サトシ・ナカモトの論文からの仮想通貨(ビットコイン)の歴史の始まり

仮想通貨の何が革新的なのか2017年10月現在、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨がニュースで話題になることが増えましたが、仮想通貨の実際の運用がスタートしたのは2009年で、その歴史はまだ10年も経っておらず非常に短いものです。仮想通貨の歴史の始まりは、サトシ・ナカモト(中本哲史)と日本人名を名乗る人物(集団)が、インターネット上に『Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System(ビットコイン:P2P 電子マネーシステム)』という論文を突如発表したことでした。この論文では、政府・中央銀行・企業などの中央の管理者が通貨を発行してその価値を担保する今までの通貨制度ではなくて、「暗号化技術」と「分散型台帳の情報処理システム」を組み合わせ、「P2P」で事後に数字を改ざんできない価値をやり取りできる可能性が指摘されました。

この論文に触発された情報科学の研究者とプログラマーの協力によって、わずか数ヶ月で「国・政府・中央銀行の通貨発行権や通貨管理権」に統制されないビットコイン(仮想通貨)が自律的に流通するようになったのです。お金の発行や流通を管理する「権威的な組織(権限を持つ管理者)」が存在しないのに、仮想通貨の価値が担保されているというのは、ある種の革命的な現象でした。仮想通貨のすごさの一つは中央集権的に統制・管理されていないのに、通貨の数字が改ざんされるような不正が起こっていないこと(情報公開・技術的セキュリティーによって改ざんできないこと)であり、管理者不在でも「不正な改ざんができない・分散型の台帳管理システムが停止しない」という好ましい状態を維持して、「仮想通貨の機能的価値」を担保していることなのです。

ビットコインの最大の特長とされる「改ざんの不可能性=送金・決済の安全性」は、大勢の人が相互監視できる暗号化技術・ブロックチェーン技術によって担保されていることから、日本以外の海外では「仮想通貨(virtual currency)」ではなく「暗号通貨(cryptocurrency)」と呼ばれることが多くなっています。

「管理者不在」の仮想通貨とWebサービスを支える“P2P”のすごさ

P2P(ピア・ツー・ピア)と聞くと私たち(特に30~40代以上の人)は、すぐにファイル共有ソフトや「Winny事件(匿名的な個人間のファイル交換による著作権侵害事件で、開発者は幇助の意図はなかったとして無罪判決を受けた)・SNSでの秘匿すべきプライベート写真の流出事件」を思い出すのではないでしょうか。今は昔ほど流行っていませんが、少し前のインターネットではP2P技術を応用したWinMXやWinnyなどのファイル共有ソフトを使って、著作権で保護されたコンテンツ(映像・写真・ゲームなど)を違法にやり取りする個人が多かったため、P2Pに悪いイメージが持たれることもありました。

仮想通貨の基幹技術の一つでもある“P2P”とは、ネットワーク上で対等な関係にある端末間を相互に直接的に接続して、データを送受信する通信方式のことですが、P2Pのソフトウェアに接続されている端末のことをピア(peer)やノード(node)と呼んでいます。P2Pの反対の通信方式は「クライアント-サーバー方式」で、中央のサーバーを経由してネットワークに接続された各コンピューターが情報をやり取りする通信方式になります。クライアント-サーバー方式ではクライアントとサーバーに立場・機能が分離しており、クライアントの端末同士は直接やり取りすることはできません。P2P通信が応用されたサービスには、仮想通貨以外にもLINEやSkypeなどの利用者の多いメッセンジャーサービス(IP電話)があります。強い権限を持つ管理者が不在でも、個人間のデータの「自由で安全なやり取り」を可能にしてくれるすごい技術として、今もP2Pの利便性とセキュリティーの向上のための研究開発は続けられているのです。

P2Pのメリットとして、特定の端末だけに負荷を集中させないことで通信を断絶させない「高スケーラビリティー+サーバー障害に対する耐性」、高性能なサーバーコストを節約できる「コスト削減」、ピア間の通信を暗号化することで情報発信者を匿名化して個人情報・言論の自由を守る「匿名性(犯罪に悪用されればデメリット)」があります。仮想通貨にも使われているP2P技術のすごさは、「通貨の取引情報の履歴(台帳データ)」を特定のサーバーだけに保管するのではなく、膨大な数の各端末が分散して台帳データを持つこと(常に公開情報を照らし合わせられること)で改ざんを原理的に防げること(すぐに改ざんを検知できること)にあります。

