「WAX(ワックス/単位:WAX)」は2017年11月にICOトークンセールが終了したアメリカ発の仮想通貨です。全世界4億人以上のオンラインゲームプレイヤーを対象に、ゲーム内アイテムのオンライン売買サービスを提供するプラットフォームを構築し、そこで使われます。世界最大規模のゲーム内アイテム売買サイト「OPSkins」が運営し、WAXのプラットフォームでもOPSkinsのサイトでも、売買にWAXトークンを使用できます。

ゲームの「アイテム」には大きな需要がある

junterao【WAX(ワックス)の仮想通貨進出】世界最大級のゲーム内アイテム売買サイトで使用ができるWAX(ワックス)はICOトークンセールが2017年11月29日まで実施され、およそ3万6,000人が参加して完売。8,000万米ドル(90億円)を超える資金の調達に成功しました。調達額が1,000~3,000万米ドル程度のICO案件が多い中、かなり大型のICOでした。

WAXは「Worldwide Asset eXchange」の略で、塗るワックスと関係ありません。直訳すれば「世界規模の資産の交換」ですが、その資産とはゲームの「アイテム」を指します。

ロールプレイングゲーム(RPG)やバトルシミュレーションゲームをプレイしたことがある人はわかると思いますが、ゲーム内で武器や防具や書物などの「アイテム」をゲットしてそれを使わないと、敵を倒せず、勝利へのロードマップもわからず、ステージをクリアして次に進めないようになっています。

アイテムをゲットするには修業を積んで実力で難敵を倒して奪う、困難を乗り越えて与えられる、隠されたものを、知恵を働かせて発見する、ポイントを貯めて交換するなどの方法以外に、オンラインゲームでは「カネでゲットする」方法もあります。禁止するゲームもありますが、スマホのソーシャルゲームには、ダウンロードは無料で、アイテム販売で収益を得るモデルのゲームがあります。ネットにはゲームのアイテム(バーチャルグッズ)の売買サイトがあり、けっこう繁盛しています。

オンラインゲームのアイテム売買ビジネスの市場規模

「OPSkins(オプスキンズ)」は、そんなゲーム内アイテムの売買サイト(マーケットプレイス)の一つです。2014年にカナダのモントリオールで創業。現在はアメリカのカリフォルニア州サンタモニカに本部があり、ネット上でゲームアイテムの買い取りや販売を行っています。日本で言えばソニーのプレイステーションの「PSN(プレイステーション・ストア)」や任天堂の「ニンテンドーeショップ」のようなイメージのサイトです。

「バトル系」のゲームに強く、英語以外にフランス語、スペイン語、ロシア語、中国語などに対応していますが、日本語に対応していないので日本での知名度は高くありません。日本からは第三者を介した「購入代理」という方法で参加します。売買件数は週約200万件あり、世界でトップの規模があります。

WAXは、このOPSkinsが発行・運営する仮想通貨で、OPSkinsを28歳で創業したジョン・ブレチスキ(John Brechisci Jr.)氏が立ち上げました。OPSkins同様にゲーム内アイテムの売買が目的です。仮想通貨の基本技術の分散型台帳、ブロックチェーンのプラットフォームを利用し、透明性の高い環境でより安全に、より安い手数料でゲームアイテムの売買が行える仮想ストア、マーケットプレイスを構築。代金や手数料の支払いにWAXトークンが利用でき、クレジットカード払いのように手数料や為替レートの変動を気にする必要がなく、スピーディーに行えます。

オンラインゲームのアイテム売買ビジネスの市場規模は、全世界で500億米ドル、日本円で5兆円を超えると推定され、ゲーム業界ではゲーム機、ゲームソフトに次ぐ大きなマーケットに育っています。OPSkinsは月間新規登録者20万人、ユーザー数のべ4億人で、週間取引件数は200万件、年間取引件数は1億件を超え、トップシェアを占める「世界最大手」です。そんな「大物」が仮想通貨に参入してきたのが、WAXです。

盛業中のサイトで培った社会的信用が強み

WAX(ワックス)はOPSkinsで培った人脈でゲーム業界との関係を強化していて、たとえばソニーのプレイステーションのヒットゲーム「Call of Duty」をプロデュースしたデーブ・アンソニー(Dave Anthony)氏をプロジェクトメンバーに加えています。WAXは「全世界4億人以上のオンラインゲームプレイヤーにサービスを提供する」という数値目標を掲げていますが、4億人はOPSkinsの現在のユーザー数と同じで、根拠がない大風呂敷な数字ではありません。2015年から営業しているOPSkinsで相当な実績があることが、何よりも強みです。

