ICOによる2018年の資金調達額が3月時点で2017年を超える
ICO(Initial Coin Offering:新規仮想通貨公開)とは、ブロックチェーンをはじめとする仮想通貨関連技術を利用した「トークン(代理貨幣)」を発行して資金調達する手段のことです。ICOは証券会社・証券取引所のような第三者の仲介機関(審査機関)を介在させずに、自社独自のトークンを発行することで、そのトークンを「実質的な有価証券(株券)」のように運用して販売することで資金を調達することができます。
ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨も、ICOで発行されるトークンの一種として解釈することができますが、ビットコインはICOのような発行主体となる企業・集団(個人)が存在しない所に違いがあります。ビットコインが最終的には「新しいデジタル通貨=送金・決済・価値保存の手段」として普及することを目的にしているのに対して、ICOのトークンの多くは、飽くまで「発行主体(企業・個人・プロジェクト)の資金調達」を目的にしています。
2017年のICOによる資金調達額は「約50~55億ドル」とされていますが、2018年は第一四半期(1~3月期)の段階ですでに「約63億ドル(約6,800億円)」がICOによって調達されていると仮想通貨関連メディアのコインデスクが報じています。このペースでICOによる資金調達が進むとすると、単純計算で2018年度のICO資金調達額は「約200~250億ドル規模」という日本円で約2~3兆円規模の途轍もない数字になってきます。
ただ第一四半期のICOによる資金調達には、大手コミュニケーションアプリ会社・テレグラムの「約17億ドル分の大型ICO」が含まれているので、今後のICO資金調達額の伸び率はやや鈍化するかもしれません。ICOで発行されるトークンには一切の保証・保護制度がなく、トークン購入は完全自己責任で行われているのですが、詐欺的なICOも横行していることから、世界各国で「ICOの規制強化」が始まっています。
ICO(新規仮想通貨公開)とIPO(新規株式公開)の違い
ICO(Initial Coin Offering:新規仮想通貨公開)は、「クラウドセール・プレセール・トークンセール」と呼ばれることもあります。ICOはトークンやコイン(独自仮想通貨)を購入する投資家保護の仕組みがなく、まだICO関連の法整備も追いついていないことから、世界各国の政府が投資家保護・詐欺防止のための規制を検討しています。FacebookやGoogle、Twitterといった世界的な大手IT企業も、個人投資家(広告閲覧者)が詐欺的広告の被害に遭うリスクと広告掲載の道義的責任を考えて、「仮想通貨・ICO・バイナリーオプションに関連する広告」を一律に規制する方向にシフトしています。しかし、ICOにはIPO(Initial Public Offering:新規株式公開)にはない「発行主体(企業・個人・事業プロジェクト)にとってのメリット」が多くあるため、スタートアップ企業(新興企業)のICOは増加傾向にあるのです。
従来のIPOは新規株式を発行・上場することで安定的な資金調達を行いますが、IPOを実施するためには主幹事となる証券会社の審査と協力が必要であり、基本的に「一定以上の売上・利益の規模(直近決算の確かな実績)」がないとIPOで資金を集めることはできません。いくら魅力的なビジネスモデルや画期的なプロジェクトのアイデアだけがあっても、IPOで資金を集めることは簡単ではなく、実績・時間・労力の面で「高コストな資金調達手段」なのです。
その分、IPOはICOと比べて「一定以上の稼げる力のある企業」しか株式を発行できないという安心感や安定性があります。仲介機関の審査抜きで「独自のトークン(コイン)」を発行するだけのICOは、誰でも簡単に資金を集められる可能性がある「低コストの資金調達手段」ですが、「トークン発行主体の稼ぐ力+未来のトークン価値」については何の保証もないのです。
発行主体にとってのICOのメリット・デメリット
ICOには主に「3つの目的・種類」があります。1つ目は、ICOのトークン発行による事業体やプロジェクトの資金調達です。2つ目は、ビットコインのように通貨としての普及と価値の上昇を目指すものです。3つ目は、HYIP(High Yield Investment Program)などの高利回りの投資対象やお金儲けのビジネスモデルを作るというものです。ICO詐欺で多いのは3つ目の「直接のお金儲けにつながる高利回り・ビジネスモデル」を謳ったものですので、「プロジェクト内容が明確でない+仮想通貨としての流通を目指すものではないトークン」には十分な注意が必要です。
