4月3日、国内ネット証券の最大手であるマネックス証券がコインチェックの買収を計画していることを発表しました。両社からの正式な発表は今週中にも行われる見通しです。仮想通貨事業への参入を目指す企業は昨今爆発的に増えており、金融系では既に三菱UFJフィナンシャル・グループといった巨頭も仮想通貨を開発しています。
これまで参入を表明していた主だった企業は、ソフトバンクやヤフー、サイバーエージェント、DMMなどの並み居るIT企業だったのですが、ようやく本業である金融各社も本腰を入れてきた、といった印象を受けます。
今回のニュースを受けて、4月3日の国内株式市場ではマネックスグループの株価が高騰。市場ではこの買収を前向きに捉えられているようです。ただし、コインチェックは訴訟を抱え、金融庁の登録業者でもない企業。相当なリスクであるとする声もあります。今回、マネックスの買収劇を紐解き、ネット証券の巨人が仮想通貨事業に参入することの意味を説いていきます。
買収額から考えるマネックスのメリットは?
今回の買収額は数十億円の見込みと言われています。マネックス証券の親会社であるマネックスグループがコインチェックの株式の過半数を占める事になります。現在訴訟のリスクを抱えているコインチェックですが、その月間取引額は数兆円とも言われており、手数料をかけ合わせただけでも月間の売上高は数百億円に登ると試算されています。
米国大手の仮想通貨取引所であるPoloniexが2月に買収された金額が約430億円、また英国大手の仮想通貨取引所のBitstampの買収額が約440億円であることを考えると、この数十億円の買収額は将来性を考えるとかなり割安の水準であると言えます。
マネックス側が得られるメリットは大きく三つあります。一点目は、コインチェックの顧客基盤やシステム・技術者、運営ノウハウなどを取り込む事にあります。マネックスはかねてより仮想通貨交換業への参入を表明していましたが、コインチェックの通貨流出を受け、金融庁は監視を強めており、新規に登録申請すれば年単位の時間がかかることは確実です。
仮想通貨事業はまさに生き馬の目を抜くが如く移り変わりが早く、競合も次々に参入してきているので、すでにプラットフォームが出来上がっているコインチェックを買収することで、事業形成にかかる時間を大幅に削減することが出来ます。
二点目は、そのビジネスモデルの収益性の高さです。コインチェックがネム流出時に補償金の約466億円を用意できたのも、収益性が高いことに起因します。IT企業の雄がこぞって仮想通貨事業に参入するのも、そもそも収益性が高く、大きな利益が見込めるからです。
三点目は、マネックスがこの買収により起死回生を図ろうとしている点です。ネット証券のトップを常に走ってきたマネックスですが、経営の特色を強く出す競合との収益差は広がりつつあり、昨今では悪戦苦闘しているのが現状です。
マネックスも海外戦略が実を結びつつありますが、CEOの松本氏が昨年10月に再びマネックス証券の社長の座に舞い戻り、経営のテコ入れを始めたのは昨今の業績鈍化が原因であるという声もあります。
マネックスグループは昨年10月にはブロックチェーンの活用をしていくことを既に表明しており、もともと仮想通貨事業に興味は示していました。12月には新会社を設立し、仮想通貨交換業へ本格的に参入しようとしているフェーズでした。
今回の買収はマネックスにとって非常に「良い買い物」となる可能性が高いです。すでにブロックチェーン技術に参入しているソフトバンク系列のSBIホールディングスに対抗するための戦略的買収であるとも言えます。
コインチェックのNEMハッキング事件後の流れ
コインチェックは今回の買収の情報が出る前から、様々な企業との資本提携の噂が流れていました。約500億円のNEMが流出した後、3月に入り、顧客資産の返金も行い、市場からの信頼回復を目指していました。
しかし、金融庁の認める交換業者には登録されず、現在も「みなし業者」として運営しています。送金先を追跡できない匿名性の高い仮想通貨である「モネロ」「ダッシュ」「ジーキャッシュ」「オーガー」の4種類の仮想通貨の取り扱いを取りやめるなどの施策も行い、不正利用される可能性を摘み取ってきました。
ですが、今回金融庁はコインチェック単独での営業継続は困難であるとの判断を下し、「経営管理体制の抜本的な見直し」を求めていたところでの、マネックスによる買収提案です。
コインチェックが正式な仮想通貨交換業者として認められるには、経営体制を刷新する必要があります。今回の買収の焦点は、マネックスにより経営体制の立て直しと、コインチェックの経営陣の行く末となります。
コインチェックの経営陣はどうなるのか?
今回の買収提案で注目を集めているのは、コインチェックの経営陣の趨勢です。マネックス側はコインチェックCEOの和田氏とCOOの大塚氏を取締役から退陣させ、マネックスから経営陣を派遣する予定であるとしています。ただし、株主としては和田氏も大塚氏も残る予定なので、その後どうなるかは要注目です。
そもそも和田氏はマネックスグループCEOの松本氏と既知であり、経営支援を要請していたという噂もあります。今回の買収案は松本氏自らが提示したということもあり、利害の一致以外にも思惑があったのかも知れません。
コインチェックは再建が可能なのか?
この買収が現実になれば、仮想通貨市場の信頼回復に繋がるのは間違いないでしょう。ただし、コインチェックが投資家と市場に与えた傷は深く、失った信頼を完全に取り戻すのは容易ではありません。取り急ぎ、金融庁ひいては投資家から求められるのは、経営体制や管理体制の再構築です。
また、買収後に顧客が引き止められるのかも鍵になってきます。仮想通貨取引所が数多くある中で、わざわざコインチェックを利用する理由が現在ほぼないからです。ユーザーが離れない様な施策を打ち出していく必要があるので、今後の方針に期待したいところです。
また金融庁の認可に関しては、これまでマネックスが積み上げてきた信用がありますから、上記が解決されればそこまで困難なことではないと考えます。今回のコインチェック再建に関して、じつに多くの企業が関わって来たので、マネックスには大きな期待が寄せられます。
マネックスに寄せられる期待と不安
コインチェックとマネックスの今後について、ますます注目が集まることは必至ですが、ネットではすでに期待と不安が入り混じった声が散見されます。
コインチェックの経営陣である和田氏と大塚氏は、日本のフィンテックの未来を背負う新世代として注目を浴びてきましたが、この度大手企業に買収されることにより、新世代から旧世代へのバトンタッチであるとも揶揄されています。
一方で、これまでの実績があるマネックスが市場に参入することで、業界全体が安定するだろうという声もあります。前述の通り、破綻ではなく、再建のために様々な関係者が力を合わせたのは、仮想通貨業界の未来を明るく照らしている予感もします。
再建への道のりは決して楽ではないですが、業界全体で仮想通貨業界を盛り上げていってほしいものです。そのためにマネックスには大きな期待が寄せられます。今後の動きに注目が寄せられます。