この分野で世界最大の売上規模があり、ネット上での買取や販売を通じて社会的信用を得ています。その証拠に、メジャーな仮想通貨を担保に、主に個人に対して米ドルやユーロのローンを提供している融資プラットフォーム「SALT」は、WAXトークンをキャッシュローンの担保にとれることを承認しました。

何かのマーケットプレイスを設けて販売活動(RMT/リアル・マネー・トレード)を行うという構想でICOする仮想通貨は多いのですが、WAXはそれを一から立ち上げるわけではなく、盛業中のネット上のマーケットプレイスの取引でそのまま使えるというアドバンテージがあります。

投資家にとっては、ホワイトペーパーに書かれていたプロジェクトが「やろうとしたけれどダメでした」で終わり、トークンの実需が望めなくなり値上がり益を得る機会が奪われるリスクがありません。また「4億人」と数を示すことで、「それだけのトランザクションを処理できるしっかりしたシステムを、カネをかけて構築するんだな」と、投資家は解釈します。

WAXには実需がある

世界最大級のゲーム内アイテム売買サイトで使用ができるWAX(ワックス)の取引開始日は2017年10月5日でした。発行量上限は18億5,000万WAXで、約5億WAXが発行され、流通しています。技術的にはイーサリアムベースのERC20トークンろ互換性がある新規格「ERC721」で、ERC20の最大の特徴「スマートコントラクト」を活用しています。

ERC20トークンは互換性があるため仮想通貨取引所で審査や管理がしやすく、投資家もイーサリアム用ウォレットを共通利用できます。現在、ICOされている仮想通貨のほとんどがERC20トークンで、まるで世界標準規格のようです。WAXは承認方式として「DROP(Delegated proof of Stake)」を採用しています。

国内にはWAXを取引できる仮想通貨取引所がありませんが、海外ではメジャー取引所の一つ「Huobi」や、「Bittrex」「HitBTC」「EtherDelta」「Upbit」などでWAXを購入できます。交換レートは2018年1月9日に1WAX=312円まで上昇しましたが、その後は徐々に下げ、2018年5月には1WAX=20円台前半に落ち着いています。

それでも2月15日に突然、買いを集めて交換レートが1WAX=29円から70円まで急騰をみせました。その理由はOPSkinsの商品ラインナップに「CryptKitties」が加わったことです。これはイーサリアムのブロックチェーン上でバーチャル(仮想上)の「ネコ」を買って遊んで育てていくという女の子向きのゲームですが、熱心にやっている大人のネコ好きの男性もいるほど過熱し、ネコの種類によっては値段が日本円で200万円を超えました。

OPSkinsのサイトはWAXトークンで売買が可能なので、「CryptKitties」の取り扱い開始で「ネコ」の売買による実需増が見込まれ高騰したというわけです。これはWAXには実需があるという何よりの証明になりました。ゲームの世界では突然、妙なものがウケて、ノリでブームになることがあるので、同じように特定の商材がWAXの価値の一時的な上昇に火をつける現象が、今後も起きる可能性があります。

eスポーツとともに成長できる可能性あり

WAX(ワックス)でも、それを運営するアイテム売買サイト「OPSkins」でも、得意とするゲーム分野は武器を使う戦争ものの「バトル系」です。そのため売買アイテムは銃器やナイフや防弾チョッキなどが多くなっています。この「バトル系」は「格闘技系」とともに、「プロ」のゲーマーが公開競技会で高額の賞金獲得をめぐって争う「eスポーツ」では主流といえるゲームジャンルです。

eスポーツは今後数年間で大きな成長すると見込まれています。すでに2022年の杭州アジア大会の正式種目に採用され、2024年のパリ五輪の正式種目への採用も噂されています。IOCのバッハ会長は昨年、「五輪にバトル系はふさわしくない。ふさわしいのはたとえばサッカーゲームだ」という趣旨の発言をしましたが、それでも競技会に備えてプロがアイテムを特注できるような「プロショップ」や、ファンがリアル、バーチャルのeスポーツ観戦チケットや関連グッズを購入できるサイトが売上を伸ばすことが考えられます。eスポーツがWAXに新しい成長の機会を提供することも、大いにありえます。

もしそうなれば、現状では「OPSkins」の知名度や社会的信用に依存する傾向があり、ユーザーはゲームのへビーユーザーにほぼ限定されているWAXが、eスポーツをテコに新しいユーザーを独自に開拓して活躍の場をひろげ、トークンの価値を高めることができます。WAXはeスポーツとともに成長できる可能性があると、期待できるわけです。