「SingularityNET(シンギュラリティネット/単位:AGI)」は、2017年11月にICOトークンセールが終了した仮想通貨です。人工知能(AI)サービスの開発者とユーザーをつなぐ分散型グローバル・マーケットプレイスを築くのが、その主な目的です。
AIサービスが買える「産直市場」を提供
SingularityNET(シンギュラリティネット)は、ICOトークンセールが2017年11月に終了し、2018年1月に仮想通貨取引所に上場しました。SingularityNETは人工知能(AI)のためにある仮想通貨です。ITの中でも今後の市場の急拡大が期待される分野ですが、「人間の仕事を奪う」「社会に激変をもたらす」としきりに言われる、あのAIです。その名前の「Singularity(シンギュラリティ)」は、「深層学習(ディープラーニング)ができる第3世代のAIが登場し、シンギュラリティがいよいよ近づいた」というように、最近けっこう耳にする言葉ではないでしょうか。
Singularityはもともと「技術的特異点」を意味する英語で、AIが技術的に進歩して、その知能がある時点を境に人間の知能を完全に上回ることを指しています。2005年にアメリカの未来学者レイ・カーツワイルが、その意味で最初に使いました。シンギュラリティは「2045年」に来ると言われ、その前の2029年から社会に影響が出始めるという話もあります。あと10年ぐらいしかありません。
最近のSF映画やゲームでは「シンギュラリティ後の世界」として人間がAIの「奴隷」にされ支配される悪夢のような未来が描かれたりしますが、その一方で、AIが人間の頭脳では不可能な発明や発見を行って未来の人類を幸せにできるとシンギュラリティを歓迎する人も、「人間の頭脳がAIに負けるシンギュラリティなど、来ない」と言っている人もいます。このAIを象徴する、来るのか来ないのか、来たら人類の脅威なのかハッピーをもたらすのかよくわからない言葉をつけて登場した仮想通貨が、SingularityNETです。
SingularityNET(シンギュラリティネット)の役割
このコインが果たす役割は、AIの開発者とユーザーの間で橋渡しをすることです。具体的には、開発者(サードパーティー)がSingularityNET(シンギュラリティネット)にAI関連のITサービスを「出品」し、ユーザーはそこから自由に選んで購入することができます。AIサービスのオープンマーケット、早い話が「AIの市場(いちば/マーケットプレイス)」です。買いに来るユーザーとして想定するのはAIをビジネスに利用する企業や団体です。
この市場(いちば)の中ではAIのサービスとサービスを交換する「物々交換」も可能ですが、たいていの場合、買ったユーザーは金銭で対価の支払いをします。その手段として単位「AGI」の仮想通貨SingularityNETトークンが使われます。市場(いちば)がにぎわい繁盛すればするほどAGIのトークンが使われ、その価値も上がるというわけです。
先端技術のAIの「分散型グローバル・マーケットプレイス」とか「AI-as-a-service」と横文字で言いますが、基本的なしくみは市役所の前の広場で農家が野菜を売る「青空産直市」などと変わりません。売り買いを、リアルの世界で農家の人と消費者がやるか、ネットワーク上で開発者とユーザーがやるか、という違いだけです。
AIを活用したいユーザーはSingularityNETが開くマーケットプレイスにアクセスすれば、欲しいものが手に入る可能性が高まります。なお直販に限らず、開発者またはユーザーに依頼されたエージェント(代理業者)が、仲買人のように売買の中間に入ることも想定しています。
AIが増殖していくコミュニティ環境も提供
AIの世界で有名な人にデービッド・ハンソン(David Hanson)という人がいます。彼がCEOを務める香港のハンソン・ロボティック(Hanson Robotics)社は「ソフィア(Sophia)」というAI搭載のヒューマノイド・ロボットを開発しました。日本なら「智子」「知恵子」にあたる賢明そうな女性名をつけ、笑顔のルックスもなかなかの美人。なぜかサウジアラビアの「国籍」を有し、「ダボス会議(世界経済フォーラム)」や国連の会議に出席して質問に答えましたが、2年前、「私は人類を滅ぼすだろう」と物騒なことを言って世のAI脅威論の火に油を注ぎました。
このソフィアの生みの親のハンソン氏がSingularityNETのプロジェクトのアドバイザーに就き、話題を呼んでいます。ソフィアはSingularityNETの「広告塔」なので、トークンを保有すればアクセスして会話ができるそうですが、投資家が「知性ある猛女」に何を言われても、それは自己責任です。
