「MedicalChain(メディカルチェーン/単位:MTN)」は2018年2月にICOトークンセールが終了した英国発の仮想通貨です。患者の医療(メディカル)データをブロックチェーン上で管理するしくみを提供して「医療に革命を起こす」と言っています。
医療情報を一括管理するプラットフォーム
MedicalChain(メディカルチェーン)は、英国のロンドンに本社があるMedicalchain.com社が運営する医療系の仮想通貨です。トークン名は「MedToken」となっていることもあり通貨単位は「MTN」です。2017年12月に仮想通貨の「東京カンファレンス」に参加しました。ICOトークンセールは即完売の人気で2017年2月に終了し、2月5日に複数の取引所に上場しました。どんな仮想通貨なのでしょうか?
大きな病院では、おびただしい量の情報を取り扱っています。ドクターが書くカルテや診断書や紹介状、ナースが書く看護記録、CT画像などの検査データ、処方せんや薬のデータ、保険請求のデータなどなど。かつてはみんな紙の文書でしたが、最近は電子カルテなど電子化、ペーパーレスが進みデジタルデータとして管理されるようになりました。
その中には、絶対に部外者にもらしてはならない個人情報もたくさん含まれます。たとえば有名な芸能人が入院して、がんの告知が主治医ではなく、流出したカルテをカネで買った週刊誌のスクープ記事で〃告知〃されたら、大変なことになります。その病院はたちまち信用を失い、つぶれてしまうかもしれません。
そうならないように、病院のコンピュータシステムは外部からの侵入に対し厳重なセキュリティで守られています。しかし情報管理は安全性が高ければ高いほど融通がきかなくなるという〃副作用〃があります。
たとえば入院患者が転院した時、A病院とB病院でデータの暗号化の方式が異なる、アクセス権の制限のやり方が違うなどがネックになって、情報が断片的になる、不正確になるなど、患者の医療情報をスムーズに共有、保存できない事態が起こることがあります。最悪の場合、外来で別の病院に「セカンドオピニオン」を求める時と同じように、転院先で診察や検査を一からやり直してカルテをつくり直すことさえあります。それではムダな時間、ムダな医療費が発生してしまいます。
医療分野にブロックチェーン技術を応用
そのような問題が、仮想通貨の基本技術「ブロックチェーン」で解決できるのではないかと期待されています。データが改ざんされにくく安全性や信頼性が高いブロックチェーンの特長は、個人情報が多く含まれる医療情報の管理に向いています。しかもデータが病院のコンピュータシステムではなくネットワーク上の「分散型ブロック」にあるため管理の手続きなどが共通化されていて、転院時の病院間のデータの共有も支障なく行えます。
ブロックチェーン(Block Chain)の技術を使って、個々の患者のカルテのような医療(Medical)情報を一括して管理するプラットフォームを構築しようとしているのが、「MedicalChain」という仮想通貨です。
関係するのは大きな病院や薬を処方する薬局だけではありません。保険支払請求の「レセプト」を審査する公的医療保険(健康保険)、診断書を審査する民間の医療保険、患者を病院に紹介するなど「病診連携」する個人診療所(クリニック)、高齢者医療で連携している高齢者施設や訪問看護ステーションや介護サービス、血液や尿や組織の検査を行う検査会社、病院で「治験(臨床試験)」を行う製薬会社、研究機関など、医療関連の全ての組織に関わりがあります。
MedicalChainは異なる病院間での連携(ネットワーク)がしやすくなるため、ホワイトペーパーでも強調されているのが「遠隔医療」の可能性の拡大です。最近も致死率の高い「エボラ出血熱」がアフリカで流行しましたが、欧米や日本で治療薬や予防法が矢継ぎ早に開発され、多くの命を救いました。
情報ネットワークの発達によって、たとえば英国の病院にいるエボラ出血熱の専門医が何千キロも離れたコンゴの病院の医師に、最新の情報に基づき患者の的確な治療法を指示するのも可能になっています。その場合、英国とコンゴの医師の間で情報を共有する必要がありますが、MedicalChainのプラットフォームなら情報をスムーズに一元管理でき、スピーディーに対応することで、手遅れになる前に患者の命を救えることもあるというわけです。
どんな名医でも、情報が断片的だったり、不正確では、やれることは限られてしまいます。MedicalChainは、より正確な情報を提供して医療活動をサポートするという、社会的な意義を帯びている仮想通貨です。
情報技術で未来の医療に革命を起こすか?
