現在、「ビットコインキャッシュ」「ビットコインゴールド」など、ビットコインからハードフォーク(不可逆的な分岐)によって生まれた新たな仮想通貨がいくつかあります。
しかし、ビットコインアンリミテッドは、そうした新型の仮想通貨の類いとは異なります。あくまでも「ビットコイン」のバージョンアップを図ろうとする改革案、ないし、その改革案を支持する派閥的なコミュニティを意味します。いったい、「ビットコインアンリミテッド」とは、どんな構想なのでしょうか。
ビットコインが抱える大問題
「ビットコイン」は、2009年に実用化された仮想通貨の元祖です。今では仮想通貨の代名詞といえるほど、世間で名がよく知られた仮想通貨です。2018年に刊行された最新の「広辞苑」(岩波書店)にも、新たに項目が掲載されているほどです。
ビットコインは、現在の通貨よりも、国境を超えての送金手数料がはるかに安く、少額のお金のやり取りを安価かつ円滑に実現できることが期待されてきました。しかし、現在のビットコインは、送金手数料が引き上がっているだけでなく、送金にかかる時間も長くなっています。なぜなら、仮想通貨の元祖であるだけに、その性能が現代の実需に追いついていないのです。ビットコインをはじめとした仮想通貨は、その基幹記帳技術である「ブロックチェーン」に、過去のあらゆる仮想通貨取引を記録し、世界中のコンピュータ上で共有することによって、記録の勝手な改ざんを防ぐ仕組みで裏づけられています。
ただ、ビットコインは、ピザ2枚と1万BTCが交換されたことで知られるように、仮想通貨取引が具体的に開始された2010年以降の記録をすべてブロックチェーン上に乗せています。そのため、処理が重くならざるをえない弱点を抱えているのです。
海外送金を、もっと気軽に
ビットコインのブロックチェーンを構成する1ブロックあたりの容量は「1MB」と決まっています。世界中で行われている最新のビットコインの取引情報は、1ブロックにまとめて、10分間で処理します。しかし、ビットコインが普及するにつれて、送金(取引)の数が増えて、1MBの容量では収まらなくなってしまい、後回しになる送金処理が続出しています。
こうしたビットコインの送金遅れを「トランザクション詰まり」(送金詰まり)といいます。
そうした仮想通貨の送金の記録をブロックチェーンに記録する作業を高性能のコンピュータにさせて処理する「マイニング」の負担も上がっています。仮想通貨の送金を優先してもらいたいのなら、より多くの手数料を出さなければならない運用になっているのです。従来の法定通貨でも、国境を超えて送金するなら、銀行などの金融機関から数十米ドル(数千円)の手数料を徴収されますが、仮想通貨の送金手数料も、それと同等か、むしろ上回っているような実情があります。それでは仮想通貨を使うメリットが無くなってしまいます。
ビットコインを構想した正体不明の人物、「サトシナカモト」は、論文の中で送金コストの負担解消を仮想通貨の開発目的のひとつに掲げていました。仮想通貨の普及によって、世界中でお礼のやりとりや経済価値の交換が気軽にできるようになると期待されてきました。しかし、仮想通貨が普及すればするほど、その目的から遠のく結果になっていたのです。
一度「頓挫」してしまった、ビットコインアンリミテッド
そこで、トランザクション詰まりの問題を解消するため、「ビットコインアンリミテッド」を開発する構想が進んできました。すなわち、ビットコインをベースとしながらも、マイニング作業がスムーズに進み、仮想通貨の送金手数料が安く抑えられる改良版を導入する計画が持ち上がったわけです。
「アンリミテッド」(Unlimited)は、「制約がない」「無制限」という意味です。つまり、多数のマイナーの意思決定によって、ブロックサイズを変えられるようにしようとするバージョンアップ構想が、ビットコインアンリミテッドです。
2017年3月頃、ビットコインのマイニングを行う「マイナー」の中でも、世界屈指の規模を誇る事業者らが、ビットコインアンリミテッドの実現を提案しました。しかし、他の多数のマイナーの賛同を得られず、いったん白紙撤回されました。ビットコインの多くのマイナーは、ブロックサイズを1MBのままにし、セグウィット(Segwit)によって、ブロックに入るトランザクション(取引)の記録量を増やすことで、トランザクション詰まりを解消しようと考えていたからです。
セグウィット(Segwit)は、ビットコイン使用者が確かにその取引を行ったことを証する「署名」と呼ばれる暗号データが、ブロックの中でかなりの部分を占めていたので、ブロックとは別に保存することにより、ブロックをより効率的に使おうとする計画です。しかし、アンリミテッド派は、セグウィットに反対していたために、当時はそれも実現できない状況だったのです。ビットコインは、生まれた頃の姿のままで、取引量だけがひたすら増大していきました。
ビットコインキャッシュの誕生とセグウィット2Xの失敗
2017年8月1日、ビットコインに、ある「事件」が起きます。仮想通貨「ビットコインキャッシュ」の誕生です。
ビットコインのブロックチェーンが「ハードフォーク(不可逆的な分岐)」することによって、ビットコインとはまったく別の仮想通貨が生み出されました。このビットコインキャッシュは、仕様そのものはビットコインとほとんど変わりませんが、ブロック容量にビットコインの8倍にあたる「8MB」を確保したのが特徴です。つまり、1ブロックに多くの取引情報を書き込むことができるので、トランザクション詰まりの問題が解消されることになります。
ビットコインキャッシュの誕生以降、それと区別する意味で、従来型のビットコインを「ビットコインコア」と呼ぶことも増えてきました。ビットコインキャッシュは2017年の後半から終盤にかけて、世界中から支持を集めて、相場も断続的に上昇していきました。
ビットコインコアは、2017年11月16日に、ハードフォークを行わずにブロックサイズを2MBに拡張する「セグウィット2X」と呼ばれるバージョンアップが行われる予定でした。しかし、その開発者はたった1人しかおらず、アンリミテッド派をはじめとする「セグウィット反対派」のマイナーをほとんど説得せずに強行しようとしました。そのために、セグウィット2Xは猛反発を食らい、予定直前の11月8日に突如中止(無期限延期)が発表されました。その後、ビットコインコアの取引価格はたびたび暴落しています。ただ、その暴落とほぼ同じタイミングでビットコインキャッシュが高騰したのも確かです。
お互いの相場に逆相関関係が形成されていたため、ビットコインコアに入っていた相当な割合の資本が、直接的にビットコインキャッシュへ流れこんでいたものと推測されています。ビットコインコアに対する「失望」の意思表示だったともいえるでしょう。
ビットコインコアの「正統な進化」の鍵を握る構想へ
ブロックサイズの可変的な拡張によって、ビットコインコアのトランザクション詰まりの解消を目指す、「ビットコインアンリミテッド」の構想は、皮肉にも、ビットコインキャッシュの台頭と普及によって、その主張の正しさが半ば証明されたような状況です。
しかし、ビットコインキャッシュは、もはやビットコインコアとは別物の仮想通貨であり、別の相場が形成されています。やはり、仮想通貨としての「伝統」と「実績」、そして実際に保持者が世界中に多数いるビットコインコア自体がバージョンアップすることによって、サトシナカモトが掲げた理想に近づくことが重要だと考えられているのです。
「ビットコインアンリミテッド」は、2018年5月の時点で未だ実現されていません。ブロックサイズを可変的に拡張するという、その考え方を採用する、採用しない、いずれにしても、ビットコインコアがトランザクション詰まりの問題を解消する策を導入すべきです。それを達成できない限り、将来的に、仮想通貨の本格的な普及を期待することは難しいかもしれません。