仮想通貨の投資が定着してきた昨今、様々な特徴を持った銘柄が仮想通貨市場に登場しています。仮想通貨は氏名などの個人情報をさらけ出さず送金や受金が可能になっています。もちろん取引情報も暗号化されプライバシーは守られます。しかし、その匿名的なやり取りは時として「マネーロンダリング」に使われることも危惧されています。もしマネーロンダリングに使われるとなれば各国政府は見過ごしませんし、事前に法規制により取引を禁じるでしょうし市場相場へも影響が出ます。そこで、今回は仮想通貨がマネーロンダリングに使われるのか、今後のマネーロンダリング対策について解説していきます。
マネーロンダリングとは
まず、マネーロンダリングは何かを解説します。マネーロンダリングは日本語で「資金洗浄」と呼ばれ犯罪行為で得たお金について出どころを分からなくする行為です。そもそも犯罪で得たお金ですからマネーロンダリング自体も犯罪行為になります。具体的なマネーロンダリングの手口として脱税や麻薬の取引、銃の密売などで得たお金でカジノチップを購入しその後、換金。株の売買を行なって犯罪で得たお金を株で得たことにする。銀行に架空口座を開設しお金の出所をわからなくする。いろんな所を介することで出どころを突き止められなくなり、綺麗なお金として使えるようになればマネーロンダリングの成功となるのです。
マネーロンダリングが横行すれば犯罪組織の力は強くなり社会的な脅威となります。当然、日本でも外務省や警察庁を中心に組織犯罪の撲滅を推進しています。
『組織犯罪は国際社会の脅威となっており,その犯罪収益はさらなる組織犯罪のために運用されることから,我が国としても,組織犯罪防止・撲滅のため国際的に協調し,資金洗浄(マネーロンダリング)対策に取り組むことが不可欠です。』
(引用:外務省ホームページhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/m_laundering/index.html)
日本は国際的なマネーロンダリング対策に取り組む金融活動作業部会(FATF)やアジア太平洋マネーロンダリング対策グループ(APG)に参加しマネーロンダリング犯罪防止に取り組んでいます。
仮想通貨を使ったマネーロンダリングはあったのか
国内の話になりますが2017年4月から12月の期間中、警視庁にマネーロンダリングの疑いがある取引の届出が669件あったと発表されています。8ヶ月の期間で669件ですから、1ヶ月平均で74件、1日に2.5件はマネーロンダリングの疑いがある取引になる計算です。数字だけをみると決して少なくはないでしょう。2017年4月から犯罪収益移転防止法が施行され、マネーロンダリングなど犯罪が疑われる取引に関して国は交換業者(取引所)に報告義務を課したところ露わになった数字です。
2018年2月に警視庁はベトナム国籍の4人の男女による仮想通貨取引用口座を転売したとして逮捕しています。口座はインターネットバンキングから使用者に無断で引き出したお金の送金先として使われ、その後に仮想通貨に換金し中国に送られていたとのこと。記憶に新しい出来事で言えば国内の取引所、コインチェックで仮想通貨NEM(ネム)が多額流出しました。日本円でおよそ580億円分のネムはほぼ全額が他の仮想通貨に交換され、盗まれたネムの回収は不可能になりました。仮想通貨の市場以外から得たお金だけではなく取引所のシステムに侵入し得た仮想通貨もマネーロンダリングされた格好です。
国内で起こった事案だけでも数多くありますので世界的にみると日常茶飯事にマネーロンダリングは行われていると考えてもおかしくありません。
なぜ仮想通貨はマネーロンダリングに使われるのか
匿名性で言えば現金の方が非常に高く、手渡しなど、直接的な取引をすれば資金の追跡はほぼ不可能です。一方、仮想通貨の多くはブロックチェーン上に「誰と誰が取引した」と後々、追跡が可能です。厳密に言えば、国内の取引所のように個人情報を得ている取引所側が追跡可能となります。そうでなければ「誰」が取引を行ったという個人情報はもちろんわかりません。ただ、仮想通貨の取引には銀行の口座番号に相当するアドレスが必要です。アドレスがあることで資金の移動を把握できますが個人の特定は困難です。