医療情報の管理をブロックチェーンで行うことを目的にICOされたMedicalChain(メディカルチェーン)ですが、技術的にはイーサリアムベースのERC20トークンです。その開発メンバーには医療現場を知る現役のドクターも関わっています。
病院のコンピュータネットワークではふつうIDとパスワードでアクセス管理をしますが、MedicalChainではそれに加え、情報を共有する相手をブロックチェーン上で指名するという方法をとっています。もしIDとパスワードを盗み取られても、情報共有の指名を解除すれば情報の流出を防げます。
MedicalChainは医療情報を新薬の開発や医学の進歩に役立ててもらうために、患者個人のEHR(生涯医療記録)を大学、研究機関に提供したり、製薬会社にライセンス付与する機能も有しています。その報酬はMTNのトークンで支払われます。
たとえば、の話ですが、20代で交通事故にあって脳に衝撃を受けた人が、その時は完治しても50代、60代になってから脳血管障害を起こす確率が高いという統計データが得られたとしたら、注意を喚起して、定期的に検査を受けるなど予防措置を講じることができるでしょう。EHRはそんな使われ方もします。特に「予防医学」に役立てられたら、将来の医療費が抑えられることで本人の負担も、国や自治体の財政負担も抑えられるというメリットが生まれます。
広い意味のオープンソースなので、アプリケーション開発プログラムをサードパーティーに提供して、医療関連の革新的なイノベーションを促す役割も果たすとアナウンスしています。MedicalChainのプラットフォームを利用して、医療・保健分野のITシステムで斬新なアイデアが実を結ぶかもしれません。
このように、MedicalChainは未来の医療に革命を起こすかもしれないプロジェクトです。英国ではすでに試験的な運用が始まっていて、ホワイトペーパーには2018年10月をメドに日本、中国、韓国でパイロット版の運用を始め、2019年3月に全世界で本格運用に入ると書かれています。
医療の世界の参入障壁を乗り越えられるか?
MedicalChain(メディカルチェーン)の発行上限は2,000億MTNとかなり多いです。国内の仮想通貨取引所にはまだ上場していませんが、海外ではICO直後にKuCoin、Huobi、Coinbene、QRYPTOS、Gate.ioの計5ヵ所の取引所への上場が一斉に決まり、2月5日に上場しました。
ICOは即完売でも、当初1MTN=0.318米ドル(約35円)だった交換レートはジリ貧で、2018年5月時点で1MTN=20円前後で低迷しています。その要因として挙げられるのは、医療、医学の世界は保守的で、ITの世界と比べれば新しいものを受け入れるのに時間がかかり、それが参入障壁になっているという点です。
ドクターの書類仕事を減らせると期待された電子カルテの普及ペースはゆっくりで、副作用の検証が十分ではないと何年も承認されないままの新薬もあります。「遠隔医療」もプロジェクトこそ多いですが、法的にも市場性の面でも解決すべき問題はまだ残っています。MedicalChainが医療情報の第三者への提供(情報共有の指名)に患者の同意を必要とする点も問題になりそうです。
ドクターは、医療に革命を起こす構想を「結構だ」と理解しても、自分のことになると「総論賛成、各論反対」で抵抗するかもしれません。それでもMedicalChainの医療界、医学界、仮想通貨レビューの評判は決して悪くなく、アメリカのNASDAQ証券取引所もほめています。社会的な意義もあるので、長期的な視点でみていくべきでしょう。
MedicalChain(メディカルチェーン)の将来性
アメリカ・ワシントン大学のジョゼフ・ディエルマン教授によると、世界銀行の国別集計をもとに算出した2014年の全世界の医療費推計値は9.21兆米ドルでしたが、26年後の2040年、2.6倍の24.24兆米ドルに増えると推計されています。
インドやアフリカなど途上国で今後も人口増加が続くためです。先進国では人口は頭打ちですが、日本は人口が減っても高齢化が進むため、2015年度は42.3兆円だった国民医療費は10年後の2025年、1.4倍の57.8兆円に増えると推計されています。65歳以上の高齢者の医療費は1.5倍、75歳以上の後期高齢者の医療費は1.7倍です(健康保険組合連合会の推計)。
このように先進国、途上国を問わず、医療(メディカル)マーケットは巨大市場で、しかも成長市場です。現状では有形、無形の参入障壁があってもMedicalChainが将来有望とされるのは、まさにこの点にあります。