ネム流出事件を発端としたコインチェック事件は、ネット証券会社などを運営するマネックスグループによるコインチェック買収によって一応の解決を迎えることとなりましたが、仮想通貨を取り巻く環境は依然予断を許さない状況にあります。そんな中、国内大手企業が次々に仮想通貨への参入を発表し、にわかに新しい流れが生まれようとしています。
GMOコインに業務改善命令!その信頼性は揺らぐのか
東証1部に上場している大手企業の中で、仮想通貨に早い段階から注目し、すでに取引可能なウォレットサービスを運営しているところとして真っ先に挙げられるのは、インターネット証券などを手掛けるGMOグループでしょう。
同社は2017年初頭から「GMOコイン」というサービスにおいてビットコインの売買はもちろん、イーサリアム・ライトコイン・リップルなどのアルトコインも取り扱い、多くのユーザーを集めています。しかし2018年3月8日、他の中小仮想通貨取引所の例にもれず、実効性のあるシステムリスク管理体制がなされていないという判断から、GMOコインも金融省に業務改善命令を下されています。
とはいえ、コインチェックの様に仮想通貨流出などがあったわけでもなく、取り扱いサービスに一切の支障がないとの発表が同社からなされており、システム管理体制の強化。充実も順調に進められていることから、以前よりもその信頼性が増していくという見方が有力です。
SBIホールディングスの取引所はいつできる?
一方、仮想通貨市場において好意的に受け入れられている事案に、国内フィンテック業界をリードする存在であるSBIホールディングスが、「SBIバーチャルカレンシー」という子会社を設立し、仮想通貨取引所の認可を獲得済であり、近々にリリースされるという情報が出回ったことが挙げられます。
ただし、そのリリース・サービス提供開始は当初2017年12月下旬とされていたものが、2018年2月下旬→7月以降といった具合に延期され、ユーザーからは期待が大きかった分ため息も漏れ聞かれています。しかし、このSBIホールディングスが下した「開設・サービス提供延期」の判断は、これまで開設・サービス提供されてきた、他の取引所が巻き起こした一連の不祥事や行政処分を受けて、慎重かつ誠実にセキュリティーを提供できる、信頼性の高い取引所を築き上げるためのものです。そして専門家の中には、このSBIホールディングスの慎重な姿勢について、反対に評価をする声も高まってきているのも事実です。
また、延期の発表とともに、なんとSBIホールディングス自体が「Sコイン」という自前の仮想通貨を発行し、その決済用プラットフォームを開発するプロジェクトも、同時に進行していることが公表されました。もし本当に、かのSBIホールディングス発行の仮想通貨が、取引所とともにリリース・上場されることになれば、非常に信頼性・有用性の高い新銘柄誕生という、仮想通貨市場全体を活気づける材料になりえる、との投資ユーザーからの期待も寄せられています。
楽天三木谷会長による仮想通貨・ブロックチェーン参入発表
前述した、仮想通貨への大企業参入の流れはより加速しており、国内最大の電子取引企業である楽天グループによる仮想通貨への「本格参入」が、去る2月27日バルセロナで開催された「モバイル・ワールド・コングレス」において、三木谷会長の口から直接発表されました。具体的には「楽天コイン」と呼ばれる自前の仮想通貨と、同社の代名詞として実にこれまで1兆ポイントがユーザーへ付与されてきた、「楽天スーパーポイント」を組み合わせるシステムでの運用が計画されています。
楽天スーパーポイントは、ご存知の通り楽天のサイト内や実店舗において、「現金同様」に使用できる決済ポイントですが、あくまでも「楽天」という企業に対する信頼の元、成立しているロイヤリティープログラムであり、結果として国内ユーザーおよび小売・卸売業者にしか、アプローチできないものです。
