仮想通貨の交換レートの値動きは、外国為替レートの値動きと比べると、かなり激しくなっています。円と米ドルの為替レートは現在1ドル=113~114円ぐらいです。2012年はおおむね80円前後でしたから、5年間でドル高・円安がけっこう進みました。と言っても2倍や3倍になったのではなく1.42倍で、百分率(パーセンテージ)で言うと42%です。単純に言えば、5年前に比べてアメリカで売られる日本製品の値段は42%安くなり、日本を訪れるアメリカ人の滞在費用はドル換算で42%安くなりました。4割引です。そのため自動車などの輸出産業は業績が良くなり株価が上がりました。日本を訪れる外国人の数は2012年の835万人から2017年の政府予測2854万人へ約3.4倍に増える見込みです。東京五輪の開催が決まったおかげもありますが、米ドルだけでなくユーロに対しても中国元に対しても円が安くなり滞在費用が安くなった効果は、決して小さくありません。

さて、仮想通貨の円との交換レートのほうは今年、どうだったでしょうか?一番有名な仮想通貨は「ビットコイン」ですが、今年1月には1BTC=約10万円でした。それが11月10日には1BTC=約82万円になりました。11ヵ月で約8倍です。1月に100万円分の円をビットコイン約10BTCに交換して、使わずに持っておき、10月にビットコインから円に交換すると、約820万円になって戻ってきました。高級車が買えます。

仮想通貨の対円レートが8倍、25倍、50倍に

仮想通貨の対円レートが8倍、25倍、50倍しかし、上には上がいたのでした。「リップル」というけっこう名が知れた仮想通貨があります。通貨単位は「XRP」です。1月の交換レートは1XRP=1円以下でした。それが11月10日には1XRP=25円。約25倍になりました。100万円が2500万円になったわけです。しかも今年は1XRP=50円前後だった時期もあり、100万円が5000万円になるチャンスがありました。マンションが買えます。

もちろん、100万円を元手に、結果として高級車やマンションが即金で買えるような「一攫千金」の夢をあおるために、こんな話をしているのではありません。仮想通貨の値動きが外国為替レートの値動きに比べていかに激しいかが、今年、現実に起きたこのケースでおわかりになると思います。心得ていて頂きたいのは、仮想通貨の交換レートはそのように8倍、25倍、50倍になることもあれば、8分の1、25分の1、50分の1になることもある、ということです。元手の100万円が、12万5000円、4万円、2万円に激減してしまい、100万円のうち87万5000円、96万円、98万円が、まるで煙のように消えてしまうような結果も、ありえます。

仮想通貨全体の価値が高まり、円とドルとの交換レートが急上昇

仮想通貨を英語でバーチャル・カレンシー(virtual currency)と言いますが、「暗号通貨(クリプトカレンシー/crypto currency)」という別の呼び名もあり、欧米ではむしろそちらのほうが主流になっています。その暗号通貨の各通貨の発行残高に米ドルとの交換レートを掛けた時価総額の合計が「暗号通貨の市場規模」で、全世界の統計があります。それが「Cryptocurrency Market Capitalizations」で、それによると仮想通貨の市場規模は11月10日現在、約2084億ドル(23兆5000億円)となっています。今年1月5日には182億ドル(2兆円)でしたから、今年だけで11.4倍になりました(ドル円レートは当時)。特に、2017年になってからの伸びにはめざましいものがあります。

仮想通貨と円の交換レート8倍、リップルの交換レート25倍、50倍の背景には、そんな仮想通貨全体の急成長がありました。仮想通貨を持ちたい人、使いたい人が全地球的規模で増えていて、その需要の伸びが仮想通貨そのものの値打ち、価値を押し上げたと言えるでしょう。しかし、交換レートが急上昇した理由は、それだけではありません。特にビットコイン、リップルについては、ある事情がからんでいました。それは「総発行量の上限が決まっている通貨だから」という理由です。

仮想通貨発行量に上限があるため円との換金価値がある

仮想通貨は国が発行する通貨ではありませんから、国の機関からの指図を受けません。仮想通貨は紙幣やコインと違って、原料の紙や金属も、印刷や鋳造を行う機械も、保管場所も、保管や輸送の時に盗まれないように警備する人も必要ありません。そのため、発行しようと思えば、無制限にいくらでも発行することができます。しかしそれをやったら、誰も仮想通貨を信用しなくなります。通貨を無制限に発行されたら「お金としての価値」がどんどん下がってしまい、利用する人が損をするからです。

似たようなことが第一次世界大戦で負けたドイツで1922年に起きました。当時の通貨ドイツマルクの「お金としての価値」がどんどん下がって、マルクで給料をもらい買物をするドイツ国民はみんな損をしました。大戦前に比べて通貨発行高が2000倍、物価が2万5000倍、1年間でマルクと米ドルの為替レートが100万分の1以下になるようでは、貯金をしても無意味です。お金がある人もない人も、財産はどんどん目減りしました。これは「ハイパーインフレ」と呼ばれる現象で、最近では2008年にアフリカのジンバブエ共和国で起きています。その懸念があるために「仮想通貨は国の規制を受けない野放し状態。好き勝手に発行されたら、その通貨はハイパーインフレ状態になり、利用者はみんな泣きをみるだろう」という偏見にさらされました。

それに対し、「いや、そんなことは絶対ない。信用してほしい」と、仮想通貨を発行する側ではまずビットコインが打ち出した「通貨政策」が、「総発行額に上限を設け、それを超えて発行しない」という自主規制ルールでした。ビットコインが決めている上限は2100万BTCです。他の仮想通貨もそれにならい、リップルの上限は1000億XRPです。そのように仮想通貨発行の上限ルールを設けたおかげで、それまでIT業界の周辺で話題になるだけの存在だった仮想通貨は金融界や一般社会から信用を得て、現在のような活況に至った、と言ってもいいくらいです。

