「円」の世界は超低金利ですが・・・

「銀行に定期預金しても、利息はスズメの涙ぐらいしかつかない」「電車やバスに乗って銀行に行ったら、利息分はそれで吹き飛ぶ」。それはいま「日本の常識」のようになっています。たとえば三大メガバンク(三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行)の普通預金の利率は0.001%で、100万円預けても利息は1年で10円しかつきません。利息からは20.315%の税金が引かれるので、手にできるお金は8円です。定期預金(期間1年)の利率は0.01%で、100万円預けても1年で100円しかつきません。税金を引かれると80円です。それでは電車にも乗れません。

でも、それを「自分は日本に住んでいる日本国民だから、しかたない」と思ってあきらめるのは、まだ早いです。銀行に定期預金しても、利息はスズメの涙ぐらいしかつかないのは、それが「円の世界」の中での定期預金だからです。「世の中には、円以外の通貨もある」という発想ができれば、また違った世界が見えてきます。

米ドル預金の利率は「円」の40倍

取引所で可能な仮想通貨定期預金世の中の円以外の通貨と言えば、何がありますか?有名なところでは「米ドル」「ユーロ」があります。日本に住んでいる日本国民でも、日本の銀行で米ドルの定期預金、ユーロの定期預金に預け入れるのは自由にできます。「外貨預金」の口座をつくっておけば、パソコンやスマホで手軽に、円の口座からお金を移して米ドルやユーロなどの定期預金ができます。外貨預金の期間1年の定期預金の最低利率は、こうなっています(三井住友銀行/2017年10月23日現在)。

・米ドル 0.40%
・ユーロ 0.01%
・オーストラリア・ドル 0.80%
・ニュージーランド・ドル 0.95%

ユーロは円と全く同じですが、米ドルは円の40倍、オーストラリア・ドルは80倍、ニュージーランド・ドルは95倍の利息がつきます。では、円やユーロの預金の利率は、どうしてあんなに低いのでしょうか?円は、東京にある日本銀行が発行・流通をコントロールしています。ユーロは、ドイツのフランクフルトにある欧州中央銀行(ECB)が発行・流通をコントロールしています。日本銀行も欧州中央銀行もいまは利上げを全くせず「超低金利」の金融政策をとっているので、銀行での定期預金の利率がとても低いのです。

一方、米ドルはアメリカのワシントンDCにあるFRB(連邦準備銀行)が発行・流通をコントロールしていますが、一時の低金利政策から脱皮して2015年12月から利上げを始めています。最近では今年6月に利上げを実施しました。それが、世界のお金の流れをアメリカに向かわせています。今、米ドルは円やユーロより預金の利率が40倍も高いので、世界中の企業やお金持ちは米ドルで定期預金をしようと、円やユーロを売って米ドルを買っています。そのため為替レートは「ドル高、円安、ユーロ安」の流れになっています。利率の高いコインが買われるのは、外国為替の基本的なメカニズムです。とはいえ、世の中の円以外のコインには、米ドルやユーロのような外貨もあれば、「ビットコイン」のような仮想通貨もあります。

仮想通貨の取引所は実際に銀行と同じような仕事を行える

仮想通貨にも、外貨と同じように「通貨単位」があり、円との交換レートがあります。たとえば代表的なのはビットコインの単位は「BTC」で、円との交換レートは常に動いています。このにも普通預金や定期預金があります。仮想通貨の交換ができる「取引所」が「銀行」と似たような仕事をしているから、定期預金もできるようになっています。銀行の仕事とは、何でしょう? 銀行の基本的な業務は、次のようなものです。

定期預金者から預金を集める→集めた定期預金額を企業や個人に貸し付ける→貸し付けたお金を貸付利息とともに返済してもらう→満期になれば定期預金に対して利息をつけて預金者に返す

