「CROSS(クロス/単位:VXCR、XCR)」は2018年5月からプライベートセールが始まったアゼルバイジャン発の仮想通貨です。ブロックチェーンの技術によって動産や不動産などあらゆる現物資産をデジタル資産に変換する「分散型価値交換プラットフォーム」の構築を目指しているプロジェクトです。

契約に関して法律の専門家の代わりを務める

CROSS(クロス)を運営する「CBASE Fintech Lab」は、ロシアとイランにはさまれたアゼルバイジャンにあるフィンテック関連企業です。ただし運営メンバーはサイバードを創業した堀主知ロバート氏など日本人が多く、日本企業4社が協力するので、事実上日本発です。

CROSS(VXCR)はすでにトークンを無料で配布するエアドロップが実施され、2018年5月20日から6月30日まで「プライベートセール・ラウンジA」が、続いて「プライベートセール・ラウンジB」が7月1日から8月10日まで実施される予定です。プレセール、パブリックセール(ICOトークンセール)の予定は未定となっています。

CROSSが構築しようとしているのは「分散型価値交換プラットフォーム」です。それによってブロックチェーン上で現物資産がデジタル資産に変換されたら、どんな「いいこと」があるのでしょうか?

ふつうの所得レベルの人にとって最もポピュラーな「資産」といえば「自分が住む家」でしょう。新築から10年、15年経過してもローン残高が完済できるほどの中古価格で売れるケースが多いです。

一戸建てでもマンションでも中古不動産を売却した、購入したことがある人なら、仲介の依頼、査定、内見、価格交渉、契約、引き渡し、登記、ローン、税金など、中古車のそれの数倍以上複雑で面倒な手続を経験したと思います。契約時には売主も買主も仲介業者も司法書士のような法律の専門家もみな一堂に会し、印鑑証明付きの実印を押さなければなりませんし、不幸にしておかしな仲介業者に当たると、文書をごまかされて後で問題になったりします。

しかし、CROSSが提供する「分散型価値交換プラットフォーム」であれば、取引の相手が遠方や外国にいても所有権移転に伴う手続が簡便化され、顔を合わせて売買契約書を交わさなくてもよくなり、その分、コストが安くすむといいます。

なぜなら、電子化されブロックチェーンに記録された契約書等の文書がネット経由で取り交わされ、しかも「分散管理」が行えるブロックチェーンの性質上、文書に不正な改ざんができないようになっているからです。紙の文書と違い火事で焼けてしまったり、紛失するおそれもありません。「法律を変えないとできないのではないか?」と思うかもしれませんが、法改正の話を抜きにして、純粋に技術的にできるかできないで言えば、十分可能です。

ブロックチェーンが法律の専門家の仕事の代わりを務めることができれば、その報酬を支払わなくていいので、契約に伴うコストが下がります。これがCROSSが実現しようとしていることの最大のメリットです。

CROSS(クロス)の4つの部分と、4つのトークン

CROSS(クロス)には4つの部分で成り立つ構造があります。また、それぞれ役割が異なる4つのトークンが発行されます。複雑ですが、細部は省いてわかりやすく説明します。

4つの部分とは「CROSS」「Guild」「Guild Project」「Cross Value Tools」です。「CROSS」は不動産、著作権など現物資産のデジタル化やその価値の交換(取引)を支援するプラットフォームです。「Guild」はブロックチェーンを利用した分散型のコミュニティです。コミュニティですから参加者(=トークン保有者)がいます。「Guild Project」はGuildのコミュニティで生まれる各プロジェクトです。「Cross Value Tools」はアプリケーションやソフトウェアのようなツールで、デジタル化された資産の価値の交換などに使われます。

CROSSはふだんCross Value Toolsを保有していますが、Guildで生まれるGuild ProjectにそのCross Value Toolsを提供して利用料を徴収します。Guild ProjectはCROSSに代わって現物資産のデジタル化やその価値の交換(取引)を実行できます。Guild Projectがより多く立ち上がり、実行され、結果を残すことで、現物資産のデジタル化、契約の電子化とブロックチェーンの利用はよりいっそう進むことになります。

表に出てくるのはCROSSですが、その背後のコミュニティのGuildでプロジェクトのGuild Projectが立ち上がり、それがツールのCross Value Toolsを利用して実際に実行されることで、CROSS全体が結果を残します。

