G20などの大きなイベントごとも落ち着き、「ネガティブ材料が出尽くした」などといわれている市況にも関わらず、仮想通貨全体は相変わらず不調が続きます。2月の仮想通貨大暴落の水準までは落ちず持ちこたえてはいるものの、上値が重く、「ガチホ」勢の方々にとっては心地のよくない相場が続いている状況といえるでしょう。
その中でも、主要仮想通貨の中でも落ち込みが目立つうちの一つが「イーサリアム」。ビットコインが2017年12月に最高値を付けたのち、今年は同じ水準までは回復できなかったのに対し、イーサリアムは年明けに最高値を更新し続け、一時期には1ETH(イーサリアムの通貨単位)=18万円という価格を記録したにも関わらず、この記事が書かれている4月初旬には4万円台前半という、最高値から見ると1/4未満という下落幅を見せています。
なぜこのような動きをしたのか。イーサリアムは今後どうなっていくのか。今一度イーサリアムの特徴を整理した上で、考察していきたいと思います。
イーサリアムの概要と特徴
ひとえにイーサリアムというと、「ビットコインに次ぐ2番目(※変動あり)の『仮想通貨』」というイメージを持たれている方も少なくないと思います。
そういった理解で、概ね支障はありませんが、厳密に言いますとイーサリアムというのは開発のプラットフォーム、もしくはそのプロジェクトを指し、そのプラットフォーム上で用いられている仮想通貨が「Ether(イーサ)」と呼ばれていて、取引所で購入することが出来ます。
ブロックチェーンの技術をアプリケーション開発のプラットフォームに応用するという構想を、当時19歳であったヴィタリック・ブリテンが抱いたことがその始まりです。
開発のプラットフォームとして、その柔軟性で重宝するだけでなく、イーサリアムが持つ代表的な機能として、「スマートコントラクト」という、契約書のような機能を備えています。ブロックチェーンの改ざんが現実的に不可能という特性を活かすことで、契約の内容の保存といった行為を中央集権的な機関を介さずに実現したものとなります。
何故、今大きな下落を見せているのか 乱立するICOへの規制
近年、仮想通貨関連の「ネガティブニュース」として取り上げられたものの中の一つに、「googleやFacebookが仮想通貨関連の広告を規制」というトピックが取り上げられます。
これは主には、ICOなどの案件の広告を規制するという文脈での報道になりますが、仮想通貨全体に対する規制ととらわれ、市場から悪材料と扱われた側面が強いです。
ICOというのは会社を市場に上場させる必要のあるIPOに比べると、遥かにハードルが低く、ベンチャー企業や、個人が、何らかのビジョンを実現させるための手段として有効であるといえます。
出資者に対してトークンを発行することで、そのビジョンの実現の暁には単なる資金的なリターン以上の報酬を出すことが出来る可能性もあります。
また、株式に比べ、より小規模から出資を行うことが出来るため、資金が豊富でないけれど、プロジェクトを応援したい、という人々からもより裾野を広げて応援を募ることが出来る点も魅力的であると言えるでしょう。
トークンの発行のための開発基盤として、柔軟性を持つイーサリアムが用いられることも多く、「イーサリアムベースで開発」といったことを謳うICO案件も多く見られます。
一方で、高度な技術を必要とせず開発が行われてしまうICOでは詐欺に近い、もしくは、そのもとといった案件も数多く見られます。壮大なビジョンや可能性をうたったり、知識のない素人に対し、かつてのビットコインの上昇の夢を見せ、「出資すれば儲かる」といったセールストークで資金を集め、実際は何も行わないような案件です。
最近では、イーサリアム含む仮想通貨全体の不調から「既存のコインはもう終わり」といった不安を煽る形で詐欺コインを売りつけるような案件も出てきているようです。
今回発表された規制は、乱立するICOや、それに伴うリテラシーの低い消費者が詐欺的な案件に引っかかってしまうことを懸念しての施策であると言えます。仮想通貨全体の暴落や、安易な広告が規制され始めたことにより、悪質なICO案件が淘汰されていくのは、長期的に見ると健全であるべき姿に近づいていると言えます。
しかし、短期的にはICOのために購入されるビットコインやイーサリアムをはじめとするアルトコインから資金が引き上げる、ということを指しますし、詐欺のようなものも含め、仮想通貨が開発されるプラットフォームとして使われているイーサリアムにとって、ICO案件が減る、ということはイーサリアム需要が短期的に減少することを表します。
これが、イーサリアムが他の仮想通貨に輪をかけて下落が目立つ一つの大きな原因であると言えるでしょう。
今後、どうなっていくのか。「天才」考案者のコメントから読み解く
このような、ホルダーにとっては心地よくない価格で推移しているイーサリアムですが、イーサリアム開発者のヴィタリック・ブリテンは非常に冷静なコメントを行っています。
簡単に纏めるとイーサリアムのような「新しい技術が受け入れられるには時間がかかる」「時間がかかれば、その分サービスは良いものを作ることが出来る」といったものです。
現在のこの市況はイーサリアムの価格上昇により最も大きな恩恵を受けることが出来る創設者にとってはただのホルダーよりも遥かに心地よくないものであることは想像に難くないですが、にもかかわらず、きわめて冷静、かつユーザー目線の発言を行っています。
既存の金融の枠組みに比べ、20代、30代といった若年層の活躍が目立つ仮想通貨業界ではありますが、時価総額2位の仮想通貨のイーサリアムの創設者、20代前半の若さでこれだけ達観した目線で物事を考えている彼は、やはり、天才であると言えるでしょう。
2017年、ヴィタリック・ブリテンが死亡したというデマが流れ、イーサリアムが一時的に暴落するという滑稽な事象がありました。しかし、これは見方を変えるとイーサリアムという通貨自体の信用が、彼自身のビジョンや能力に裏打ちされていることを象徴する出来事であったともいえるかもしれません。
短期的な市場環境よりも、本当に信じるべきもの
低迷する仮想通貨の中でも、不調が目立つ仮想通貨の一つであるイーサリアムでしたが、その要因の一つが、長期的に見ると仮想通貨業界全体を健全化する流れの中で、イーサリアムのように一時的な悪影響を受ける仮想通貨がある、という一つのケーススタディととらえることも出来ます。
また、そのような時、真に注目すべきは、目先のチャートではなく、創設者や、その周辺、仮想通貨の上昇で最も利益を得られるような人々が自身の目先の利益にとらわれず、長期目線、ユーザー目線で物事を考えているかどうかです。
仮想通貨には不動産や株式、外貨と違い、その価格を裏打ちするものがなく、市場のニーズだけで価格が決まる「金融商品」です。(良い悪いにかかわらず、現状はそのような扱いを受けている点を否定するのは難しいでしょう。)だからこそ、その中心となるコミュニティがしっかりしているか、といったことは技術的な良し悪し以上に重要視すべきポイントなのではないでしょうか。
そういった意味では、イーサリアムは将来性の高さを改めて評価できるというのが、筆者の見解です。イーサリアム含む仮想通貨を保持する、しない、または応援する、しないに関わらず、仮想通貨に対して資金を投入するという選択を行うにあたって、また、購入する仮想通貨を選定するにあたって、重要な視点です。