「Orchid(オーキッド/単位:OCT)」は、一般投資家向けにICOトークンセールを行う予定はないと言っています。インターネットの利用が規制されている国でも自由にネットにアクセスできるようにし、地球上に存在する情報アクセスの不公平や社会的な不平等を解消するという目的を掲げています。

あらゆる国に言論の自由をもたらすのが目的

Orchid(オーキッド)とは薄紫の花が咲く洋ランの品種の一つで バイオレットよりも薄い紫色をそう呼ぶ場合もあります。名前はエレガントですが、仮想通貨Orchid(正式名称はOrchid Protocol)の目的はなかなかの硬派です。地球上に住む人であれば誰でも自由にネット環境にアクセスでき、SNSなどが利用でき、情報を自由に発信できるようになれば、この世界から情報アクセスの不公平や社会の不平等をなくせると言っています。

日本にいると想像しにくいですが、地球上には国民がインターネットを自由に利用できない国があり、人口比で実に75%を占めています。たとえば北朝鮮ではインターネットで海外の情報に接したと発覚すれば強制収容所送りのような刑罰が待っています。

「アリババ」などネット通販が盛んな中国でも個人の情報発信は当局によって監視・検閲され、ツイッターやLINEは現在利用できません。Orchidは、そんな国でも欧米や日本並みに自由にインターネットにアクセスでき、SNSを利用して情報を発信できるようにするプロジェクトだとうたっています。

どうするのかというと、複数の「ノード」を経由する「非中央集権的な匿名通信」という技術を導入すれば、情報の発信元が秘匿され、監視や検閲を行う当局は発信者を突き止められなくなるため、たとえ権力者がこっぴどく批判されても誰が言ったのかわからなくなり、ネット規制は無意味になります。そのため誰でも自由に何でも言えるようになり、情報アクセスの不公平、社会の不平等が解消に向かうのだといいます。

憲法で基本的人権の言論の自由が保障されている欧米や日本に不公平や不平等は存在しないのかと言えば、そうとも言い切れませんし、当該国の権力者も別の対抗手段をとるかもしれませんが、少なくとも「社会的意義がある」とOrchidのイメージは良くなります。

情報の発信者が突き止められなくなるしくみ

Orchid(オーキッド)のプロジェクト「Orchid Protocol」では、非中央集権的な匿名通信が複数のノードを経由することで通信の匿名性が高まると説明しています。それをくわしく説明します。

インターネットは本来、政府や組織の規制や検閲を受けない自由なコンピュータ・ネットワークとして誕生しました。しかし実際は検閲や規制をかけようとする政府や組織は「要所」をおさえてそれに成功しています。

要所とは「ノード」で、「リレーノード」と「出口ノード」の2ヵ所をおさえると、現在主流の「VPN」であっても情報発信者を特定できるといわれています。ネットワーク侵入を試みるハッカーも、同じことをやっています。要所が2ヵ所に絞られるのはシステムが「中央集権的」だからだと言われています。

それに対して「非中央集権的」なOrchidは、リレーノード、出口ノードの数を増やすことで危険を分散させ、情報の発信者が特定できないようにします。同じようなノードがたくさん並んでいたら、外から見れば「どれとどれをおさえればいいのかわからない」状態になります。たとえて言えば忍者の「分身の術」のようなものです。

やみくもに分身と分身を組み合わせても、本物に当たる確率はきわめて低くなります。そうやって要所をおさえられなくなれば情報の発信者は突き止められません。これが「匿名性」の確保です。

Orchid Protocolが提供するそんなシステムを、専門用語で「帯域幅マイニングに基づいた匿名P2Pシステム」と言います。開発の現状は「α版」までできていて、2018年中に「β版」の一般向け公開を目指しています。

Orchidのトークン(CTO)は、このOrchid Protocolβ版の一般公開後、システムを利用するための手数料の支払いに使われます。利用されればされるほど、トークンの実需が増えて価値も上がっていきます。発行上限は10億OCTで、タイプとしてはイーサリアムベースのERC20トークンです。規制や検閲のないネット環境をつくり出すという目的が似たトークンには、いくつかの海外取引所に上場中の「Privatix(PRIX)」があります。

Orchid(オーキッド)のロードマップ

Orchid(オーキッド)の開発チームは「Orchid Labs」と言い、2017年にアメリカのサンフランシスコで設立されました。Labとは英語で「研究所」という意味です。共同創業者でCEOのスティーブ・ウォーターハウス氏は英国ケンブリッジ大学でコンピュータサイエンスの博士号を取得し、音声認識、機械学習を専門としています。

