キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の聖地である中東イスラエルで、仮想通貨に関する動きが活発になっています。イスラエルと言えば国の中央銀行が仮想通貨の導入を検討していることがニュースにもなり、先進的な取り組みをしていると話題です。そこで今回は、中東の国イスラエルの仮想通貨事情を詳しく解説していきます。
イスラエル政府が仮想通貨の発行を検討
ロシアやドバイは国として仮想通貨の発行を検討していますが、これに続いてイスラエル政府も発行を検討しています。イスラエルではブラックマーケットにおける取引がGDPの22%と割合が高く、仮想通貨の発行はこれを削減する効果があると期待されています。具体的には、イスラエルの現在の法定通貨である新シュケルに連動した通貨の発行が検討されており、世界的には進んだ取り組みと言えます。
また、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、国のトップとしては珍しく銀行とビットコインの関係についてYou Tubeの動画で言及しており、将来的に銀行は時代遅れになると語っています。そして、イスラエル首相はブロックチェーン技術について理解しているのでは?という声もあり、米マサチューセッツ工科大学卒、元ボストンコンサルティンググループの経済コンサルタントという経歴がそれを裏付ける要因となっています。
イスラエルでの仮想通貨はブラックマーケットでの取引を難しくすることが一つの目的ですが、それに合わせてイスラエルで現在流通している現金を削減する法案も検討されています。具体的には給与を現金で支払うことを禁止する法案などがそれにあたります。そして、仮想通貨はブロックチェーン上に全ての取引記録が記載されていくため、このイスラエルの目的は仮想通貨のメリットを上手く取り入れていると言えます。
イスラエルのICO統制とICOによる成功例
次は、仮想通貨によって資金調達をする「ICO」についての動きを解説していきます。イスラエルでは2017年9月に政府がICO統制を発表しています。そして、審査委員会の設置も発表されており、同委員会はそれぞれのICOがイスラエルの法律に違反していないかを調査することになります。なお、ICOの内容によっては規制することも発表されています。
ICO規制の流れがあるイスラエルではICOが活発に行われており、イスラエルのIT企業であるシリン・ラボ社は2017年12月12日に行われたICOで約120億円の資金調達に成功しています。これは24時間という短い時間で達成されているため、期待の高さが伺われます。また、同社は広報活動にも力を入れており、FCバルセロナ所属でアルゼンチン代表でもあるリオネル・メッシ選手をブランド大使として起用しています。
そして同社は、ブロックチェーン技術を活かしたスマートフォン「FINNY(フィニー)」の発売を発表しています。「FINNY」は最初に日本や韓国、ベトナム、アメリカ、イギリスの5カ国で販売される予定で、2018年10月に販売が開始される予定となっています。気になる「FINNY」の価格は約1,000ドル(約11万円)と予定されており、日本で人気のあるiPhoneⅩもほぼ同額であることから、特別高い価格設定となっているわけではありません。
仮想通貨は資産という扱いになり課税対象
イスラエルでは仮想通貨は通貨ではなく資産という扱いになり、課税されることが確認されています。そのため、イスラエルで仮想通貨を保有している場合には、利益の25%の税金を収めなければなりません。また、企業や取引所が仮想通貨を取り扱っている場合には、17%の付加価値税の支払いも必要になってきます。
そして、イスラエルではICOに課税する方法を検討する通知草案も公表されているため、課税対象はICOにも広がる気配をみせています。そして、過去のICOでは2017年12月にシリン・ラボ社が120億円の資金調達に成功しているため、これが課税対象となると巨額の納税が必要となります。
イスラエルでの仮想通貨に関する出来事やプロジェクトについて
それでは次に、イスラエルでの仮想通貨関連の大きな事件やプロジェクトを解説します。イスラエルに拠点のある仮想通貨投資サービスである「CoinDash(コインダッシュ)」が2017年7月17日にハッキング被害を受けています。これはトークンセール中にハッキングされ、ウォレットアドレスが書き換えられたことによって投資家達が被害に遭っています。この時の被害額は約7億4,000万円で、CoinDashはICOトークンで保証するとしていました。しかし、この時のハッカーは理由は不明ですが9月に突然1万イーサリアムを返金してきています。さらに、2月23日には2万イーサリアムが返金されており、イーサリアムの価格は上昇していたことから結果的に増えて戻ってきたことになります。
続いては、証券貸借プラットフォームの創設です。これは、イスラエルのTHE FLOOR(ザ・フロア)社が中心のプロジェクトで、イスラエルで唯一の証券取引所であるテルアビブ証券取引所と提携して、ブロックチェーン証券貸借という中央機関を創設したものです。これにより、これまではイスラエルで不可能だった事業者間での直接証券取引(貸借)が可能になりました。また、テルアビブ証券取引所の取引量が増加することも期待されています。このような新システムは、仮想通貨に対して良い影響があり、さらに市場を活性化させることに繋がると予想されます。
次は、イスラエルでビットコインによる資金洗浄を行った疑いで、2018年5月にHilmi Git(ヒルミ・ギット)氏が起訴された出来事です。同氏は10年間で約8億8,000万円以上のマネーロンダリングの疑いがあり、1,017ビットコインが警察に押収されています。同じような出来事は他の国でも確認されており、アメリカやフィンランドでもビットコインが押収されています。仮想通貨がマネーロンダリングに使われるのでは?という予想は以前からありましたが、この事件により対策が必要なことがハッキリしています。
そして、イスラエル財務省は仮想通貨を使ったマネーロンダリングなどを規制するための草案を発表しています。この草案の内容は新たな法律に追加され、金融サービスプロバイダーを対象とした法律となります。この動きはイスラエルのビットコインコミュニティから歓迎されており、イスラエルのビットコイン協会会長のManny Rosenfield(マニー・ローゼンフィールド)氏も好意的な回答をしています。
イスラエルと仮想通貨の今後の可能性
イスラエルではプログラミング教育が小学校から義務化されているとも言われており、その高い技術力には新たな可能性が秘められています。特に優秀な生徒は軍の研究開発部門「8,200部隊」に選抜され、軍事技術の最先端を担っていると言われています。
また、イスラエルでは仮想通貨の導入によって、ダイヤモンド市場の取引の効率化や透明性を改善するといった新たな動きも出てきています。イスラエルの現在のダイヤモンド取引の多くは「最小限の記録と匿名」で行われており、ブロックチェーン上で取引記録が全て記録されるため、この問題を解決することが期待されています。このように、高い技術力を持つイスラエルが仮想通貨を使って様々な問題を解決していくことは、今後の仮想通貨市場にとっては明るい材料となることが予想されます。
ただし、仮想通貨は中央管理者が存在しないため非中央集権的なことが特徴です。そのため、特定の国の経済状況などは影響しないことがメリットですが、イスラエルのように特定の国家が仮想通貨を発行するとなると、それ自体のメリットを消すことに繋がります。国単位で仮想通貨に関わることは市場を活性化させるには良いことですが、仮想通貨自体のメリットは何なのかを改めて考える必要もあります。