2018年3月、アルゼンチンの首都・ブエノスアイレスにおいて行われたG20で、仮想通貨に関する議論が行われました。世界中の投資家たちが注目するこの会合で、主に話し合われたのはやはり仮想通貨の規制強化で、マネーロンダリングへ利用されているという現状もあって本格的に話し合われています。もちろん、G20ではマネーロンダリング対策以外のことも議題に上がりましたが、一体どのような内容だったのでしょうか。
マネーロンダリングに用いられる仮想通貨
仮想通貨について、G20ではマネーロンダリングが最も重要な課題として取り上げられました。マネーロンダリングとは資金洗浄のこと。違法な手段で不正に入手した現金や仮想通貨を、数々の取引所や匿名口座を介して何度も動かすことでお金の流れを不明なものとし、結果的に犯罪で入手した資金がどこに行ったか解らなくするというものです。
マネーロンダリングで手に入れられた資金は、さらに大きな規模の犯罪に使われる危険性があり、テロ組織に流れているであろう可能性も否定できません。最近では北朝鮮によるものとされているハッキング被害も増えていることから、ミサイル実験などを行う資金として、仮想通貨とマネーロンダリングを利用しているという話まで出るほどです。実際のところ、不正な採掘スクリプトで稼いだ報酬を、平壌にある金正日総合大学へ送る仕組みを構築していたことが確認されています。
また、あまりに大きな話題となったコインチェックの仮想通貨流出事件でも、流出させた犯人は手に入れた仮想通貨をあらゆるルートで洗浄。ついには、匿名性の高いネットワーク空間であるダークウェブに仮想通貨交換所を開設し、相場より安い価格で売り出してビットコインなどに交換したのです。盗んだ仮想通貨は見ず知らずの投資家へ渡り、犯人は見事にマネーロンダリングを成功させたため、まだ足はついていません。
仮想通貨を監視はするものの規制は後回し
こういった事件も実際に発生し続けているため、当然G20でも監視は必要であるとの認識が示されました。しかし、安易な規制は仮想通貨の暴落などを招き、経済を混乱させてしまう恐れがある等の理由から、規制強化は見送られる方針となったのです。ただし、監視の過程で対策が必要になれば、各国に要求していく構えも見せています。
G20に参加した国を見ていくと、フランスやドイツは「特別な規制が必要」との姿勢です。銀行による仮想通貨を用いたローンや預託、そして一般市民に対し、仮想通貨へ投資するよう呼びかけることを禁止するなどの措置を提案していました。
この提案に対してイタリア中央銀行の総裁は賛意を表明しており、世界的な基準を作るためにも、証券監督者国際機構などといったグローバルな機関と連携し、規制に取り組んでほしいと語っています。その一方で、まだまだ未熟なセキュリティ面であったり、仮想通貨市場が統合とは程遠かったりする現状を鑑み、世界的な統一基準を設けるのは時期尚早である、との意見も出ているのです。
ちなみに、アメリカや日本は規制に否定的な立場をとっています。その背景にはリーマンショックが関係しているとも言われているようです。日本銀行の黒田総裁は、確かにマネーロンダリング対策のため新たな規制はいずれ必要だとしつつ、ブロックチェーンなどの最先端技術が経済に与える影響も無視できないとしました。プラスとマイナス両面を考える必要がある、との考えですね。
本格的に始動するマネーロンダリング対策
国ごとでの具体的な方針は示されなかったマネーロンダリング対策ですが、国際基準を定める機関である「金融活動作業部会」に対策強化を依頼するという前進はありました。むしろ、各国が思い思いの対策を講じるのではなく、国際機関に一定の対策を行わせる今回の動きは、これ以上ない前進だったと言っても過言ではないでしょう。仮想通貨の性質上、1つでも規制の甘い国があれば、そこを突破口にマネーロンダリングを許してしまうからです。
マネーロンダリング対策として最も重要とされているのは、取引所に口座を作る際の本人確認。つまり銀行と同じように、口座から一個人を特定できるよう改善を求めることになります。例のコインチェック事件では、NEM財団が盗まれた仮想通貨に目印を付け追跡していましたが、仮に成功していても犯人が匿名口座から引き出せた以上、初めから特定など不可能だったのです。
また、仮に本人確認を導入したとしても、その質が重要になってきます。偽造した書類等が通ってしまう程ずさんな本人確認で、口座が作れてしまっては意味が無いということです。この辺りは、取引所や交換所の努力が求められますね。こうした対策さえしっかり講じられれば、仮想通貨の取引は技術的に全て追跡できる性質を持つため、マネーロンダリングなど不可能と言える環境になることでしょう。
仮想通貨を通貨として認めない動き
G20での話し合いにおいてもう1つ気になったのは、「仮想通貨を通貨として認めない」との結論に至ったことです。もう少し具体的に言うと、仮想通貨は暗号資産という位置付け、つまり実物資産として金を信用・保有するように、インターネットの世界を信用して資産を保有するためのものと定義されたのです。
こうなった理由は主に3つあると公表されました。1つ目は、仮想通貨が交換・決済手段としての役割を果たせていないこと。特にビットコインなどは決済に数時間以上もかかる有様であり、とてもリアルタイムな決済手段としての運用には堪えられていません。2つ目と3つ目は価値に関する内容で、要約すると現在のように暴騰や急落を繰り返すようなものは、とても通貨として認められないということです。
世界的に見て普及率がまだまだなのも大きな問題です。仮に今すぐ仮想通貨の価値が安定したとしても、それがお店で使えないのであれば、とても通貨としては成り立ちません。また、この点はマネーロンダリングの話にも繋がってきますが、匿名性が高すぎるのも通貨として認められない一因です。せめて、盗まれた全ての仮想通貨を追跡可能な技術は不可欠かと思われます。
最も難しいのは、ある同じ1種類の仮想通貨が世界中で扱えてしまう点をどうまとめるかです。多数の国が同じ通貨を利用することや、始まりは決済用仮想通貨だった点で、EUのユーロは先駆けと言えますし、参考になることはあるかもしれません。しかし、30ヶ国にも満たないEUの通貨をまとめるだけで何年もかかっているのに、仮想通貨が世界共通の通貨として使える日はそう簡単にやってくるのか、甚だ疑問に思われる部分です。
終わりの見えない課題が浮き彫りになった仮想通貨
結果的に今回のG20は、仮想通貨に解決の目処すら立てられないほど前途多難な課題がいくつもあることを、浮き彫りにして世界に知らしめた会合だったと言えるでしょう。世界中が一斉に規制へ乗り出せばすぐにでも収束しますが、一方で長引く動きを見せればいつまでも終わらない課題です。特に、マネーロンダリングを国ぐるみでやっていると疑われる北朝鮮は、規制の要請に応じないと考えられます。
では、このまま世界統一の規制をまとめられないままなのか、はたまた規制を設けなくともマネーロンダリングを防げる新技術が登場するのか。先のことは全く見通せませんが、今はとにかく動向を注視していきたいところです。