ビットコインを始めとする仮想通貨は、現在徐々にですが決済手段として浸透しています。大手の家電量販店がビットコインの決済を可能にしたことも注目を集めました。とは言え、
正直なところ仮想通貨を保有している投資家の方々としても、現在仮想通貨決済を行いたいというニーズは非常に低いのではないでしょうか?長期的に保有しておきたいので、今使うのはもったいない、とか、そもそも決済できるシーンが少ないので使う気にならない、といった事情もあるかと思いますが、中でも最も大きいのは変動幅が大きすぎる、という点に尽きるのではないでしょうか?
仮想通貨は現在投機対象としての側面も持ってしまっており、1日に数%、もしくは数十%といった変動をすることも少なくありません。決済手段としては正直なところ不合理です。そのような状況の解決策の一つとして提示しうるのが、価格が安定した「ステーブルコイン」と呼ばれるコインの存在です。これは特定の銘柄名ではなく、そういった特長を持つコインの総称です。その特徴や種類を、具体例を挙げながら解説していきます。
仮想通貨が「通貨」たりえない現状
そもそも、通貨とは「交換手段、支払い手段」「価値の貯蔵」「価値の尺度」という3つの機能を果たすものと定義されています。この定義を仮想通貨に当てはめてみた時に、仮想通貨が果たして本当に「通貨」なのかという点の判断が難しいことが分かります。
・交換手段、支払い手段
→まだまだ浸透しきってはいませんが、現実世界で利用されていることからも甘めに見てこの機能は果たしていると言えるでしょう。
・価値の貯蔵
→仮想通貨そのものは取引所、もしくはウォレットに保管する形で「貯蔵」しておくことが出来ます。ただ、仮想通貨自体の値動きの激しさや、将来的な価格の不確実性を考えると、価値を貯蔵、という点から考えると不十分ではないでしょうか。
・価値の尺度
→1日で数十%と変動し、とても価値尺度を図る手段としては機能しません。
メタップスの社長、佐藤氏は著書『お金2.0』の中で仮想通貨を既存の「お金」の価値観で考えるから理解が難しくなる、といった旨の記述をされていますが、現状、仮想通貨が「通貨」と呼べるようなものではないのは仮想通貨投資家にとってもほぼ共通認識と考えても差し支えないのではないでしょうか?
ステーブルコインとは?
その名の通りStable(安定した)価値を持つ仮想通貨の総称です。仮想通貨の「価格の不安定さ」という、「投資商品」「投機商品」としての魅力はあっても「通貨」として考えるとリスクでしかない弱点をカバーしつつ、仮想通貨の「非中集権化」という大きな価値を担保する特徴を持ちます。と説明すると単純に凄そうに聞こえうるかもしれませんが、ここで重要なポイントになってくるのが「価格の安定」の根拠となっているのが何か、という点です。その部分について、ステーブルコインの中でも、大きく3種類に分けられるので、それぞれについて解説します。
1.法定通貨担保型
読んで字のごとく、現実世界において安定した価値を持つ法定通貨を、その価値の裏付けとする仮想通貨です。通貨の発行元が発行したコインと同じ量の法定通貨を保有しており、いつでも同額の交換に応じることでその通貨の価値を裏付けるという仕組みが取られています。
代表的な通貨としては、米ドル担保型のステーブルコインの先駆けとなったthether(USDT)や、同じく米ドルに対して価値を持つTrueUSD(TUSD)などが挙げられます。世界の基軸通貨たる米ドルに対して一定の価値を保つことで、仮想通貨世界の「基軸通貨」たるビットコインよりも、安定性という点においては勝るものです。とはいえ、「発行量と同じ量の法定通貨を保有」という部分がいくつかの論点を生みます。
一つは、発行元が本当にそれだけの法定通貨を所有しているのか、という疑惑の対象になることがあります。仮想通貨が大暴落した2018年2月ですが、その原因の一つが、thether社が発行しているUSDTは保有する準備金を上回っているのではないかという疑惑が広まったこと、とも言われています。また、そもそも、仮想通貨の価値の一つが「中央集権」からの解放といったものが挙げられますが、発行元が価値を担保している、というのは結局のところその企業が中央集権的な権力を持っていることに他ならないのではないかという指摘もあります。その点、TUSDが大手取引所に上場したことは一社独裁のリスクを抑える上でも重要だったと言えるでしょう。
2.仮想通貨担保型
他の仮想通貨を保有し、裏付けとすることによって価値を保っているコインを「仮想通貨担保型」のステーブルコインという言い方をします。こちらは、法定通貨担保型の中央集権的な要素とは対照的に、仮想通貨の「非中央集権」の要素を守りながらも価格を安定したコインを目指そうとしている点に価値があります。代表的なものとしてはビットシェアーズが挙げられます。「仮想通貨による担保」であれば、その裏付けは全てブロックチェーンに記載されていますので、発行元の「自己申告」を裏付けとする必要もなく公平性が担保されます。ただし、価値の裏付けとなる仮想通貨自体の価格変動が大きすぎるため、過剰な準備金を用意する必要がある、といった欠点も挙げられます。DAIと呼ばれる仮想通貨は複数の仮想通貨を裏付けとすることで価格の安定を図ろうとしていますが、それでも大規模な相場変動の際には、価値の安定を図るのが難しくなります。
3.無担保型
無担保型とは、その名の通りその裏付けとして法定通貨も仮想通貨も持たず、価値の安定を図ることを目指すコインです。では、その価値の安定が何によって図られるか、というと、スマートコントラクトを用いて行われます。通貨の価値が上がれば、発行量を増やすことで価格を下げます。逆に価格が下がっているときには債権を発行し、その購入にコインを使わせることで、流通量を下げ、価格が上昇する方向へと調整を行います。このような、市場による自動調整機能を、革新的技術である「スマートコントラクト」に持たせている点に、仮想通貨の未来を感じさせることが出来ます。代表例としてはベースコイン(Basecoin)が挙げられます。
仮想通貨の次のステップを担うステーブルコインは完成するか
繰り返しになりますが、仮想通貨はブロックチェーン技術を使い金融の歴史を変えるような革命的な発明になる可能性を秘めつつも、現状は将来性への投資や通貨としての期待だけではなく、短期的な価格変動が好まれる投資、投機の対象という側面が強く、とても決済において安心して使える代物ではありません。本当に通貨という意味で浸透していくにあたっては価値の安定性は不可欠なものになってきます。その価値の安定を裏付ける方法として「法定通貨」「仮想通貨」「無担保」それぞれでの試みが行われつつも、いずれからも完璧と思えるようなものは出来上がっていません。既存の金融システムでも「完璧」なるものは存在しないので、もしかしたらそんなものは未来永劫完成しないかもしれません。しかし、法定通貨ではなしえなかった世界が実現しうるのが仮想通貨の秘めている可能性でもあります。今後のステーブルコインの開発が、仮想通貨の、ひいては世界の金融全体のシステムを根本から覆してしまうかもしれません。