発行の上限は決まっていますが、仮想通貨を持ちたい、使いたいという需要は、特に今年になってからはうなぎのぼりです。需要と供給のバランスで、供給が変わらず需要ばかりどんどん増えたら、その商品の価格はどんどん上がるというのは経済学のイロハです。仮想通貨でも同様で、供給の上限が決まっているのに需要がどんどん増えていくと、円との交換レートがどんどん上がっていく。これは納得できるでしょう。

仮想通貨投資は円との直接換算が可能な銘柄がおすすめです

仮想通貨は、儲かる“可能性の高い”投資である事を理解しておく仮想通貨投資を考えた場合、円との換算が楽なのはビットコインや主要なアルトコインです。マイナーなアルトコインの場合は、直接円との換算が出来ずに、一度ビットコインや主要コインに変換後に、円への換金が可能になる場合もあるからです。慣れてくれば投資の幅も広がりますが、まだ仮想通貨投資に慣れない初心者の方は、直接円との換算が可能なメジャーコインでの投資をおすすめします。

仮想通貨の供給と需要のバランスでは、原則として需要が増えれば交換レートは上がり、一方の供給が増えれば交換レートは下がります。発行の上限があるのに供給が増えるとはどういうことかというと、仮想通貨の世界への「新規参入」つまり新人の登場による影響が出ます。ICO(イニシャル・コイン・オファリング/Initial Coin Offering)、クラウドセールと呼ばれる新たな仮想通貨の発行や、ビットコインで8月と10月に行われた、「のれん分け」のような分岐(ハードフォーク)が、それにあたります。需要と供給の関係以外では今年、中国で起きたような政府規制の強化も交換レートの変動に大きく影響しました。為替や株価を動かすような経済情勢の変化も、決して無関係ではありません。

そのような要素がからみあいながらビットコインなど、コインチェック(Coincheck)やザイフ(Zaif)やビットフライヤー(bitFlyer)のような仮想通貨取引所で取引される仮想通貨は、その交換レートがどんどん激しく変わっています。1日で20%、30%動くことも、決して珍しくありません。1日で1万円が1万2000円や1万3000円に増えることもあれば、8000円や7000円に減ることもあるということです。まるでジェットコースターに乗っているような変動率の大きさです。それは、1日のうちに仮想通貨を買って、売って、20~30%の利益を得られることもあれば、20~30%の損失をこうむることもある、ということです。その利益を取って、損失は避けられるように考えて仮想通貨を売買すれば、うまくいけば「儲け」を出すことができます。それは、仮想通貨を株式やFXのような「投資商品」として扱うことです。

株式やFXと比べると、仮想通貨への投資は良い意味でも悪い意味でも「自由」です。株式は売買時間や投資の最低単位が決まっていたり、FXは一定の証拠金を差し入れる必要があったり、損失が拡大すると強制的に解約(ロスカット)されたりと、参加する投資家はさまざまな規制を受けますが、仮想通貨への投資には、自主規制はありますが、公の規制は一切ありません。

しかし、利益を取って、損失を避ければ大きく儲かると言っても、いつもうまくいくとは限りません。逆に、利益を逃して損失を取ってしまい、大きな損失を出すこともあります。儲かる自由も、損する自由もあります。自由には責任が伴いますが、規制を全く受けない仮想通貨への投資は、株式やFXのそれ以上に無制限の自己責任を伴います。「人間は自由という刑罰を受けている」と言った哲学者がいましたが、自由であるというのはある意味、とても怖いことです。「値動きが激しい仮想通貨はいい投資になるらしい」と軽い気持ちでいる人は、それをぜひ心得てください。

仮想通貨投資で実際に円との交換を体験してみる

手始めに仮想通貨への投資をやって、うまくいってうま味が味わえたので、気が大きくなって「あり金を全て注ぎ込む」ことは、非常に危険です。「もし全部なくなってもかまわないような余剰資金で行う」ことは、仮想通貨に限らず投資全般に言えることです。投資の経験があり、それがわかっている人でも、仮想通貨への投資ではぜひ知っておいてほしい、いくつかの注意点があります。

交換レートは、株価や外国為替レートのように、同じ数字が放送やネットで広く伝えられません。試しに日本で利用者が多いコインチェック、ビットフライヤー、ザイフの交換レートをのぞいてみてください。ごくわずかですが、お互いの数字が異なっています。利用登録する際は原則として手数料はかからず、同じウォレットを使いながら取引所を使い分けることは可能ですから、主要な仮想通貨取引所に全部登録しておくのも手です。そうすれば、いざ交換する時に見比べて最も有利な取引所を選ぶことができます。差は数円かもしれませんが、数円の違い、0.001%の違いでも「まっ、いいか」とおろそかにしないのが、優れた投資家です。

仮想通貨への投資は、1回の投資資金の下限がありません。これは株式やFXにない特徴です。そのため初心者は「1000円で試してみる」ことができます。それは「実戦形式の練習」ではなくて「実戦」です。30%上昇しても儲けは300円ですが、30%下落しても損失は300円ですみます。売買を何十回繰り返しても、1回の元手が1000円なら、もし損失を出し続けても「授業料」は高々1万円程度まででしょう。そんな「修業モード」で実戦経験を積んでいるうちに、「ここで買えばいい」「ここで売ればいい」というタイミングの見きわめが、だんだんわかってきます。

それはスポーツで言えば勝機を逃さない「勝負勘」のようなもので、自分でプレイせずに「試合」を見ているだけでは、身につかないものです。その意味では、仮想通貨で投資の経験を積んでからFXや株式投資など他の投資商品に進むのも、悪くはないでしょう。