新興のベンチャー企業を中心に、世界中で約500社を超える企業が自社トークンを発行して、イニシャル・コイン・オファリング(以下ICO)を実施し、銀行などの国当局の統制を受けない形で、膨大な資金調達に成功しています。このような、制御不能な状態での仮想通貨市場のふくらみに危惧をした各国の金融当局は、揃ってICOに対する規制の動きを強めつつあります。しかし、そんな動きと逆行するかのような論争が、米国下院議会におけるICO規制に関する公聴会で巻き起こり、新規株式公開(以下IPO)が減少傾向にある背景と併せて、世界中からその動向に注目が集まっています。
米証券取引委員会「SEC」トップ監察官の発言に議会は紛糾
国際経済的に大きな影響力を持つ米国証券取引委員会(以下SEC)は、ICOが証券取引法の適用対象であると指摘し、2017年12月には組織内に新設した放棄執行局、サイバー・ユニットによる詐欺的ICOトークンに対する、世界初となる摘発・差し止め請求を行ったほどICO規制の動きを強めています。しかし、4月26日に開催された米国下院での公聴会において、SECの代表監察官として出席していたウィリアム・ヒンマン氏は、仮想通貨市場及びICOが今後発展していくものだと前置きしたうえで、「投資家の保護に強い焦点を当てつつ、(ICOは)バランスの取れたアプローチで規制をしていくことを目指す」と述べました。同公聴会に参加していた議員たちはこの発言に対し、ICOで発行されるトークンは世界経済にとって有害でしかなく、直ちに禁止すべきだという考えを主張、公聴会は紛糾しました。
大部分のICOは有価証券とみなすべきであるというSECの統一見解が影響
ヒルマン氏の公聴会での発言は、一見するとSECがこれまで進めてきたICO規制の流れと反するようにも見えますが実はそうではなく、同氏は「あるコインが脱中央集権型のツールになる時期がきて、そうなると規制が困難だ」とも述べていますが、この『あるコイン』の発行を進めるICOを先に規制対象とし、それ以外の中央集権制の強いコインについては、当局の統制下に入る「有価証券扱い」に順次移行することで、バランスを取っていく考えを持っているのです。つまり、SEC自身が摘発したような非中央集権的トークンについては、有害であるという認識において米下院議員たちと何ら変わらないということですが、そうではない多くのICO及びトークンについては、「有価証券」というお墨付きを付けることでIPOに変わる役割を果たし、経済発展に寄与する存在になりえるとしています。
事実、SECは仮想通貨リップルについて、「有価証券相当」の判断を下すなど、その動きを早めていますし、その流れが他の銘柄にも波及して、将来多くのトークンが有価証券化すれば、ICOはIPO同様に国際経済市場において大量の資金を安全にかつ、スピーディーに流動させる優秀なツールになりえる可能性もあります。
ICOがIPOにとって代わりうるというSECの考えに反対する米議会
しかしこのヒルマン氏、ひいてはSECの総意ともいえる、「ICOがIPOにとって代われる存在だ」という認識に対して公聴会は大紛糾、特にブラッド・シューマン下院議員は、「証券市場の存在理由は、実体経済に雇用を提供することでありIPO はそれを行う手段だが、ICOは反対を行い実体経済から資金を抜き取り、働く意欲や職場を奪ってしまうものだ」という、真っ向からSECと対立する持論を展開しました。
シャーマン氏の反論は止まらず、「薬物や脱税で得た利益のロンダリングを促進する(可能性がある)、新しい仮想通貨を作ろうとする人や政府の介入を遮断する人と、(IPOによって)1,000億ドルを米国財政にもたらす人とのバランスとは、投資家保護のために取るべきバランスで、それを実現するにはICOの完全禁止が必要だ」と熱弁をふるいました。また、ヒルマン氏によるブロックチェーン技術の優秀さによる、経済への寄与についての言及に対しても、「(私は)ブロックチェーンを禁止すべきと言ってない、ICOを禁止すべきだと言っている!」と、時に声を荒げるシーンもあるほどでした。
