BTCチャートのトレンド転換とイスラム圏の仮想通貨投資参加の可能性
3~4月初旬にかけてビットコイン(BTC)の価格は、70万円台後半で推移することが多く、チャートのテクニカル分析でも「80万円」が上値のレジスタンスライン(抵抗線)となっていました。コインチェック事件後に暴落したビットコインは、長らく80万円台に上昇することができませんでしたが、4月13日にローソク足が大陽線を描いてあっという間に80万円を突破しました。BTC価格は20日現在も90万円に近い水準を保ち、上昇トレンドに転換してきています。BTC価格がボリンジャーバンドの2σに接したことから、今度は80万円がサポートライン(支持線)として機能しやすくなっています。BTC急上昇によって、ショートポジション(売り)が損切りさせられて減少したことも併せて考えると、ロングポジション(買い)を持ちやすい「上昇トレンドへの転換」が示唆されています。
ビットコインをはじめとする仮想通貨のファンダメンタル要因として注目されているニュースも幾つかあります。もっとも大きなニュースは、「イスラム法学者がビットコイン(仮想通貨)はイスラム法に違反していないとの解釈を示したニュース」です。イスラム社会で権威のあるイスラム法学者が、ビットコインはイスラム法に準じていると発言したことで、「世界人口の約24%(約18億人)」を占めるムスリム(イスラム教信者)が仮想通貨市場に参加できる可能性が出てきました。
ビットコインなどの仮想通貨は投機性が高いために、「ハラルではない(イスラム法において合法ではない)」と見なす法学者も多かったのですが、ここに来て仮想通貨は金利を受け取る金融商品ではないとのことから「ハラルである」とする法学者も出てきているのです。
仮想通貨市場に再び追い風となりそうなファンダメンタル要因
1992年の英国の「ポンド通貨危機」で、イングランド銀行に売り浴びせを仕掛けて莫大な利益を上げたことで知られるのが、世界三大投資家の一人とされるジョージ・ソロス氏(総資産は約2兆8,476億円)です。世界三大投資家とは、ジョージ・ソロスとウォーレン・バフェット、ジム・ロジャーズの三人を指しますが、三人のうちで最も早く仮想通貨市場にファンドで参戦する意思決定をしたのがソロスなのです。「オマハの賢人」として知られ世界第三位の富豪でもあるウォーレン・バフェットは、ビットコインなどの仮想通貨にかなり懐疑的で、「仮想通貨に本質的な投資価値はない・バブル景気であり一般論として良くない結果を迎える」としていますが、ジョージ・ソロスはブロックチェーン研究の専門チームを発足させ、仮想通貨投資ファンドを立ち上げるのではないかと報じられています。
ソロスの名言に「市場は常に間違っている(市場は常に買われ過ぎか売られ過ぎなのだ)」があり、ソロス財団の投資ファンドが参戦してきた場合、得意の「空売り手法」で市場のボラティリティー(価格変動幅)に激しい揺さぶりをかけてくる可能性が言われています。仮想通貨市場に「イスラム市場(潜在的な約18億人の市場)」が加わるかもしれないビッグニュースだけではなく、日本国内ではマネックスグループによるコインチェック買収、Yahoo!やLINEの仮想通貨交換事業への参加といった「取引所再編の動き」も歓迎されています。大手IT事業者の参加で、「潜在的な個人投資家の参加率」が高まるだけでなく、金融庁が行政処分(営業停止処分)を下した2社のような「セキュリティー・顧客保護・マネロン対策(犯罪と脱税の対策)が不十分な会社」を市場から退場させることができるからです。
仮想通貨が“ハラム(禁忌)”であると判断されるリスクもあるイスラム金融
イスラム圏の金融の仕組みや価値観は、シャリーア(イスラム慣習法)の宗教規範によって制限を受けているので、資本主義(自由経済)の金融とはかなり異なる部分があります。ムスリムは、イスラム法に反する飲食物(豚肉・お酒)さえ「ハラム(違法・禁忌)」であるとして口にしようとしませんから、イスラム圏の「莫大なオイルマネー(総額数十兆円以上の規模)」の一部が仮想通貨市場に流れ込むためには、イスラム教の権威ある法学者が「仮想通貨はハラル(合法)である」と論理的に保障する必要性があるのです。コーランとイスラム法に準じた金融取引のことを「イスラム金融」といいますが、イスラム金融には幾つかの前提と制限があります。
イスラム金融の大前提は「利子」の受け渡しをしてはならないということです。そして、コーランの教義で禁じられシャリーア(イスラム慣習法)にも反する「お酒・豚肉・賭博・ポルノ・武器などの関連事業」には投資することができないというイスラム金融の自主規制があります。現実のイスラム金融には、非イスラム圏(資本主義圏)と同様の「株式(投資ファンド)・保険・債権・住宅ローン」などもあるのですが、コーランやシャリーアに違反しないように複雑な理屈や仕組みを採用しているのです。簡単に説明すれば、物品の売買価格の差額やレンタルのリース料、利子ではないとする配当金などを上手く組み合わせて、「実質の利子(金利)」として機能するようにしているのです。
ビットコインなどの仮想通貨はイスラム法ではハラル(合法)なのか?