運営チームのCTO(最高技術責任者)にはイーサリアムでコア・デベロッパー(主任開発者)を務めた共同創業者のギュスターヴ・シモンソン氏がつき、イーサリアムの共同開発者でそのCTOを務めたこともあるギャビン・ウッド氏がアドバイザーについています。この人はプログラミングが専門で、イーサリアムの要の技術「スマートコントラクト」の開発で使われている言語「Solidity」を考案したといわれています。

そんな「イーサリアム人脈」が開発チームの中心にいることがOrchidの評価を高めていて、イーサリアムの元COOのアーロン・ブキャナン氏は「Orchidはイーサリアムを超える」とまで言い、Orchidも目標は大きいほうがいいと思ったのか「イーサリアム超え」をキャッチフレーズにしています。

Orchidのホワイトペーパーは英語ですが、技術の説明が適切・明快で「模範的」と評判です。「参加者が多くならないとノードの数を増やせず、十分な非中央集権性、匿名性が確保できない」と〃分身の術〃の短所もきちんと書いてあります。そんな点にもスタッフの優秀さ、誠実さが反映しています。ただし今後の詳細なロードマップはわからず、配当など投資家への還元策は書いてありません。

「プライベートセール実施」の噂には要注意

地球上に存在する情報アクセスの不公平や社会的な不平等を解消することを目的とした仮想通貨「Orchid」Orchid(オーキッド)は開発陣だけでなく、出資者の顔ぶれでも投資家を感心させています。アップル、ヤフー、インスタグラムなどの投資実績がある世界最大のベンチャーキャピタル「Sequoia Capital(セコイア・キャピタル)」や、スカイプやツイッターに投資した「Anderssen Horowitz(アンダーセン・ホロヴィッツ)」、テスラ・モータースに投資した「Draper Fisher Jurvetson(DFJ)」がOrchidに出資しています。

この3つは「世界三大ベンチャーキャピタル」と呼ばれています。そんな一流の投資ファンドは出資の可否を決める審査が厳しいので、かなり期待できます。有名投資家のナバル・ラヴィカント氏(メタスナイブル)は、仮想通貨専門メディア「コインデスク」のインタビューで「将来が最も有望なICOはOrchidだ」と話しています。

しかし、Orchidはトークンの仮想通貨取引所への上場は目指していますが、一般の投資家が参加できるICOトークンセールは「実施しない」と宣言しています。著名なベンチャーキャピタルがこぞって出資してくれたから資金調達に不自由しないのなら、それはそれで納得できます。たとえICOをしなくても、上場日に自らの保有分のトークンを売り出すのなら、取引所への上場は可能です。

あるいは投資を早く回収してもらえるように、出資してくれたベンチャーキャピタルに株式の代わりにトークンを渡していることも考えられます。現状、株式の上場よりも仮想通貨の上場のほうがずっと早く実現するので、トークンが上場したらそれを売れば投資の回収(出口/エグジット)もそれだけ早くなり、ベンチャーキャピタルにとっては資金の回転率がよくなり、メリットは大です。

Orchid(オーキッド)購入の可能性

ところが今、仮想通貨の投資家の間で、「Orchidがプライベートセールを実施するから自分でも買える」という話がやたらに飛び交っています。プライベートセール事務局のウェブサイトもあって日本人の某氏がプロモーションを展開していますが、Orchid側はそれを明確に否定しています。

可能性としては、一般投資家向けではない縁故限定のプライベートセールが実施された後、コネでトークンを得た企業や人が非公式に一般投資家に分売するパターンが考えられます。もちろん取得価格より高い価格で転売されるので、売り手は利益を得ます。それならトークンは本物なので、譲渡禁止の条件がなく〃仕入値〃と〃売値〃の「差益」が十分に小さければ、買い取ったコンサートチケットを並べて売る街のチケットショップと同じことになり、詐欺行為とはいえません。

しかし、トークンを渡さない、あるいはニセモノを渡し、集めたカネを持ち逃げする正真正銘の詐欺や、詐欺罪に認定されるようなボロ儲けをたくらんでいる可能性は捨てきれません。たとえ本物でも「値上がりする。売れば儲かる」と言って高く売りつけたら投資詐欺になります。しかも、巧妙に犯罪スレスレの線で逃げ切られて、投資家が泣き寝入りを強いられるグレーゾーンも存在します。

公式のプライベートセールやICOトークンセールではないものは、そんなリスクを覚悟しなければなりません。投資家としては「値上がり確実」とあおられてあわてたりせず、公開されたβ版を確かめた上で上場するまで待ってみるのも、決して悪くない選択です。