえば日本にいながらアメリカの病院に在籍するアメリカ人医師の診断を受け、アメリカの病院に支払いをすることは、まずありません。
今は通信ネットワークで遠隔診断ができるようになっており、たとえば日本の病院から患者のCT断層写真や検査データを送って提携先の外国の病院の専門医に意見を求めるようなことはできますが、最終的に診断を下すのは、日本の医師免許を持ち日本の病院に在籍する医師です。そうでないと日本の健康保険は適用されません。医療の世界には、法律(医師法)や保険(健康保険)や言葉の壁や通貨の違いなどの「国境」が存在します。
WELLはそんな国境を超えようとしています。世界のどこにいても、ネット環境があれば365日、24時間、世界最高品質の医療サービスを探してアクセスすることができ、しかも患者の母国語で診療を受けられ、その費用は直接相手に支払える。そんな時代を切り開こうとしています。それを「医療の分散型グローバル市場」と呼んでいます。
遠隔医療で行われるのは医師による診断、セカンドオピニオンの提供、治療の計画・準備などです。日本の医療水準は世界でも最高レベルなので、日本在住者は過疎地の離島や山奥にでも住んでいなければ必要性を感じないかもしれませんが、医療施設も医師も薬も不足する途上国では、先進国ならすぐ治るような病気で命を落とす人がいます。そんないまだに世界に存在する医療格差を、通信ネットワークや仮想通貨のブロックチェーン技術のようなITを活用した遠隔医療によって埋めることで、人類全体の健康・福祉に貢献するという目的が、WELLにはあります。
WELLがネットワークする世界の医療従事者は医師だけとは限りません。薬や検査や栄養やリハビリの専門家や、心の健康に関わるセラピストや心理学者など、「ヘルスケア専門家」を幅広く含んでいます。
WELL(ウェル)のプラットフォームはすでに一部がリリース済
仮想通貨WELLは「ERC20トークン」で、技術的なベースはイーサリアムのブロックチェーンとスマートコントラクトです。たとえば診療費の支払いで仮想通貨のWELLが使われると、地球の裏側からでもほんの数分で届き、医療の提供側にとっては制度が異なる遠い国からの報酬未払いが起きるリスクがなくなります。WELLにはカルテなどの患者情報や請求書などがスマートコントラクトでひもづけされ改ざんや不正はできません。セキュリティ性が高いブロックチェーンの技術により患者のプライバシーは固く守られます。WELLの構想は、仮想通貨の基本技術があってはじめて成り立つものです。
発行量の上限は15億WELLで、その40%の6億WELLをトークンセールで供給します。それ以外の40%はプロモーションなどのためのリザーブ分。20%は事業体保有分で、その4分の3には1年間のロックアップ(売却凍結)がかけられています。
2018年1月1日に始まったトークンプレセール(ホワイトリスト/パブリックセール)は活況のうちに4月15日に終了し、最低発行量(ソフトキャップ)も早々とクリアしました。ICOトークンセール(クラウドセール)は2018年4月16日から5月15日まで行われていて、公式サイトで募集しています。ただし日本語版のサイトは翻訳が不十分なので英語がわからないと購入が難しく、ホワイトペーパーは英語版しかありません。
参加可能通貨はビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、ビットコインキャッシュ(BTH)、ライトコイン(LTC)、法定通貨(Fiat/米ドル、ユーロ、日本円など)の5種類。ウォレットはMyEtherWalletでも仮想通貨取引所のウォレットでも送金できます。最低購入単位が100WELL=10米ドルなので、日本円で1,000円少々の小口から参加できます。トークンセールは早期購入ボーナスが付与されますが時期によって付与率が変わり、4月16日は25%、4月17~22日は20%、4月23~29日は10%、4月30日~5月6日は5%で、5月7~15日は付与率0%です。なお、配当は設定されていませんから、何かの病気でWELLのプラットフォームで医療サービスを受けたい人以外は、長期保有のメリットは乏しいと言えます。
WELL(ウェル)は2020年中に月100万件の診療実績をあげるという数値目標
ICOで調達した資金はプラットフォーム開発最優先で投入され、他には人件費、マーケティング・広告費、人材採用費用、ビジネス開発費などにあてる予定です。ICO後にプラットフォーム開発が本格化しますが、すでに一部は2017年中にテスト版としてリリースされ、WELLユーザーとして登録した1万600人以上の医療の専門家と1万3,000人以上の患者を結んだ接続テストが行われています。その後のリリースは段階的に行われ、全面リリースは2019年以降とアナウンスされています。投資家が気にする仮想通貨取引所への上場についてはすでにいくつかの取引所と交渉中で、ICOが終了する5月15日前後には正式に発表される見通しです。
公開されたロードマップによれば、WELLは2019年中に医療保険を発売するアメリカの大手保険会社と提携し、日本、韓国、中国でビジネスパートナーとともに拠点を設立。2020年中にプラットフォーム上で月100万件の診療実績をあげるという数値目標を掲げています。東京五輪観戦で来日した持病持ちの外国人が、WELLのプラットフォームで本国の医師から指示を受け、調剤薬局で薬を買う姿が見られるかもしれません。
WELL(ウェル)の理想はすばらしいが、そこに至る道は険しい
WELLの「グローバルなネットワークを利用し、地球上のどこにいても365日、24時間、世界最高レベルの医療サービスを受けられる」という理想はすばらしく、ICOに臨む投資家の大部分は共感をおぼえることでしょう。「Foundico」「Foxico」などICO評価サイトの点数も上々です。しかしその崇高な理想に至る道には、乗り越えなければならない数々の障害が待ち受けています。
たとえば英語が話せない人はどうするのでしょう。WILLに集まるヘルスケア専門家は「複数の世界言語を話す」そうですが、話すのが日本1国だけの日本語は望み薄です。患者の母国語への自動通訳サービスはまだ開発途上です。それ以外にも、外国の医師が患者の過去の病歴やカルテや検診データを照会できるよう厚生労働省のような政府機関から協力が得られるのか、医師法や医師免許など国内法との調整はどうするのか、公的な健康保険や民間の医療保険は使えるのか、一人の「名医」に世界から診療希望が集中し、予約をとって患者が待っている間に症状が手遅れになる恐れはないのか、外国の医師から日本では未承認の薬を使うように言われたらどうするのかなど、問題点や疑問点は山積みです。
ホワイトペーパーには「病院に長時間とどまらなくていいのは患者にはメリット。なぜなら、そこは感染症など他の病気にかかったり、病気以外の危険にもさらされる場所だからだ」という文言がありますが、途上国にはそれなりの事情はあるとはいえ、これには賛否両論がありそうです。
ビジネスモデル転換で「約30%の価格低下を引き起こす可能性がある」というコストダウンが途上国でメリットになるとうたいますが、うらはらに「市場の世界化」で需給バランスが崩れ、人気が集中する名医の診療費が高騰し、先進国でも一部の富裕層しか恩恵を受けられない可能性もあります。そもそも、患者の検査データはわかっても直接手を触れることはできず、注射も手術も処置も行えない遠隔医療には限界があり、精神科や心療内科のような一部の分野以外ではそれほどひろがらないだろうという見方もあります。
「伝統的なヘルスケアモデルを破壊し、置き換える」とホワイトペーパーでは言いますが、将来の医療が、本当にWELLが目論む通りになるかどうかを予測するのは困難です。投資家は「医療、ヘルスケアは堅実だから」といったイメージや、「社会的意義のある立派なICOだ」という称賛の声にとらわれず、クールに熟慮して可否を判断すべきでしょう。