2018年1月に発生したコインチェックのNEM流出事件は、ようやく収束に向かっていますが、これに端を発した仮想通貨取引所の規制は、より厳しくなっており、昨今も仮想通貨取引業者の事業撤退が相次いでいます。特に「みなし業者」に関しては、厳しい金融庁の基準をクリアすることが出来ず、業者登録の申請を取り下げる取引所も出てきています。

仮想通貨取引業者は金融庁の動きに常に目を配る必要があります。これが仮想通貨市場の自由な発展を妨げているという声もあれば、あのような事件が起きた以上、ある程度の規制は致し方ないという声もあります。

今回、日本と世界の仮想通貨規制を読み解くことで、各国における認識の違いを明らかにし、日本が今後どのように規制していくべきかを説明していきます。

仮想通貨交換業から撤退した日本企業

国内仮想通貨取引所の規制が強化直近で仮想通貨交換業からの撤退を表明している企業は全7社あります。中にはクラウドソーシングで有名なCAMPFIREなどの有名企業も名を連ねています。また、ビットステーションは3月に幹部が顧客資産を指摘に流用している事が発覚し、金融庁から業務停止命令を受けていましたが、再興ならず撤退することを表明しています。また改善命令を受けたミスターエクスチェンジは「安心して利用できるサービスの提供のため、再出発することが最善」とし、金融庁への申請を取り下げています。

アメリカの大手交換所「クラーケン」を運営するペイワードジャパンも日本での事業を取りやめています。こちらもいわゆる「みなし業者」でした。日本で運営をしていた海外の交換所も日本の規制の状況を見て撤退を余儀なくされています。直近では大手仮想通貨取引所のバイナンスが金融庁から警告を受けたのも記憶に新しいです。以前は「仮想通貨天国」とまで言われ、各国の取引所が参入していた日本の仮想通貨市場ですが、最近ではその状況も変わってきているようです。

金融庁からの指摘を受けた交換業者は「セキュリティ管理のコスト増と運営の収益が見合わない」というのを撤退の理由の一つとしてあげています。あくまで戦略的撤退という側面も強いようです。またこういった規制が新規参入への障壁となっているのも事実です。大手IT企業のサイバーエージェントは独自の仮想通貨を発行する予定ではあるものの、交換業への参入を断念することを発表しています。大企業ですら撤退を表明せざるを得ないのが、今の日本の状況です。

ICOへの規制も強化される一方、制度づくりを要請する声も

こうした交換業者や取引所への規制が強化される中、5月11日に金融庁後援の「仮想通貨・ブロックチェーンフォーラム2018」が都内で開催されました。フォーラムでは主に仮想通貨のICO(イニシャル・コイン・オファリング)に関する議題が上がり、そのリスクが取り沙汰されました。もとよりこのICOは調達資金を持ち逃げする詐欺コインや、事業がたち行かなくなりプロジェクトが消失するという問題点が懸念されていました。

ただ、当然ながらICOには大きなメリットがあります。スタートアップ企業にとっては短期間で多額の資金調達をすることが出来るので、金額面での参入障壁というのを大きく下げることが可能です。

そのため、質の高いICOを増やしていくための仕組みを構築していくことが急務となっています。フォーラムで紹介された案として、ICO実施者自身がトークンの公開買い付けを行うことで、投資家を安心させる状況を作り出すというものがあります。またイーサリアムの開発者ヴィタリック・ブリテンが開発した「DAICO」というシステムも不正なICOを防止する上で有効とされています。このシステムは、ICOで発行したトークンの購入者に投票権を持たせ、多数決により発行者が引き出せる事業資金の上限を決めるというものです。このシステムは非常に画期的ですね。

アジア各国の仮想通貨規制状況

日本と世界の仮想通貨規制の違いについてここで世界各国の仮想通貨規制状況を見てみましょう。中国はキャッシュレス社会が急速に進んでおり、現金を持たない生活が根付いているので、仮想通貨にも寛容なのでは、と思われがちですが、中国政府は仮想通貨への規制を厳しくしています。

銀行が仮想通貨を使用している顧客へのサービスを停止、法定通貨への換金やICOも禁止されています。中国人民銀行の総裁も仮想通貨を明確に批判しています。ただし、中国政府には仮想通貨に用いられている技術、ブロックチェーンに関しては評価をしている政治家もいます。杭州市にはブロックチェーン工業団地が設立されており、20億ドル以上の資金が投入されていると言われています。さらにそのうちの約3割は政府による出資であるとのことです。

隣国の韓国なども中国ほどではないにしろ、仮想通貨には慎重な姿勢でのぞんでいます。一方でシンガポールは仮想通貨には寛容な国であると言われています。フィンテックの導入支援や関連法整備を進めており、フィンテック推進を国家戦略の一つとして位置づけています。最近では周辺国に合わせた規制の動きを意識していますが、あくまで仮想通貨市場の発展の為の規制を行っていく可能性が高いです。

アフリカにおける仮想通貨の取り組み

アジア各国では規制の動きを見せている仮想通貨ですが、アフリカでは仮想通貨が銀行に変わる金融システムになろうとしています。アフリカではそもそも決済方法としての貨幣の価値が低く、また銀行口座すら持っていない人すらいます。仮想通貨の技術やシステムが既存の価値観に囚われにくく、受容しやすいような環境なのです。

逆にいうと規制という名のルール整備がほとんど進んでいない状況とも言えます。今後のルール整備への注目が高まる中で、アフリカでは2018年の2月に大陸初の多国籍仮想通貨となるヌルコインがローンチされました。ヌルコインへの期待は非常に強いですが、そもそもアフリカの人々への金融リテラシーを高める事がまずは重要視されます。

またアフリカでも多く普及しているイスラム教は、元来仮想通貨がイスラム法に則らないものとされてきましたが、最近ではその認識も改められてきています。このようにフィンテックの土台が徐々に出来上がりつつあるアフリカで、今後仮想通貨がどのように普及していくかは注目が集まるところです。

各国の規制が仮想通貨の発展を妨げてはならない

このように各国が仮想通貨への規制、ルール作りを行っていく中で、一番大切な事は仮想通貨、ひいてはブロックチェーンの発展を一時の規制強化で妨げてはいけないという点です。フランスのルメール経済相はイノベーションを抑圧することのない規制が必要であることを強調し「ブロックチェーン革命を見逃してはならない」と述べています。

最近の日本は仮想通貨への規制を強めていると思われがちですが、アジア各国をとってみても中国、韓国はICOを禁止していますし、その点日本はまだ寛容であると言えます。しかし、行き過ぎた規制強化は前述の通りイノベーションを抑圧する可能性があります。

現状、仮想通貨先進国と言われている日本が世界的に市場をリードしていくためには、適正なルール作りを行い、モデルケースを世界に示していく必要があります。前述したフォーラムでは「良いICOも増えてきている」という声も上がっています。こういったイノベーションの芽をつまないためにも、早急なルールづくりが求められています。