2018年の初めは、仮想通貨取引所のcoincheckのNEMの流出事件が大きなニュースとなりました。2017年に飛躍的に伸びたこの仮想通貨をめぐり、改めて、仮想通貨の収益性、安全性、リスクの問題がクローズアップされました。「もう仮想通貨を今更初めても遅いのではないか」、「仮想通貨は資産として本当に安全で有効なものなのか、リスクが大きいのではないか」と、悩む人も多いのではないでしょうか。株や外貨と同様、仮想通貨も投資であり、リスクがあります。そして、価格の変動は避けられず、時には暴落もあることを念頭においておかねばなりません。ここでは、このような仮想通貨の将来性について探ってみたいと思います。まずは、仮想通貨の投資リスクについて7項目をあげてみました。

取引所がハッキングを受け倒産して資産が喪失するリスク

仮想通貨投資の7つのリスク「GOXする」という隠語がありますが、これは、2014年2月に起こったMt.Gox(マウントゴックス)ビットコイン取引所の破綻事件で、預けられていたビットコインが突如消失したことに端を発しています。
株式や外貨の電子マネーの場合は、証券保管振替機構や信託銀行により、顧客の資産は保全されています。また、利用者や、電子マネーの流れを管理する管者が存在しています。しかし仮想通貨交換業では、取引所で分別管理しているため、Mt.GOX社のように経営破綻した場合、顧客の資産が一瞬にして消失してしまうリスクがあります。

ハッキングとは高度なコンピュータ技術を持つ者が、不正にコンピューターシステムへ侵入して、自身の思う通りにシステムを操ることをいいます。2014年2月の初旬に、Mt.GOX社のシステムのバグを悪用した、不正アクセスが発生しました。売買が完了しない仮想通貨の取引が急増し、2月24日には、利用者からの預かり金を保管する預金口座額が、28億円ほど不足し、顧客が保有する75万ビットコインが消失していることが判明し、Mt.GOX社はサービスを停止。当時の換算では、114億円相当のビットコインが無くなり負債が急増したことで、Mt.GOX社は東京地裁に民事再生法の適用を申請しました。12万7000人の顧客の大半は外国人で、当時は日本人は0.8%の約1000人程だったと言われています。

通常、電子マネーでは、サーバーなどの管理媒体が、チャージされたものをデータとして記憶し、実際の管理者が端末やカードにチャージするようになっていますが、仮想通貨にはこのような管理が全くないという仕組みになっており、ある意味リスクが伴います。仮想通貨ではお金のやり取りは、レジ係のような管理者をおかず、信頼性で判断してサービスを利用するシステムになっています。また、仮想通貨は取引に時間がかかるため、何か問題が起きた時に、世界中で一斉に取引が行われると、仮想通貨取引が集中してパンク状態になり、1秒を争うリアルタイム取引ができなくなるというリスクがあります。こういった場合、値動きが激しい仮想通貨の場合、数秒が命取りとなり、多額の資産を失ってしまうこともあります。このように、取引が正常に行われないというリスクも存在することを、理解しておかねばなりません。

皮肉にも、この2014年のビットコイン消失事件により、仮想通貨の存在と、そのリスクが広く世間し知られるきっかけとなりました。当初は単なるサイバー攻撃と考えられていましたが、マルク・カルプレス容疑者によるデータ不正操作による横領であることが後に判明。取引に人が関わる以上、リスクがあり、絶対的な安全性はありえないということを示す結果となりました。このように、仮想通貨を売買する際は、不正が起こりうることを常に念頭に置かなければなりません。

世界規模のサイバー攻撃・クラッキングによる通貨流出のリスク

次に挙げられるのが、クラッキングによる仮想通貨の流出のリスクです。クラッキングとはネット接続中に侵入してシステムを破壊、改ざんし、不正を行う行為です。仮想通貨の代表的な取引所には、bitFlyer(ビットフライヤー)やZaif(ザイフ)がありますが、2017年5月に、このような大手取引所の一つであるcoincheck(コインチェック)のシステムがクラッキングされる、仮想通貨流出事件が起きました。実際に起こってしまったということで、リスク度合いも高いと考えることができます。