イスラム金融の市場規模は少なく見積もっても約1~2兆ドル以上の規模があり、イスラム人口急増の影響で市場規模は毎年10~20%以上もの驚異的な成長率があると言われています。シャリーアのイスラム法に照らして、ビットコインなどの仮想通貨は「ハラム(禁忌)」だから売買してはならないとするイスラム法学者も多いのですが、その理由は「イスラム金融ではマネーゲームのような投機は賭博(ギャンブル)に準じるもので禁止されている」からです。仮想通貨の本質が「通貨」なのか「金融資産」なのかは今でも議論がありますが、イスラム法では「通貨で通貨を稼ぐマネーゲーム・賭博に近い投機」は基本的に禁止されています。
イスラム法に準じるイスラム金融では、金融経済(マネー経済)に対する「実体経済の重視・優位」が前提になっています。金・銀・プラチナ・塩などの「コモディティー(形のある一般的な財物)」であれば、イントリンジックバリュー(本質的価値)があるとして投資対象として認められています。しかし、「通貨」に対する投資では「価値の裏づけとなる金など実物」か「政府・社会の承認」が必要とされており、仮想通貨は価値の裏づけや政府の承認が弱いと考えられやすかったのです。
しかし、ジャカルタのシャリーア法アドバイザーオフィサーであるムフティー・ムハマッド・アブ・バカー氏の論文で、「ドイツでは仮想通貨は通貨として認められている・米国では支払手段として価値の裏づけが強まった・仮想通貨に金利はない」等を根拠に、「特定条件下においてビットコインはハラル(合法)になり得る」と結論づけられたのです。東南アジア・中東湾岸諸国のイスラム圏において、仮想通貨売買がハラルとされれば、オイルマネーをはじめ莫大な投資マネーが流入する可能性が出てきました。
Yahoo!とLINEの仮想通貨交換事業新規参入で、個人投資家は増えるか?
仮想通貨市場が盛り上がりそうなニュースとしては、検索ポータル大手のYahoo!、メッセンジャー大手のLINEが仮想通貨交換事業者として新規参入するニュースもあります。LINEは金融関連会社「LINE Financial」を立ち上げ、既に金融庁に仮想通貨交換事業者として登録するための審査申請を行っています。LINEはメッセンジャーサービスで培ったセキュリティーのノウハウを活用しながら、ブロックチェーンの研究開発を進め、仮想通貨をはじめとするフィンテック業界でイニシアチブを取る姿勢を見せています。国内約7,000万人以上のユーザーを抱え、決済サービスのLINE Payでは年間4,500億円の取扱実績もあるため、仮想通貨事業を始めれば100万人近い規模の新規参加者を集められる可能性があるでしょう。
日本最大のポータルサイトと検索エンジンを運営するYahoo!も仮想通貨事業に非常に意欲的であり、100%子会社のZコーポレーションを通じて、「ビットアルゴ取引所東京」に資本参加(実質運営)することを決定しています。Yahoo!も年間4,000万人以上の利用者を抱えており、ニュースやオークションなど関連サービスが無数にありますから、仮想通貨広告をユーザーに上手くリーチさせれば、大勢の個人投資家の新規参入を促せるでしょう。ビットアルゴは現時点で既に関東財務局に仮想通貨交換業者として登録されていますから、登録申請の手間がないメリットもあります。Yahoo!資本のビットアルゴの実際の仮想通貨売買のサービス開始(名称はビットアルゴから変更される可能性が高い)は、2018年秋を予定しており、今年後半から仮想通貨市場が再燃してくる期待が持たれています。