ソフィアもそうですが、AIも組み立てられ電源が入ったばかりの時は人間の赤ちゃんと一緒で、学習をすることで賢くなっていきます。ただ人間と違いハードな「詰め込み勉強(機械学習)」で一気に賢くさせることができます。その機械学習用ツールの「データセット」や「分析機能」をSingularityNETのマーケットプレイスで販売すれば、AIは安く、早く賢くなり、実用レベルに達します。
そうやって先に賢くなったソフィアのようなAIとのコミュニケーションがとれる状態におくと、「コミュニティ」の中で〃後輩〃のAIは〃先輩〃から学んで、どんどん賢くなっていくといいます。たとえばソフィアに新米のAIをつなげたら、ソフィア姉さんのコピーのような「妹」がどんどん増殖して「AIシスターズ」が形成されます。AI脅威論者は「AI同士の〃共謀〃が怖い」と言っていますが、ユーザーにしてみれば安いコストでAIが〃増殖〃してレベルアップしていくのは、ありがたい話です。
SingularityNETは、マーケットプレイス以外にそんな環境も開発、提供しようとしていて、AI同士の「コミュニティづくり」には、仮想通貨のブロックチェーンの分散型ネットワーク、イーサリアムベースのスマートコントラクトが活用できると言っています。その方面の技術を持つNEXUSなどIT系企業4社との間でパートナー提携を結んでいます。
交換レートがずっと低迷しているのはなぜか
SingularityNET(シンギュラリティネット)はイーサリアム(ETH)ベースの「ERC20コイン」で、発行量上限は10億AGIです。そのうち約半分は発行済です。公開日は2017年11月30日で、国内の仮想通貨取引所では取り扱いがありませんが、海外では「Tidex」を皮切りに複数の取引所に上場しました。代表的なのは日本語に対応し日本人ユーザーも多い香港の「KuCoin(クーコイン)」と「IDEX」ですが、現在9割以上がKuCoinで取引されています。国籍のない分散型取引所のIDEXはイーサリアムベースのトークンがメインなので、ビットコイン(BTC)やリップル(XRP)では取引ができませんので注意してください。
SingularityNETのICO価格は1AGI=約10円でした。上場後、2018年1月20日に1AGI=178円まで上昇しましたが、その後はジリ貧で2月6日に50円割れし、5月には1AGI=15円前後で低迷しています。AIは、前途有望です。世界市場は2017年時点で2,334億米ドルで、8年後の2025年に13.3倍の3兆1,000億米ドルに急拡大するという予測があります。
とはいえ、情報システム部門を持つ企業ユーザーでもAIシステムを自前で開発するのは大変です。そもそもAIは技術者の数が少なく、相当高額な報酬で雇わなければなりませんし、一から開発すると時間もかかります。そうやって、利用したくても、ユーザーが簡単には導入できない「相互運用性の欠如」が、AIの普及、成長に立ちはだかる壁だと言われてきました。
SingularityNET(シンギュラリティネット)の将来性
もし、AIを構成する「データセット」や「分析機能」などのサードパーティー製の完成品が売られていて、それを購入してカスタマイズの手を入れたら業務にすぐ活用できるようなら、それに越したことはありません。これが「AI-as-a-service」と呼ばれるもので、ユーザーのAI活用のハードルはかなり下がります。SingularityNETが狙っているのは、そんなニーズです。
そんなオープンなマーケットプレイスが存在していると、ベンチャーなどのAIの開発者が商品、サービスをそこに持ち込めば収益化、投資の回収が早くなるメリットがあります。カネ回り(キャッシュフロー)が良くなれば開発者のモチベーションが上がり、AIの研究開発のスピードも早まります。AIが人間よりも〃賢くなる〃シンギュラリティの境地に、早く到達できるかもしれません。ホワイトペーパーには、そうやって全世界でAI市場を開拓し、さらに発展させていくことがわれわれの使命だと書いてあります。
とはいえ、AI関連の仮想通貨には他にDeepBrainChain(DBC)などもありますが、どれも交換レートが低迷し、DeepBrainChainは約5分の1まで急落したことがあります。SingularityNETも例外ではなく、中・長期はともかく短期の上昇には決め手を欠いています。
また、ただでさえAIの技術は理解しにくい上に、交換レートは低迷し、プラットフォームの完成版のリリース予定は2018年12月でまだ先なのに、ICOした頃から「上場の話は多いが関知していない」など、商売っ気が薄く学者肌のすかしたコメントが目立つのも、投資家としては気になるところです。