これに、海外での高額決済に利用されているブロックチェーン技術が実装されることで、今よりもグローバルな視点で、ロイヤリティプログラム参加者を集めることが可能になってくると考えられます。つまり、これまで楽天に参加してきた小売・卸売業者は、あくまで国内にとどまっていましたが、正式に楽天コインがリリースされることになれば楽天は国内から飛び出し、Amazonのごとく世界的なECサイトに成長する可能性も出てきます。
楽天はこの仮想通貨のリリース時期をまだ発表していませんが、2年前にはブロックチェーンの研究ラボを開設し、着々と準備をしています。さらに楽天グループは、ビットコインの決済代行を手掛けている「BitNet」の知的財産を取得していることからみても、三木谷会長による今回の発表は、目の前にサービス開始が迫っている証拠ではないか、という見方も広がっています。
既に関連子会社を設立済!LINEの仮想通貨戦略と先行き予想
大手企業による、仮想通貨ビジネス参入の発表はこのところ相次井出織、つい先日となる4月2日、国内最大のSNSサービス運営会社であるLINE(株)は、ブロックチェーン関連子会社である「UNblock(オンブロック)」を、韓国において設立したと発表しました。
LINEは、2017年の取引高が4,500億円を突破し、登録ユーザー数も4,000万人に到達したLINEPay」に続き、金融関連事業の強化を目的とした新会社、「LINE・financial」を今年1月設立するなど、これまでも仮想通貨ビジネス参入の気配を示していましたが、今回の発表でそのスピードが増していることがうかがえます。
サービス提供時期など、具体的な発表は今だなされていないものの、既に優秀な決済ツールと認知されているLINEPayに、仮想通貨のブロックチェーン技術がプラスされれば、有益性と利便性がより高まってくる、という期待感が広がっています。しかし、本元であるSNSトークの内容流出問題が以前取りざたされていたことから、セキュリティー面に不安を呈する声も少なからず上がってきています。
2018年は国内外大手企業の仮想通貨参入元年となるか
ここまで取り上げてきた企業以外にも、トヨタ・NTT・リクルートなどといった冠たる国内大手企業やメガバンクが、こぞって国内外の仮想通貨関連企業と業務提携を進めたり、投資活動を進めています。中には、自前で仮想通貨ビジネスを手掛ける会社設立を、計画・進行している所もあるなど、一時的なブームによる「投資・投機」などといった、マネーゲームとは異なる動きが、仮想通貨業界では起き始めています。
2018年は、「仮想通貨バブルがはじけた年」と位置付ける専門家がいる一方で、このような大企業の参入によって、仮想通貨市場が発展・成熟する年だとする見方も多くあります。確かに今年に入ってからというもの、コインチェック事件などに起因する、各仮想通貨銘柄の大幅な時価総額の減少や、その後の金融庁の締め付け強化による業者への行政処分が相次ぐなど、ネガティブな事案が多く発生しました。
しかしその反面、これまで「みなし運営」されていた取引所は適正化の兆しを見せ、有象無象の怪しい業者は淘汰されていき、その代わり今回触れたような信頼性と資金力を持つ有力企業が、開いた席に座る傾向を見せ始めています。併せて、ビットコインをはじめとした各仮想通貨のレートも以前のような乱高下傾向から、良い意味で低空飛行で安定しつつあります。
仮想通貨は本来、ブロックチェーン技術の特性を生かした、スピーディーで安価な決済システムがその魅力であり、膨大な手数料が発生する銀行決済やクレジットカードに変わるものとして、各企業はビジネス参入を早い段階から視野に入れてきました。ですが、乱高下するその時価に翻弄され利益を安易に得ようとするユーザーからの注目が集まり、ビジネスリスクやコンプライアンス面などで難色を示した各企業は、「様子見」を決め込んでいた傾向にあります。
それが「全銘柄の時価大暴落」という形で鎮静化してきたことにより、今回解説してきたように企業の動きが活発化してきたとみられます。その流れに乗って、実際にSBI・楽天・LINEという優秀な企業がプロデュースする、「純国産仮想通貨」が本年中に加わってくるようなことがあれば、2018年こそ真の意味での「仮想通貨普及元年」となる可能性があるでしょう。