5月9日午前11時25分に、coincheckのビットコインが突然20万円から90万円に急騰し、他の仮想通貨にも異常価格が表示され、この障害により約20分後に取引が停止されました。そして、ロールバックといわれ、障害が発生した時間に取引の状態を戻す処理がなされました。このロスカットのため、障害発生から約20分間にビットコインを売買した利用者の取引が無効となり、損害を被った顧客からcoincheckに抗議が殺到しました。こういった場合、取引所の独断でロールバックの決定がなされることがあり、それで不利益を被っても、補償してもらえないというリスクもあるということになります。

また、仮想通貨には70種類以上もの種類があり、有名なものでビットコインやイーサリアム、ライトコイン、NEMがありますが、2018年1月26日、coincheckが保持している仮想通貨のなかでNEM(ネム)建ての資産が、クラッキングにより取り行き所から外部に送金され、別口座に移転されて流出する事件が発生しました。

NEMの残高が激減したため、coincheckは取引を停止し、警視庁と金融庁に報告。NEMを推進する財団や取引所に、流出したNEMの追跡を依頼し、売買の停止を要請しました。しかし、一部の取引所で交換が行われ、この不正送金により、総額5億2300万NEM。日本円換算で580億円の仮想通貨が流出する被害が発生しました。ハードフォークというシステムを使用しており、NEM財団は流出事件発生前に巻き戻すことをしなかったため、仮想通貨の入出金、売買、日本円出金ができなくなった顧客が、深夜に至るまで東京渋谷の本社前に殺到したニュースは記憶に新しいです。coincheckは2018年1月28日に、被害者約26万人に対して約463億円の補償を行うことを発表しています。

この流出事件の原因は、coincheckが全てのNEMをホットウォレットで保管していたことにありました。通常、データはパソコン上に作るデスクトップ・ウォレット、スマートフォン上に作るモバイル・ウォレット、インターネット上に作るウェブ・ウォレット、また、ペーパー・ウォレット、ハードウェア・ウォレットなどで保管されています。このホットウォレットは、ウォレットがインターネットに接続されている状態をいい、ネット接続のない状態をコールドウォレットと言います。本来、coincheckはハードウェア・ウォレットで管理すべきところを、ホット・ウォレットで管理していたということですが、このように、取引所がどのようにコインを保管しているのかということは、利用者にはわからないということもリスクの一つと言えるでしょう。きちんと管理して欲しいけれど、実際は取引所に任せるしかないということになります。

ある意味ホットウォレットでは、出金がスピーディーに行われるメリットがあり、送金が速く行えることは顧客に評価されるポイントでもありますので、ホットウォレット比率が多い取引所があるかもしれません。しかし、ホットウォレット保管では、オンラインで不正アクセスにより通貨が奪われるリスクがあり、セキュリティーの観点ではオフラインで保管するコールドウォレットが推奨されています。

ホットウォレットでも、マルチシグという、マルチシグネチャー(複数の署名)の秘密鍵を必要とするシステムもありますが、coincheckはそのような措置をとっておらず、取引所のシステムのセキュリティーがおろそかになっていたことが判明しました。ハッキングされるリスクが高い状態であったということになります。こういった場合、投資家に落ち度がなくとも、取引所のセキュリティーに問題があれば、投資家が多額の損害を被ることがあるわけです。利便や手数料にこだわることなく、安全面を重視して取引所の選ぶこともリスク回避のために非常に重要な点です。

仮想通貨に関連する詐欺のリスク

初心者は仮想通貨投資にどのようなリスクがあるのかを知る事が重要仮想通貨は2017年に大きな値上がりを見せ、取引も急増しました。それまでは、楽に儲ける「アフィリエイト」に注目していた人々が仮想通貨に目を向け、「億り人」という言葉が生まれ、投資で一攫千金を狙うことに流れが変わりました。それと同時に、仮想通貨で楽にお金儲けをしたい人々の心の隙を狙った詐欺が今急増しています。

株や外貨と同様、仮想通貨も価格の変動があり、絶対に儲かるはずはない、うまい話にはリスクがあるということを知りながらも、人々はついつい新種の魅力的な話に乗ってしまいます。2017年の急成長時期の儲け話を聞いて、自分も儲けたいと思う人が増え、リスクよりも得られるかもしれない利益に目がいってしまうのは当然の流れと言えます。その心のすきを狙って、「あなただけに特別に」「今だけ限定で」といった手口の詐欺が横行しています。そもそも仮想通貨は、取引所を介せば誰でも売買できる商品であること、将来必ず値上がりする保証はないことを忘れないでください。