仮想通貨の革新的技術として注目されるブロックチェーン

仮想通貨の最大の特徴であるブロックチェーンという歴史的発明銀行などの金融機関は、中央のサーバーでお金の動き(台帳データ)を「中央集権的」に管理していますが、仮想通貨はブロックチェーンとP2Pの技術によって、各ノードが分散的に台帳データを照合して管理する「分散台帳の方式」を採用しています。仮想通貨(ビットコイン)では過去から現在までのすべての取引と発行(採掘)が各ノードに分散的に記録・公開されているのですが、常識的に考えれば「膨大なデータ量になる一つの台帳データ」をバラバラのノード(端末)で分散的に記録していればデータの整合性が狂ってしまいそうです。

しかし「ブロックチェーン」と呼ばれる革新的技術によって、「コンピューター・ネットワークで分散的に共有される仮想通貨の全取引記録の整合性」が常に相互監視体制で維持できるようになったのです。ブロックチェーンで仮想通貨の巨大な台帳データに取引データを追記して完全な整合性を保つには、膨大な計算処理(マシンパワー)が必要であり、仮想通貨ではこのブロックチェーンの追記の計算処理(採掘=マイニング)を手伝ってくれた人に、仮想通貨(報酬分)を新規発行して与えるという面白い仕組みもあります。

ブロックチェーンとは簡単に言えば、(仮想通貨の取引情報が記録された)部分データである「ブロック」を次々にチェーン状につなげていって公開し閲覧可能にする技術がブロックチェーンであり、一度検証されて封印されたブロックの内容を、後から書き換えて改ざんすることはブロックチェーンの技術的に不可能になっています。

仮想通貨に応用されたブロックチェーンが歴史的発明といわれる理由

ブロックチェーンとは、(ビットコインであれば約10分間ごとにブロックが形成されますが)一定期間の取引情報を記録した「ブロック」を、次々と過去から現在までデータの整合性を維持しながら間違いなくつなげていく技術がブロックチェーンです。ブロックチェーンは、過去から現在までのデータがすべてチェーン状につながっていて、データの整合性が確認されている「一番長いチェーン」が正しいというルールがブロックチェーンにはあるので(一つのノードで改ざんしても拒否される)、改ざんがブロックチェーンの原理的にほぼ不可能なのです。ブロックチェーン技術に基づく仮想通貨のデータ改ざんの不可能性によって、「貨幣的価値」をP2Pで安全に送ることが可能になったのですが、このブロックチェーンは革命的といっても良い変化でしょう。

インターネットで中央の管理者がいなくても、「改ざんが許されない価値あるデータ(特に通貨的・権利的な価値)」まで送れるセキュリティーをブロックチェーンで実現したことが、ブロックチェーンが歴史的発明といわれる理由なのです。ビットコインなどブロックチェーン応用の仮想通貨は、過去から現在までの取引履歴がすべてブロックチェーンで残されていて公開されている意味ではブロックチェーンは、既存の銀行を遥かに超える驚異的な「情報公開の透明性」まで持っているのです。

仮想通貨の技術のすごさと実利的なメリット

仮想通貨の技術のすごさは、ブロックチェーンによってデータの改ざんをほぼ不可能にしたこと、分散型の台帳データの記録・管理を追記の検証作業とブロックチェーンによって確実なものにしたこと、P2P通信によって中央の管理者が不在でもデータをやり取りできることにあります。仮想通貨はシステムの中心に管理者ではなく、ルール(プロトコル)を置いている「DAO(Decentralized Autonomous Organization,自律分散型組織)」であり、DAOとしてのローコスト運営と自由度・匿名性の高さのメリットを持っています。更に、ビットコイン(仮想通貨)はブロックチェーンにより過去からの全取引情報(口座情報の内容)を公開する「情報公開の透明性」のブロックチェーンの特徴を持ちながらも、「利用者の匿名性」をほぼ完璧に維持しているというすごさがブロックチェーンにはあります。

仮想通貨を収納する口座に当たるウォレットには固有の「ビットコインアドレス」が割り振られていますが、このビットコインアドレスは個人情報と紐づけられていないため、口座情報が公開されていても「口座の持ち主が誰であるか」を特定することはできないのです。ブロックチェーンを使っているビットコイン(仮想通貨)には「海外送金の手数料の破格の安さ(手数料は送金要請件数と処理能力で変動するが国内外問わず数十円~数百円程度)・海外送金のリアルタイム性(365日24時間休みもない)・為替リスクなし(投資市場の価格変動リスクはあります)・団体を介さない個人宛ての直接的な寄付や送金」などの実利的なメリットもありますから、興味のある人であれば一度は仮想通貨を使ってみる価値があると言えるでしょう。