発行主体(企業・プロジェクト)にとってのICOの最大のメリットは、「無名のベンチャー企業・実績の乏しい個人」であっても「優れたプロジェクトのアイデア」さえあれば、トークンでグローバルな環境で資金調達できる可能性があるという事です。ICOで資金を集めても、トークンは株式ではないので会社の所有権・経営権を奪われるリスクはなく、株式のような配当金を支払う必要がないのもメリットです。インターネットを介して世界中の投資家から直接の投資を募ることができます。
発行主体にとってのICOのデメリットは、「今後のICO関連の法整備によって大きな法的リスク・損失補填の義務」が生じる恐れがあるということ、人気・知名度がなければ全く資金が集まらないことが多いことです。「ICO実務の規範・慣習」がまだ確立していないので、発行主体が投資家に対してどのような形でリターン(見返り)を返していけばいいのかが分かりにくいこともデメリットでしょう。
ICOのトークンやコインを購入する投資家にとってのICOのメリット・デメリット
ICO(新規仮想通貨公開)は何の実績もない企業・プロジェクトが簡単に資金調達できて、そのトークンやコインを購入しても何の保証もない(すべて自己責任)と聞くと、発行主体にしかメリットがないように思えます。しかし、実際にはICOで発行されるトークンやコインを買いたがる個人投資家も多いわけですから、投資家にとってもICOのメリットは少なからずあるのです。個人投資家がICOのトークン購入に際して、絶対に認識しておかなければならないのは、「ICOのトークンはハイリスク・ハイリターンである(最悪、トークン評価額がゼロになる)」ということです。
ICOの最大のメリットは、ICOのトークンは株式と違って「議決権(企業の所有権・経営権)」が付与されないため、発行主体の企業・プロジェクトが会社乗っ取りを心配せずに「創業期に近い初期の段階」からトークン(コイン)を発行してくれやすいということです。スタートアップ企業では、「創業期の株」は創業者や初期メンバーしか保有していませんが、この企業が急成長して上場すれば創業期の株は「数十倍~数百倍(数千倍)以上の価格」になることもあります。個人投資家はスタートアップ企業(魅力あるプロジェクト)の最初期のトークンを「安い価格」で購入しておくことで、その企業・プロジェクトが後に大きく成長した時に、莫大な利益を手に入れられるメリットがあります。投資家にとってのICOのデメリットは言うまでもなく、無価値化する詐欺的なトークンを買わせられる事にあります。
今後のICOは「投資家保護・トークン発行の条件設定」の法整備が課題
ビットコインなどの仮想通貨が「非中央集権的なシステム」で自律的に運用されているように、トークン(独自仮想通貨)発行のICOも「権限のある中央管理者(証券会社・証券取引所などの第三者機関)」が介在していません。中央管理者が関与しないことで、事業者(発行主体)と投資家がP2Pの理念のように「ダイレクトなトークンやコインの売買取引」を低コストで行えるメリットがあります。一方で、ICOには株のIPOのような「発行主体(企業)の財務基盤のチェック+直近決算の裏づけ(売上・利益の数字的根拠)」が何もないので、個人投資家が無名の発行主体が実施するICOのトークンを購入することはハイリスクになります。
アメリカの上院銀行委員会の公聴会(2月)で、米証券取引委員会(SEC)のクレイトン委員長が「私がこれまで見てきたICOは全て有価証券であり、ICOには証券と同じような規制を設ける必要がある」と発言しています。今後、ICOがさらなる成長・発展を遂げて普及していくためには「ICOの法的ルールの整備による投資家保護」が必要になってくるでしょう。日本でも複数の登録取引所が連携して仮想通貨の自主規制団体として発足した「日本仮想通貨交換業協会」が、ICOで発行するトークンやコインについての「ガイドライン(自主規制のIPO要綱)」を作成する計画を立てています。これからのICO発展の方向性として、「法律レベルのICO規制」だけではなく「自主規制レベルでのトークン発行の最低条件設定」が重要になってきます。投資家保護が法律と自主規制のレベルで実現することで、今以上の数の個人投資家が、ICOで発行されるトークンやコインに対して「プロジェクト支援の目的(事業理念・ビジネスのアイデアへの共感)」で投資しやすくなるからです。