被害例では、「仮想通貨を買わないか」という電話があり、数日後に説明書が届き、再び同じ業者から電話で「今、100万円分の仮想通貨を買えば2~3年後には2倍になる」と言われて、近くのファミレスで現金100万円を担当者に渡したところ、その後連絡が取れなくなった、という訴えがあります。特に、高齢者や主婦を狙ったこのような詐欺が増えていますので、家族の者が不審に思った時はすぐに自治体の消費生活センターにお電話ください。また、詐欺の勧誘を防ぐために、留守番電話機能を使って、必要な相手だけに掛け直す設定もよいかもしれません。とにかく、うまい話にはリスクがあり、詐欺の可能性が高いということを覚えておきましょう。

フィッシングによる個人情報の漏洩のリスク

インターネットバンキングや外貨取引サイトのフィッシング被害と同様に、仮想通貨でも、顧客を架空のサイトに誘導して、ログイン画面からIDやパスワードを抜き取るフィッシングが多数起きています。都銀の見慣れたサイトならば気づくところ、特に新設の取引所では、巧妙に作られた偽のサイトを容易に見破れないこと、また、小さなモバイル画面での操作ということもあります。取引を分散するため複数のサイトを利用することがリスク回避に必要ですが、複数の取引所でパスワードと使い回しをしないことも、自分でできるリスク管理としては重要です。また、2段階認証をかける、秘密鍵を厳重に管理するなどの対策も必要となってきます。

仮想通貨の資産としての流動性リスク

通常の法定通貨と比べ、仮想通貨は取引量が少ないため、売りたいと思った時に買い手がつかず、取引が困難になるというリスクがあります。また、仮想通貨は決済に時間がかかり、例えばBitcoinでは、取引が行われて3ブロック経過するまで取引を認証しないルールがあり、場合によっては取引が遡って無効になるリスクもあります。必要な時にいつでも現金化できるわけではない、ということも、ひとつのリスクです。急にお金が必要になった時に、すぐに現金化できないかもしれないということを覚えておきましょう。特にクラッキングなどの異常事態では通貨が凍結されてしまいます。仮想通貨に全財産をつぎ込むことはリスクが高すぎます。仮想通貨投資にはリスクがあるということを忘れずに、あくまでも余剰資産のなかで運用するよう気をつけて下さい。

モバイルPCやスマホの紛失による資産喪失のリスク

仮想通貨をしている人の多くはモバイル端末を使用していますが、ハッキングされるリスクに加え、スマホ自体を忘れたり盗まれたりして、中の情報が漏れてしまうというリスクがあります。モバイルPCやスマートフォンは便利な反面、駅や店に置き忘れることもあり、また、盗難にあえば多額の仮想通貨を失うリスクがあります。スマートフォンのウォレットで仮想通貨を保管している人は、このようなリスクがあることをしっかりと理解し、注意するようにしましょう。

モバイル端末での取引は、お酒の席で気の緩みがあったって深く考えずに取引したり、通勤列車や公衆の面前で急いで行うこともあります。軽はずみな売買で多額の損失をだしたり、パスワードが盗まれ大切な資産が失われるリスクもあります。また、出先の共有パソコン(インターネットカフェ、ホテル、空港、図書館など)で取引をして、個人情報を盗まれるリスクにも要注意です。

知識不足、判断力不足、法律の未完成による負債のリスク

外出中のネットサーフィンでICO(Initial Coin Offering 新規仮想通貨公開)をついつい始めてしまう人もいるかもしれません。ネット上には、「絶対儲かる」「楽に稼げる」「短時間で数百万ドル調達した」「売買手数料なし」「少額投資可能」などのキャッチフレーズが踊り、あたかもリスクは一切ないかのような表示をしています。しかし、投資である以上、リスクは必ず存在します。専門用語も理解しないまま、安易な気持ちで初めて、気づかぬうちにリスクの高い信用取引に手を出し、多額の負債を抱えてしまうこともありますので、常に慎重に判断することが大切です。

まとめとして、これから仮想通貨を始める人は、どのようなリスクがあるのかを知り、基本的な仮想通貨の仕組みや、専門用語を学ぶことから始めましょう。仮想通貨が今後さらに発展し、電子マネー決済やスマホビジネスが当たり前の世の中になるように、いつの日か、世界の通貨の主流をしめることが予想されます。しかし、仮想通貨はまだ発達段階であり、法整備が整っておらず、負債を抱えた日には、自ら責任を負わなければならないことを忘れないでください。