世界的な金融グループのモルガン・スタンレーが4月末に興味深いレポートを発表しました。仮想通貨先進国として最近注目が集まっているマルタ共和国が仮想通貨取引高で世界最大になったという調査です。マルタ共和国は首相が積極的に仮想通貨取引所を誘致しており、国策として仮想通貨およびブロックチェーンを取り入れていこうとしています。またそれに際して、法的枠組みも各国に先んじて構築しており、仮想通貨規制において足並みが乱れているEUの中でも頭一つ抜きん出ているような状況です。

今回、マルタが取引量最大となった理由として、世界最大の仮想通貨取引所バイナンスと2位のOKExの拠点がマルタにある事が挙げられます。特にバイナンスに関しては、日本の金融庁から警告を受け、撤退を発表した3月の出来事も記憶に新しく、これにより日本のフィンテックに関する発展が遅れるのではないかとも懸念されています。今回マルタの仮想通貨に関する取り組みを読み解き、世界から注目されている理由をまとめました。

これまでは仮想通貨のタックスヘイブンと言えば香港だった

仮想通貨先進国のマルタが新しい法案を閣議了承先程マルタに拠点を移したと紹介したバイナンスとOKExは、元はといえば香港に拠点を置いている取引所でした。中国資本の企業がなぜ香港に拠点を置くのか、それは中国本土に比べて法人税が安かったという事が理由の一つです。また香港は中国と比べて仮想通貨に対しても厳しい規制などを行ってこなかったため、多くの仮想通貨取引所が香港に拠点を置いていました。しかし最近になって中国の仮想通貨規制の流れが香港にも影響を与えてきているのも事実で、こういった事も重なり、バイナンス、OKExは移転を決定したのかも知れません。

香港以外ではマレーシア、シンガポール、ベラルーシなどの国も日本と比べて税金が安く、仮想通貨で億単位の資産を築く「億り人」達が、こういったタックスヘイブンに移住するといった出来事も話題になりました。

マルタは各国に比べて税制やルール面で一歩先んじている

マルタはそもそもの法人税自体は日本とさほど大差ないのですが、仮想通貨に関しては5%の優遇措置をとっています。個人に関しては、所得税率も低く、キャピタルゲインが非課税、相続税や贈与税の課税もなく、日本では考えられないくらいの投資に関する税優遇がなされています。さらにブロックチェーン関連企業に関して資金提供を行っていくことも表明しています。

仮想通貨への規制を強めている国が多い中で、こういった試みを行っている国は少ないのが現状です。また、このような税金面での優遇以外に法整備でもマルタは他国に比べて一歩進んでいます。今回、仮想通貨に関して新しい法案を策定することを表明しましたが、それまでも個人トレーダーやバイヤーが安心して取引できるような環境を整えて来ました。

4月にはマルタ金融サービス庁が仮想通貨を合法的に定義し、EUとマルタの提案した「仮想通貨金融資産法」に則り、仮想通貨が金融資産として該当するか否かのテストを現在行っています。こういった投資家や仮想通貨関連業を行っている企業に対してのルール作りを積極的に行っている理由として、マルタの首相ジョセフ・マスカット氏が仮想通貨に関して「今後新しい経済基盤になりうる」という明確な立場を示していることがあげられます。

国の代表である首相自らがこの様な立場を表明し、ブロックチェーン先進国のリーダーとして各国を牽引していくような流れを見せています。

今回マルタが閣議了承した新しい法案について

なぜ今マルタが注目されているのか、その理由をまとめてみたマルタが新たに承認した仮想通貨とブロックチェーン技術に関する3法案の中で、特に注目されているのは前述した仮想通貨とICO(仮想通貨の新規上場)に対する規制の枠組みを定めた「仮想通貨金融資産法」です。これらの法案はマルタ国会で与党と野党間で論議されていく予定です。マルタ政府はこれにより投資家保護、市場の一体性、金融の健全性という主要3原則を遵守していくと語っています。

ICOに関しては各国が規制に手を焼いており、中国や韓国は既にICOを禁止する流れになっており、日本もそれに続こうとしているのが現状です。ICOはイノベーションを起こそうとするプロジェクトにとっての資金調達としては有用ですが、資金だけを持ち逃げする詐欺的な仮想通貨も多く、犯罪の温床になっているのも事実です。イノベーションを妨げずに悪質なICOを防ぐ手立てというのが模索されていましたが、今回マルタがそのルール作りに乗り出したという事になります。

具体的には必要事項を記述したホワイトペーパーの公開を義務付ける条例などを施行していく予定です。ルール作りが進み、マルタに拠点を構える多くの仮想通貨取引所がこのルールを適用し始めることで、上記のような投資家保護を体系的に行っていくことが出来るようになります。

残り2法案は「マルチデジタル革命規制局条例」と「革新技術協定およびサービス条例」と言われ、ブロックチェーン企業の誘致、充実を目的とした条例で、詳細はこれから設定されていく予定です。また、マルタは世間的にネガティブなイメージとも取られる「仮想通貨」という単語を廃して、「仮想金融資産」という単語を採用していく、というのも面白い試みです。

仮想通貨先進国であるマルタがこの様な枠組みを作る意義

日本を始めとした仮想通貨先進国と言われるような国も、これまでこういった規制作りを行ってきましたが、やはりブロックチェーンについての理解が足りていない点が規制作りの進まない理由の一つとなっていました。マルタはこの問題にいち早く取り組むことで、バイナンスを始めとした世界的なブロックチェーン企業を誘致することに成功しました。

前述のマスカット首相は「バイナンスが話題になったのは最大の仮想通貨取引所だからであって、バイナンスが最初ではない」と言い、喜ばしいことと言っています。また、「バイナンスがマルタに拠点を移すのは、やりたい放題出来るからではなく、マルタが仮想通貨取引所を規制する準備が出来ているから」とも述べています。つまりしっかりとした規制が出来上がるからこそ、投資家、取引所どちらにもメリットがあるような環境を作ることができるという事です。

このように国を挙げてフィンテックに取り組んでいるマルタだからこそ、ルールづくりを加速させる意義があり、市場からも注目されていると言えます。

世界各国はマルタをモデルケースとしてルールづくりを進めていく

先日、日本のコインチェックが、匿名性の高い仮想通貨の取り扱いを廃止していくと発表しました。仮想通貨交換業者としての登録を受けるために、金融庁からの忠告を受け入れた形になります。日本もマルタと同じように、法整備に関しては早くから着手していましたが、このように取り扱うべき仮想通貨に関してはまだまだ慎重な姿勢をとっています。バイナンスが金融庁から警告を受けたのもこのためです。

必ずしも日本の対応が遅れている、慎重過ぎるというわけではありませんが、仮想通貨の発展には柔軟性も求められます。こういったルールづくりに関しては、今回のようにマルタが先陣を切って取り組んでいくことでしょう。日本もマルタの動向に細心の注意を払いながら、積極的に柔軟なルールづくりを行っていくことが期待されます。