ビットコインは仮想通貨の種類の一つ

新聞やテレビで報じられるニュースは「ビットコイン」についてのものが大半を占めるので「仮想通貨=ビットコイン」だと思っている人がいます。しかし、ビットコインは仮想通貨の種類の一つです。

一般通貨とは全く違うもので、日本で使われる円、アメリカで使われるドル、ドイツやフランスで使われるユーロは、100円玉や1ユーロ硬貨のような金属製のコインも、1万円札や10ドル札のようなお札(紙幣)もあります。しかし、仮想通貨にはコインもお札も存在しません。コンピュータやスマホがつながっているネットの世界で、そこにお金が存在するとみなされて、モノの売買などに使われています。手でさわれるコインやお札のような「リアルな(現実の)」お金と違って、ネット上のお金は手で触れませんし、目にも見えません。そんな「バーチャル空間(仮想空間)だけに、あるものとみなされている」お金だから「仮想通貨」と言っています。

その中で、最も早くに登場した草分けが、ビットコインでした。ビットコインには、円の日本政府や日本銀行、ドルのアメリカ連邦政府やFRB(連邦準備銀行)、ユーロの欧州連合加盟各国やECB(欧州中央銀行)のような、発行元や流通を監督する管理者が、ありません。

ビットコインが初めて仮想通貨のブロックチェーン技術を確立

ビットコインだけが仮想通貨ではありませんではなぜ、一種であるビットコインが代名詞のようになったのでしょうか?最大の理由は、ビットコインが仮想通貨の基本的な技術を確立したからです。それは「ブロックチェーン・テクノロジー」と呼ばれるものでした。もし、円やドルやユーロのような一般の通貨を持っていてそれを利用したければ、両替(交換)しなければなりません。両替が必要なのは、テーマパークの中だけで使われる金券や、ゲームの中で使われるポイントと同じです。しかし仮想通貨は施設限定でもゲーム内限定でもなく、社会の中で幅広く、お金の代わりとして使われることを目指しているので、高い「安全性」が求められます。

たとえばテーマパークの金券は、誰かに偽造されても被害は施設内にとどまります。ゲームのポイントは、ネット上で誰かに横取りされてもゲームのプレイヤーが損するだけにとどまります。しかし仮想通貨は、偽造されたりネット上で横取りされたりすると、被害は何万円単位、場合によっては何億円単位にものぼりかねません。もしそんなことが起きたら、怖くて社会の中でそれは使われなくなってしまいます。偽造や不正を許さないような安全性を世界で初めて実現できたのがビットコインの「ブロックチェーン」の技術だったのです。そのため、ビットコインは代表選手のようにみられました。

仮想通貨のビットコインをきっかけに様々な情報管理が簡単に

ブロックチェーンとは仮想通貨の「取引台帳」のことで、円やドルやユーロなど一般の通貨との両替や、モノの売買などに伴う決済、通貨の受け渡しでは、電子的な「暗号」を利用して安全性を確保しています。ここではくわしくは述べませんが、データの偽造防止や情報と使う人や企業との正確な「ひもづけ」、不特定多数のコンピュータが分散して同じデータを処理し、もし1ヵ所が欠けても全体でシステムを維持し続けられるしくみなど、ブロックチェーンには第一線のコンピュータ技術者から見ても最先端をゆくような、優れた技術が揃っていました。そのため、ビットコインは「本命が登場した」と思われたのです。しかしブロックチェーンはビットコインだけが独り占めしているわけではなく、他の一般の通貨の取引でも、銀行のシステムでも利用することが可能な基本技術です。ブロックチェーンを利用して、ビットコイン以外の通貨も次々と生まれています。

ビットコインと大きな違いがある仮想通貨「MUFGコイン」

ビットコインだけが仮想通貨ではありません日本のメガバンク、三菱UFJフィナンシャル・グループは研究・実用化に熱心に取り組んでいます。今年5月から、三菱東京UFJ銀行が独自の仮想通貨「MUFGコイン」の実証実験を開始しました。そのシステムはビットコインと同様に「ブロックチェーン・テクノロジー」が使われています。とはいえ、MUFGコインにはビットコインとの基本的な違いが、いくつかあります。

まず、仮想通貨を発行し管理するのが「メガバンク」だということです。円を発行して管理するのは日本銀行ですが、「日銀は、つぶれるかもしれない」と信用を疑う人は、ほとんどいません。「三菱UFJフィナンシャル・グループは、つぶれるかもしれない」と信用を疑う人も、おそらくほとんどいないでしょう。20年前の1997年に日本でも大きな銀行がつぶれましたが、その後、大手銀行がつぶれる危険性は遠のきました。発行、管理するメガバンクの信用と安心感が、ビットコインとの大きな違いです。

もう一つの大きな違いが、一般通貨との交換レートが安定していることです。三菱東京UFJ銀行は「1MUFGコイン=1円」で交換レートを設定しています。それを「固定相場制」と言います。MUFGコインとドルやユーロとの交換レートは、円と連動します。ビットコインはそれとは全く違い、円、ドル、ユーロとの交換レートはどんどん変動します。それを「変動相場制」と言います。ビットコインの通貨単位は「BTC」ですが、ドルの交換レートは今年9月、中国政府が仮想通貨による資金調達を禁止したり、中国の取引所が交換を停止したりしたため、月初に1BTC=5000ドルを超えていたのが、一時1BTC=3000ドルを割り込んだことがありました。同じ月の間に交換レートが40%以上も下落するのは、東京、ロンドン、ニューヨークなどにある外国為替市場では、まずありえないことです。

なぜそんなことが起きるかというと、ビットコインの取引市場は参加者数も通貨の量も小さく、為替取引の「プロ」の投資家がほとんどいない上に、規制も介入も何もないからです。値動きが大きいと「ビットコインで、ひと儲けしてやろう」とギャンブルのような取引を仕掛ける人もうま味を感じて参加しやすく、そのためよけいに暴騰、暴落が起こりやすくなるのです。その点、MUFGコインは「1MUFG=1円」で固定なので、安定性は円と同じとみなされます。そのためギャンブルまがいの取引をする人も、「うま味は薄い」と近寄ってきません。

ビットコインを含めた仮想通貨の将来は明るい

ビットコインとMUFGコインを比較しましたが、「ブロックチェーン」の技術の優秀さは全く変わりません。ビットコインが「悪」で。MUFGコインが「善」だと、言いたいわけでもありません。要は、どんなに優れたテクノロジーがあっても、実際の制度の運用次第で良いものになったり、良くないものになったりする、ということです。

2014年2月にビットコインの私設交換所マウントゴックスがずさんな経営管理がもとで破たんし、日本ではみな「ビットコインは危険だ」と思い込みましたし、最近では中国政府が仮想通貨を締め出す政策をとっています。しかしその原因は制度の運用がまずかったからで将来性やブロックチェーンの技術の優秀性は、ほとんど傷ついていません。そうでなければ、日本のメガバンクの三菱UFJが熱心に取り組むはずがありません。10代の少年少女が時に間違いを起こすように、発展途上中にはいろいろなことが起きます。自由さが多少制約されたとしても、制度がだんだん整うことで将来は明るくなるでしょう。長い目で見てほしいところです。