イーサリアム(以下本文中では通貨単位ETHで表記)は、約7兆5,125億円で第2位、リップル(以下本文中通貨単位XRPで表記)も、約3兆8,051億円で第3位の時価総額を誇る、アルトコインをけん引する有名銘柄に、いずれも成長しています。そして先日、この2銘柄に対し多くの国際的金融関連団体やその責任者たちが、「有価証券に準じる取り扱いをすべきである」という考えを示したことで、市場ではそれを歓迎する動きとともに、両銘柄の今後を不安視する声も出てきました。
SECによるICOを通じて発行される仮想通貨トークンはすべて証券だとの見解
「ETHとXRPが証券と同じ扱いになる」という流れが、市場で話題になってきたのは、今年2月初頭に開催された米国上院の公聴会のおいて、同国証券取引委員会(SEC)の委員長であるジェイ・クレイトン氏が、「すべてのICO(イニシアル・コイン・オファリング)は証券に該当する」とする見解を示したことに、端を発します。
併せて同氏は、既に多くの資金がICOを通じて流動しているものの、正確な数字まではわかっていない実情を明かしたうえで、SECへの登録を済ませているICOトークンは現在存在せず、統制と管理ができないそれらに対する規制強化が、マネーロンダリングなどの犯罪防止やユーザー保護の観点から、不可欠である考えも示しました。そして、そのやり玉に挙げられたのが、ICOの実施で発行枚数を増やし、急激に時価総額を増大させてきた、ETH・XRPなのです。
CFTC元委員長の発言がさらに火に油を注ぐことに
この流れの追い打ちをかけたのが、2009~2014年まで米商品先物取引委員会(CFTC)の会長を務め、現在はマサチューセッツ工科大学(MIT)のブロックチェーン研究者、兼上席講師であるGary Gensler(ゲーリー・ゲンスラー)氏が、4月23日MITで開催された講演で発した、「ETHとXRPは、証券とみなす(だけの)根拠がある」という発言です。
同氏はその中で、これまでICOによって発行された、約1,000銘柄に及ぶ仮想通貨及び、それを取り扱う約100を超える取引所に対し、「米国証券取引法に準拠することになるかどうか整理する必要がある」とまで言及しました。そして、ETH・XRPは法律上セキュリティトークン(株式や担保のようなもの)に区分されるべき、代表的な仮想通貨として名指しをされたのです。
イーサリアム・リップル両発行者は当然猛反発
証券化されてしまうと、SECが規定する基準にクリアし、認可を受けた取引所以外での取引ができなくなってしまいますが、現在同国でSECに登録されている、仮想通貨取引所は存在しません。つまり、ETHとXRPが仮に「有価証券」になってしまった場合、米国内では取引が不可能となるため価格急落が予想され、これまで積み上げてきた時価総額も、地に落ちてしまう可能性が出てきます。
当然ながら、ETH・XRP両発行コミュニティーは猛反論を展開し、まずイーサリアム財団は、ETHの供給や発行をすでにコントロールできる立場になく、保有量も全体の1%以下で財団は支配権を有しておらず、ETHと完全に独立している状態ににあることを主張しました。また、リップル社も、ゲンスラー氏の発言を受けて即日会見を開き、その中でスポークスマンを通じ、「XRPはリップル社ができる以前から存在し、(同社が)なくなっても独立して存在・運用され続ける」と、XRPと完全に分断されている旨、反論しました。
さらに同社は、株式などの有価証券がその発行に伴い、株主優待を用意したり配当を支払うのに対して、XRPはその所有者に対して、同社の株式や利権を与えるのではないうえ、配当を支払うことも一切ないため、全く証券と呼べるものではないと強く主張しました。
確かにこのリップル社の主張通り、XRPは株式証券と異なり取引所における売買取引での利ざやのみが、ユーザにとっての利益追求手段であるため、今回同じく名指しされたETH含め、BTCなどすべての仮想通貨が有価証券とは別物と言えます。しかし、ゲンスラー氏が指摘・危惧しているのは、両コインの開発システムを管理しているのが、いまだ各運営コミュニティーで、権力集中による悪用のリスクが拭い去れない点です。
また、それを黙認し売買を続ける取引所を規制していく目的もあり、各所持ユーザー自体の利益追及手段に言及するものではないため、このリップル社による反論は少々的外れとみる専門家もいます。さらには、イーサリアム財団が保有するETHが1%に満たないことを主張したのに比べ、リップル社は自社の保有数について言及していません。
これは同社がいまだかなりのシェアでXRPを保有し、ソフトウェアとトークンの価値を上げるため存在・活動しているからであり、野の支配的体制こそが、「証券化」の流れが強まる中でETHとの立場を、決定的に変えるポイントになっています。
リップルが証券になってしまう可能性は非常に高い!ビットコインは対象外か
ETH・XRP両発行者の反論を、そっくりうのみにしたわけではないでしょうが、前述のゲンスラー氏はその後の発言で、ETHの方は既に3年以上プロジェクトが機能しており、開発の分散化と新規発行トークンのマイナーへの譲渡が進んだため、「未登録証券」という区分から除外できる、グレーゾーンコインという考えを示しています。一方、XRPはトークン販売や助成金の受け取りなどが、発行元であるリップル社の裁量で進んでいることを重く見て、「SEC未登録の状態で流通している証券」として、真っ先に規制をかける必要があるとしています。
また同氏は、そもそも発行元の無いビットコインについて、この「準拠証券化」の対象外としていることからみて、同じく非集中型分散型のデベロッパー集団によって発行・管理されている、ライトコイン(通貨単位LTC)やモネロ(通貨単位XMR)なども、今回の一連の動きにおいて、証券として分類されないと予想されます。
仮想通貨の証券化で起こる今後の展開を大胆予想
実際に実行されるかどうかはともかく、証券化の動きによってETH・XRPはもとより、仮想通貨市場全体への影響はかなり強まっていますが、証券化への是非についての意見は、大きく分かれているのが現状です。ある専門家は、証券化に伴い大きく仮想通貨市場が縮小し、価格の同時暴落が起きるとしています。
一方、違うアナリストは、証券化とそれを取り扱う取引所の淘汰・洗練により、証券化コインの安全性や信頼性がアップして、除外された銘柄より市場価値が増してくるという考えを持つものもいます。これはあくまで予測の域を出ないことですが、仮にXRPが証券化するのに併せて、多くの米国仮想通貨取引所がSECへの登録を完了した場合、各取引所が今回除外対象となったBTCや他のアルトコイン銘柄、さらに自らの猛反論でグレーゾーンとされたETHではなく、XRPをこぞってプッシュしていく可能性もあります。
そうなるとXRPは業界唯一の証券仮想通貨としてその地位を固め、もしかしたらBTCを上回る時価総額を有するチャンスが巡ってくることも考えられ、それを標榜してやまないETHは、自ら一段上のステージに登る機会を失ってしまったのではないか、という見方を持つ専門家までいます。
ただし、証券化を進めているSECとそれを支持する専門家も、仮想通貨市場そのものに与える影響を最小限にとどめたいという考えを同時に持っているため、一気にXRPが証券化することは考えにくいく、何らかの妥協案を出しながら研究や議論を深めつつ、慎重に進められていくことが予想されます。いずれにせよ、この一部仮想通貨の証券化への動きには、今後も目が離せない状況になってきています。