個人の特定が困難であれば、やはり、犯罪集団らはマネーロンダリングに使いやすくなります。海外の取引所に口座を開いたことのある方ならばイメージができると思いますが、メールアドレスの登録くらいで登録を完了してしまい誰が口座を開いたのか取引所の運営側ですら分からないところもあります。この辺りが仮想通貨は匿名性が高いと言われている理由です。仮想通貨の多くの種類は匿名性が高いといえるわけですが、やりとりするアドレスが誰のものか特定できないなど、極めて匿名性(秘匿性)の高い種類もあります。参考までにいくつか紹介しておきます。
まずは「Monero(モネロ)」という仮想通貨ですが、リング署名システムを採用しています。リング署名システムとは複数人で一度限りの送金用アドレスを発行し受け取った人は誰からの送金かわからなくなる仕組みです。「Zcash(ジーキャッシュ )」にはゼロ知識認証の技術が使われ匿名性を向上させています。ゼロ知識認証は本人の情報以外は何も必要なく、送金者、受金者、取引数量すらも非公開で取引ができる機能です。「DASH(ダッシュ)」にも送金者をわからなくする機能がありcoinjoinの仕組みを採用しています。複数の送金者のコインを一旦プールする場所に集めてごちゃ混ぜにした後、受金者に届きます。もともと誰のコインだったかわからなくなりますので匿名性は非常に高くなります。最後に一つだけ「Varge(ヴァージ)」を紹介するとユーザーのIPアドレスを隠す機能があり、取引は完全に追跡できません。IPアドレスとはインターネットに接続するとその機器に割り当てられる番号と覚えておくといいでしょう。
仮想通貨の種類によっては利用者のプライバシーを強く守る観点から匿名性を高めているものもあります。しかし、利用者の中にはマネーロンダリング犯罪者が潜んでいる可能性もあります。犯罪者の立場を守ってしまいますから、国によっては取引の制限対象になりやすいのです。
今後の仮想通貨を利用したマネーロンダリングに対する対策
仮想通貨は取引の追跡性はありながら匿名性が高い特徴があり、自国だけではなく世界中で365日24時間取引可能となっているためマネーロンダリングに使われやすくなっています。もちろん、世界各国でその状態を野放しにしているわけではありません。
今年3月に行われたG20(財務相・中央銀行総裁会議)で仮想通貨を使ったマネーロンダリングについて金融活動作業部会に対策強化を進める方針で一致しています。各国が仮想通貨に関して異なる考えを持っているため足並みが揃うには時間がかかりそうですがマネーロンダリングは世界的に議論されるようになってきました。マネーロンダリングの議論では重要なのは口座開設時の本人確認とだという意見も出されています。それだけでは不十分で交換業者が身元の確認をしっかり行うことも必要です。さらに、不正な身分証明書で口座開設の申請をした場合はどうするかなど議論すべきところはまだまだありそうです。
G20の流れを待つばかりではなく各国がマネーロンダリング対策を強化して欲しいところでもあります。国内では金融庁がマネーロンダリング対策で登録業者にも業務改善命令を6月中に行う方針です。金融庁から認可を受けていない「みなし業者」のみならず登録業者にも指導の手を緩めていません。政府の動きだけではなく国内の取引所コインチェックは業務改善の一環で先に紹介した匿名性の高い仮想通貨4種類について6月18日付けで取扱を廃止します。流出したネムの一部はDASHに換金された疑いもありますしマネーロンダリングへの対策もあるのではないでしょうか。今後、匿名性の高い銘柄が取引所から淘汰される可能性もあります。仮想通貨の投資家とすればマネーロンダリング対策とはいえ規制が強まるとデメリットはありますが利用者保護の観点を忘れてはいけません。マネーロンダリング対策が国内外でどのように進むか見守る必要がありそうです。