その預金利息と貸付利息の差が、銀行の儲け(利益)になります。振込やATM利用の手数料とともに、銀行の大きな収益源です。

実は交換サービスなどを行っている取引所でも、一部ではありますが「貸出サービス」があり企業や個人などに貸し付けています。貸し付けた後で貸付利息とともに返済してもらいます。アメリカには「ファクトム」という仮想通貨を使う「ファクトム・ハーモニー」という住宅ローンもあります。そんな貸出のしくみがうまく回っていれば、取引所は定期預金者から預金を集めて後で利息をつけて定期預金者に返す「仮想通貨預金」のしくみも、つくれます。満期を設ければ定期預金、設けなければ出し入れ自由の普通預金です。取引所は「銀行」とは名乗っていませんが、実際に銀行と同じような仕事を行えるわけです。

「仮想通貨定期」は円定期の500倍の高金利

「仮想通貨定期」は円定期の500倍の高金利です今年5月、東京・渋谷に本社がある取引所の「コインチェック(Coincheck)」が、日本で初の「仮想通貨定期預金」を始めました。ただしコインチェックは「銀行」ではないので「定期預金」とは名乗れず「貸仮想通貨サービス」と言っています。それは、利用者(=定期預金者)がコインチェックに仮想通貨を貸して、「消費貸借契約」を締結する形をとっています。利用者が保有するコインチェックが一定期間預かり、契約期間満了(=満期)後に返済するとともに、一定の料率で計算した利用料(=利息)も仮想通貨で支払います。そうすれば実質上、定期預金を預け入れたのと同じことになります。ただし形の上では定期預金商品ではないので、金融機関の「預金保険」の対象にはなりません。

預け入れの期間と利率は、次の4種類です。

・14日間 年利1%コース
・30日間 年利2%コース
・90日間 年利3%コース
・365日間 年利5%コース

取り扱う種類はビットコインだけでなく、イーサリアム、リップル、モネロ、ファクトム、オーガなどでも可能です。365日間のコースは、うるう年は1日前にずれますが実質上は1年定期と同じ期間です。大手メガバンクの1年定期預金利率は0.01%ですが、「仮想通貨定期預金」の利率は5.00%で、500倍。利率0.4%の米ドル外貨定期預金(1年満期)と比べても12.5倍という高金利です。たとえばビットコイン10000BTCを「365日・年利5%コース」に預けると、1年後に500BTCの利息が得られます。コインチェックの口座を持っていれば、申し込むだけで「貸仮想通貨サービス」を利用することができます。

外貨預金と似ているが、異なる点もある

貸仮想通貨サービス(=仮想通貨定期預金)は、一見すると外貨定期預金に似ています。外貨定期預金は、円から米ドルやユーロなど外貨に交換して預け入れ、満期になったら円に交換して受け取ります。それと同じように、仮想通貨定期預金は円から仮想通貨に交換して預け入れ、満期になったら円に交換して受け取ります。どちらも、預けている間に交換レートが変動するリスクを伴います。外貨定期預金では「海外旅行に行くので、それまで間、外貨預金に預けておく」という人がいます。たとえば半年後にアメリカに旅行するのでボーナスの一部を米ドルの定期預金に預け、円定期よりも高い金利を得て満期時に米ドルの現金やトラベラーズチェックで受け取り、アメリカ旅行中の支払いに使うというやり方です。それなら為替手数料は預入時の「円→米ドル」の片道だけですみ、為替の変動リスクを避けられます。

仮想通貨預金の場合でも、たとえばビットコインで支払えるお店はアメリカでも増えているので、海外旅行で使うために預けておくという使い方ができるでしょう。それなら交換レートの変動リスクを避けられます。ATMから米ドルで引き出せる口座を持っていれば、ビットコインを現地で米ドルに交換することもできます。さらに、海外旅行には行かなくても、ビットコインなどはそれで支払いができるお店が日本でも増加中なので、定期預金が満期になってもビットコインから円に戻さずに、それを国内での支払いに使うことができます。それなら、交換手数料は預入時の片道だけですみます。「国境をやすやすと越えられるコイン」だから、そんなことができるのです。

ただし、仮想通貨は円の日本銀行、米ドルのFRB(連邦準備銀行)、ユーロのECB(欧州中央銀行)のような、発行・流通をコントロールする中央銀行がありません。そんな中央銀行は金融政策によって金利を動かし、銀行預金の利率もコントロールしていますが背後にそのような存在がありません。そのため、円との交換レートや仮想通貨預金の利率が突然、大きく変動するリスク(危険性)があります。それをよく心得て、利用してください。