マネックスグループがテコ入れを表明し、再建への道を一歩ずつ進んでいるコインチェックが、5月18日に秘匿性の高い「匿名通貨」4つの取り扱いを廃止することを発表しました。今回コインチェックが廃止を発表した仮想通貨はMonero(モネロ)、Zcash(ジーキャッシュ)、Dash(ダッシュ)、Augur(オーガー)の4銘柄です。これらの銘柄は6月18日付で廃止される予定です。コインチェックからのお知らせでは、廃止と同時にこれらの銘柄は売却され現金化されるとのことです。
廃止される銘柄の共通点は「秘匿性が高い」というところですが、秘匿性の高さは取引所が扱うにあたってどのようなデメリットがあるのでしょうか。今回、廃止される銘柄の特徴を説明しながら、秘匿性の高い仮想通貨のメリットとデメリットを述べていきます。
廃止が予定されている銘柄は以前から金融庁からの指摘を受けていた
今回コインチェックが廃止を決定した4銘柄は以前より、金融庁から指摘を受けていました。金融庁は匿名性の高い銘柄はマネーロンダリングやテロ資金の調達など犯罪に使われる可能性があるとして、同庁が作成した「仮想通貨交換業の新たな登録方針」に則って、取り扱いを認めないとしています。
実際に直近で取り上げられた暴力団によるマネーロンダリング疑惑の中でも、上記4銘柄のうち、モネロ、ジーキャッシュ、ダッシュが使われたという報道がなされています。取引履歴の追跡が難しい上記3銘柄の取引を海外の仮想通貨取引所で十回以上行い、追跡を困難にした後に現金化するという手法です。この手法でこの暴力団は約300億円の資金洗浄を行ったと言われています。
前コインチェックCEOの和田氏は、今後の暗号通貨の発展にトランザクションの秘匿化は欠かせないという思いから取り扱いをしていたと述べています。実際にそのとおりではありますが、金融庁からの登録を受け「みなし業者」からの脱却を目指すためにこれらの仮想通貨の取り扱いを廃止する運びとなりました。
今回コインチェックで取り扱いの廃止が決定した4銘柄の特徴
モネロ(Monero/XMR)は取引額10位前後にランクインするような規模を持つ仮想通貨です。その特徴はビットコインと異なるアルゴリズムであるCryptoNoteで作成されることによる匿名性の高さです。リング署名システムという仕組みを用いることにより、ブロックチェーン上で誰が署名したかわからなくなるため、その送金額も伏せることが出来ます。ただし、前述のとおりその匿名性の高さ故に、非合法な資金に関わっているという非難も受けています。利用する人のリテラシーや善意によって支えられている仮想通貨と言えます。
ジーキャッシュ(Zcash/ZEC)はモネロほどではありませんが、常に取引額15位前後に位置している仮想通貨です。米銀行最大手のJPモルガンとの提携で注目を集めました。ジーキャッシュも匿名性が非常に高い通貨としてその立ち位置を確固たるものにしており、「ゼロ知識証明」という特徴的な技術でその匿名性を保っています。
ダッシュ(DASH)は2014年に発行された、上記仮想通貨にくらべて歴史のある通貨で、時価総額6位という大きな規模を持っています。マスターノードという独自のコミュニティを持ち、圧倒的な送金スピードと匿名性を備えた仮想通貨として市場でも注目を集めています。ダッシュは「現金」のように一般的な価値を持って市場に流通する貨幣の様な立ち位置を目指しており、実際にダッシュを使用する事のできる自動販売機も登場しています。しかしその匿名性の高さから悪用される可能性もはらんでおり、コインチェックから盗難されたネム(NEM)もダッシュを使って資金洗浄されたのではないかと言われています。
仮想通貨にとって匿名性が重要な理由
上記のように匿名性が強い銘柄は、ユーザーの悪意により犯罪に使われる可能性もはらんでいます。しかし、この匿名性が新たなイノベーションを産む、という声があるのも事実です。ここで仮想通貨の匿名性が産むメリットもお伝えしていきます。
実はビットコイン、ビットコインキャッシュ、ライトコインの主要な開発者達は、今後仮想通貨の匿名性を高めていく意向を示しています。そもそも仮想通貨は非中央集権が大きなテーマになっており、この非中央集権を実現するために匿名性が必要だという事です。
例えば、個人情報保護の観点からはもちろん、大量のビットコインを持っているという事実がなんらかの要因で犯罪者に漏れてしまうのを防ぐ、という犯罪を受けるリスクを減らすことが出来るのが分かりやすい匿名性のメリットです。取引情報が漏れることがないので、セキュリティの高さを保つことが出来るのも、これまでの決済サービスにはないイノベーションになります。不用意な取引規制はこういったイノベーションの芽を摘むことになりかねません。
匿名性の高い仮想通貨は今後どのように取り扱われるのか
今回の出来事により、匿名性の高い仮想通貨を扱う取引所は事実上無くなりました。今後も金融庁の指示により、こういった仮想通貨が国内で取り扱われることはないでしょう。仮想通貨市場に参入するとされるSBIホールディングスも、匿名性の高い仮想通貨は取り扱わない方針を打ち出しています。
現状、これらの仮想通貨を取引する手段は海外の仮想通貨取引所しかありません。海外ではいまだ仮想通貨の規制が体系化されていない地域も多く、匿名性の高い通貨の取引も行われています。しかし、EUでは2017年末に日本と同じ様にマネーロンダリングやテロ資金への流入を防ぐことを理由に、一部の仮想通貨の取引を規制することを決定しました。
このように犯罪防止の観点から、匿名性の高い仮想通貨の取引は今後も縮小されていくことが予想されます。非中央集権を実現しうるポテンシャルを持ったこういった仮想通貨が、中央集権的な各国の金融当局に規制されるのは、ある種皮肉なものがあります。
規制が強まる可能性はあるが、将来性は依然として高い
以上が、今回コインチェックで取り扱いを廃止した銘柄の特徴と、匿名性の高い仮想通貨のメリットとデメリットでした。匿名性が高いというのは既存の決済方法にはない大きなイノベーションになり、メリットをもたらしますが、使う人によっては悪用される可能性もあります。これは車と同じ様なもので、非常に便利なものであったとしても、使う人によっては凶器にもなりうるということです。今後は規制と同時にユーザーのリテラシーも管理していく必要があります。
前述の通り、ジーキャッシュはJPモルガンとの提携もあり、ダッシュは実際に活用できる自動販売機も出てきていることから実務面での活用が期待されています。匿名性が高い通貨が市場から将来性を見込まれているのは事実です。このようなイノベーションになりうる技術を、やみくもな規制で取り締まるのは賛否両論があります。
まずは日本国内の規制をシステム化していく必要はありますが、実益面も考慮したルール作りが求められます。こういった規制づくりは、仮想通貨投資では先んじている日本が先頭に立ってモデルケースを作ることが期待されています。いつか匿名性の高い仮想通貨が、日本の取引所で再び安全性を持って取引が出来るような日が来るまで、当面は待つ必要がありそうです。