さらに同氏は、SECがそれにあたらないという考えを示している、ビットコインについても「投資に当たるためセキュリティー(株式同等)だ」とし、この点でも見解の違いを明らかにしました。
米国議会は既にICO禁止でまとまっているのか
ただ、米国会議員がすべてSECの考えに懐疑的なわけではなく、賛同の構えを見せる議員も存在していますし、とりわけ連邦議会ブロックチェーン幹部会メンバーである、トム・エマー議員は「話されていること(の大部分)を理解していない議員が、仮想通貨を推進するだの規制するだの言っている」と、誰と名指しはしなかったものの辛らつに指摘しました。そののち、「(大きな)可能性を秘めたブロックチェーン技術の進歩は(米国当局として)祝福すべきで、規制が必要だとわかっているがバランスが大事、規制を明確にする必要がある」と、饒舌に語ったことにより議論は沈静化し、最終的には監視・規制と技術革新とのバランスを取っていく方針で、公聴会はまとまりを見せました。
公聴会を分析すると、シューマン議員などが訴える、ICOの即刻禁止などといった急激な規制は、既に膨らみ切った仮想通貨市場を大きな混乱に陥れる可能性があり、そうなれば多大な損失を被る一般投資家が溢れることも予想されます。その点、SECと同様に「バランス重視の規制」を主張したエマー議員の発言が、消費者保護という大命題を実現するためには最も的を得ていると、好評価するアナリストの声も多く出ています。
強い監視や規制が必要なのはブロックチェーン技術ではなくICOのみ?
公聴会の中で、「ブロックチェーンを禁止すべきとは言っていない」という発言が飛び出したように、米国財務当局は仮想通貨自体について、その運用や取引に対する規制を当座強めていく方針ではない模様です。事実、今回解説した公聴会の2ヶ月前の時点で、SECと商品先物取引委員会(CFTC)はその意見交換の場で、ICOについては今後最大限の監視・規制を課していくとしながらも、デジタル台帳テクノロジー自体は「監督」程度に、ビットコインに代表される仮想通貨コインはその中間程度のレベルにとどめることを、両者は結論付けています。
ただしICOは、そもそも多くの仮想通貨の発行の根幹であり、それが規制されることで多くの銘柄が影響を受け、仮想通貨全体のチャートが大荒れになることが、容易に予想されます。また、仮想通貨銘柄に規制が及ばないとしても、SECは国内に存在する仮想通貨取引所について、証券取引所と同様にSECへ登録し、その規制下に置かれるべきとする見解を発表しています。
その流れが最も顕著なのは実は日本であり、金融庁はこのところ立て続けに、国内取引所へ業務改善命令や業務停止命令を下し、中には仮想通貨ビジネスから撤退をする企業も多く出てきました。これらのことから、コイン・トークンが安全な投資・決済ツールとして完成をする日は、まだまだ先のことだという見方が広がり、投資家などからは仮想通貨マーケットが停滞してしまうのではないか、という不安の声も上がっています。
とはいえ、米国を中心としたいくつかの仮想通貨に対する証券化の流れに、好意的な考えを持つアナリストも少なくなく、事実一連の流れが表面化をした今月頭から、その対象とされたETH・XRPはいずれも価格が上昇傾向を示しており、月初時点で「1ETH=4万円」程度だったETHは執筆時点で「1EYH=7万4千円」ほどと、約85%も急上昇を見せています。また、もっとも証券化を急ぐべきとされたXRPも月初水準の約1,4倍となる、「1XRP=2万6千円」あたりまで値上がりしており、それに引っ張られる形で久しぶりに100万円台を回復したビットコインはじめ、他のアルトコインもおおむねそのチャートは上昇傾向を示しています。
以前は、「規制が強まる」という情報が流れるたびに、急激な値崩れを起こしていた仮想通貨市場も、ある程度システムとして確立を見せている証拠と捉えることもできますが、いずれにせよ諸外国と日本金融当局が、今後どのようなICOに対する規制を実施するのかに、投資家たちからの注目が集まっています。