この構造の中で「CROSS(XCR)」「Project Token」「Asset Token」「Voting Tickets for CROSS(VXCR)」という4つのトークンが発行され、使われます。「CROSS(XCR)」はCROSSの基軸トークンで、プロジェクトのGuild ProjectがツールのCross Value Toolsを利用した際、その「利用料」としてCROSSに対して支払われます。「Project Token」はGuild Projectの基軸トークンです。

「Asset Token」はGuild Projectで現物資産の価値にひも付けされるトークンです。「Voting Tickets for CROSS(VXCR)」は、保有者がCROSSやGuild Projectに賛否表明や意見やアドバイスを述べる権利がつく投票チケットのような譲渡不可のトークンです。保有者がCROSSに賛否表明や意見やアドバイスを述べると、報酬としてCROSS(XCR)が保有者に支払われます。一方、保有者がGuild Projectに賛否表明や意見やアドバイスを述べると、報酬としてProject Tokenが保有者に支払われます。

ややこしいですが、ICOされるのはこのうちVoting Tickets for CROSS(VXCR)1種類だけで、CROSS(XCR)ではありませんので注意してください。Voting Tickets for CROSSでは長いので、略して「CROSS(VXCR)」と呼ばれています。

沖縄で、アゼルバイジャンですでに動き出す

現物資産をデジタル資産に変換し長期投資向きな仮想通貨「CROSS」CROSS(クロス)の4つの部分のうち、Guild Projectはすでに動いています。沖縄県宮古島市の伊良部島リゾート開発プロジェクトでは、不動産の価値とひも付けられたトークン「Asset Token」が発行され、売り出される予定です。

支援ツールのCross Value Toolsも一部完成済みです。セキュリティ性が高くビットコインやリップル、多くのERC20トークンを受け入れる予定で、LINEの位置情報サービスとの連動も計画されているウォレット「x wallet」と、トークンから請求書を発行する「x manager」の2種類です。

それ以外で進行中なのは、現物資産やプロジェクトをトークン化できる「X FACTORY」、決済を支援する「X PAY」、現物資産の存在証明が行える「Cross Consensus」、ブロックチェーン関連の起業支援を行う「Cross workers」、自前の仮想通貨取引所の「Value Exchange Market」があります。それらを通じ、さまざまな既存のビジネスと接点が持てるのが特徴です。

Value Exchange Marketはすでにアゼルバイジャン共和国政府から仮想通貨取引所のライセンスを取得しています。中央集権型取引所の流動性と分散型(DEX/非中央集権型)取引所のセキュリティ性という両方の長所をとり入れたハイブリッド型の取引所です。基軸通貨としてCROSS(XCR)や、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、USDTなどを上場させる予定になっています。ロードマップによると、取引所開設と同時にCROSS(XCR)が2018年第4四半期(10~12月)、上場される予定です。

上場直後の売りラッシュを避けるしくみあり

XCRの発行上限は未定ですが、VXCRのICOの発行上限は50億VXCR(売れ残りはバーン予定)で、ICOで6億米ドル分を販売する計画です。ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、ビットコインキャッシュ(BCH)で交換でき、6月30日まで実施されるプライベートセール・ラウンジAのレートは1VXCR=0.00000407BTC=0.00005423ETH=0.0000308BCHで、日本円では3円を超える程度です。ただし最低購入金額が0.1BTC、1.5ETH、0.68BCHで、最も安いビットコインキャッシュでも日本円で6万円分以上の資金が必要です。

CROSSのリスクは「法律の壁」でしょう。契約関連の業務で多くの収入を得ている法律家には死活問題になりかねないので、上部団体を通じて政治家に働きかけ、たとえば不動産取引の契約書の電子化やブロックチェーンの利用を阻もうとするかもしれません。

ただ、ICOされるのが譲渡・売却不可のVXCRで、自前の取引所に上場するのがXCRなのはなかなかの「妙手」です。自前取引所を持つメリットもさることながら、ICOでVXCRを保有した投資家は「CROSSに賛否表明や意見やアドバイスを述べる」という手続を経なければXCRを入手できません。そのため上場直後にXCRの売りラッシュが起きにくくなります。

短期で利ざやを取りたい投資家には敬遠されますが、中・長期で保有し、配当(報酬)を得ながら値上がりに期待したい投資家には、向いています。