「仮想通貨先進国」というと、どこを思い浮かべるでしょうか?ビットコインの開発者「ナカモトサトシ」の出身地(と連想される)であり、取引量も少し前まで世界最大級であった日本?マイニングや仮想通貨の取引を、国が大幅に規制をかけざるを得ないほどの勢いとなっている中国?金融の中心地であるアメリカ?切り口次第で連想する国は異なってくると思いますが、そんな仮想通貨先進国の候補として、急遽台頭しているのが「マルタ共和国」です。

ヨーロッパの小さな島国であるこの国がなぜ仮想通貨で注目されているのか、今後の展望と合わせて考察してみました。

マルタ共和国とは

ヨーロッパの南側、地中海の位置する島国です。面積はなんと東京23区の半分ほどという小ささ。公用語は英語とマルタ語で、EUに所属しているため通貨はユーロです。周囲は地中海を始めとした美しい自然に囲まれ、年中比較的温暖で過ごしやすい気候です。世界遺産バレッタを始めとした歴史ある建造物や遺跡にも恵まれており、治安も良好。あまり目立たないですが、旅行先としても恵まれた環境であるといえるでしょう。

小さな島国ですが、EUの中では経済成長率が高いことでも知られています。このあたりの背景については後述する仮想通貨関連をはじめとする、積極的な外資、新分野の誘致を行っている政策と一致する部分があるかもしれません。位置は知らなかったけれど、名前は聞いたことがある、という方はおそらく「マルタ会談」で聞いたことがあるのではないでしょうか?冷戦終結の場となったマルタ会談はこの国で行われました。

マルタ共和国が「仮想通貨」で注目

仮想通貨投資をある程度行っている人ならば、知らない人はいないであろう世界最大級の仮想通貨取引所「binance」。今年3月には日本の金融庁が警告を出すなど、ネガティブなニュースでも少し話題になりましたが、同時期、それ以上の大きなニュースとして元々立ち上げていた香港から、このマルタ共和国へ移転したことが挙げられます。続いて、同じく香港発の大手仮想通貨取引所、「OKEx」も4月にマルタ島に新拠点を設置することを発表しました。現在、その影響もあってマルタ共和国は仮想通貨の取引高で世界第1位となっています。

マルタ共和国が注目を浴びる3つの背景

勿論、binanceもOKExも理由もなく拠点としてマルタ共和国を選んだわけではありません。マルタ共和国がこれらの仮想通貨取引所や、その他の仮想通貨業界のプレイヤーにとって魅力的である事情をまとめてみました。

① ブロックチェーン関連分野の研究が盛んである

Binance、OKExともにマルタ共和国と協議の上で、この国への拠点開設を決めています。言い方を変えれば、マルタ共和国がこれらの取引所の誘致に成功した、とも言えるでしょう。マルタ共和国は現在、取引所は勿論、仮想通貨関連の企業やブロックチェーンの研究をしている企業などを積極的に誘致しています。国全体としてブロックチェーン分野のリーディング国家となることを目標として掲げ、実際に推進しているマルタ共和国に仮想通貨ビジネスの拠点を置くことが世界的に見ても魅力的であると言えるのではないでしょうか。

② 仮想通貨関連の法整備が進んでいる

仮想通貨そのものに対して、現在世界各国の立場は各々で大きく異なります。許容する、敵対するといったスタンスも勿論のこと、理解した上で対応しているのか、それほど理解しないまま徒に対応しているのかといった部分もそれぞれのリテラシーによるでしょう。そのような中、マルタ共和国は世界でも仮想通貨に友好的なスタンスを示しながら、「適正な」法整備を進めている国であると言われています。

もともとの拠点であった香港もアジア有数の金融都市であり、税率も優遇されていることからそこでビジネスを行うメリットは大きいはずです。しかも香港自体は仮想通貨に対して寛容なスタンスを取っています。しかし、リスクとしてはアジア全体が仮想通貨の法整備が整っているとは言い難い状態であるのに加え、香港は中国の「特別行政区」という扱い。仮想通貨に対してかなり強い規制を行い、強硬的なスタンスを取っている中国からの影響を受けるリスクを考えると、必ずしも長期的に仮想通貨ビジネスを行う上で理想的な地とは言い切れません。

③ 上手く制度を利用すればタックスヘイブンのような税率である

香港や、マレーシアのラブアンなど税制上優遇されるタックスヘイブンと呼ばれる地域は世界に複数存在しますが、マルタ共和国はその中にカテゴライズされてはいません。むしろ、法人税率は日本と同等。決して安いとは言えません。しかし、制度を上手く活用することで節税を行うことが出来、実質的な法人税は非常に低く設定されています。

また、税制面で優遇されるのは法人だけではありません。所得税率が低く、贈与税、法人税はなし。さらにキャピタルゲインに対しても課税が行われないなど、資産家、投資家にとっても非常に魅力的な制度を採用しているため、仮想通貨関連の企業だけでなく、仮想通貨投資家の移住先としても、その周辺環境の良さも含めて有力な候補先になりうると言えます。

「仮想通貨先進国」としてのマルタ共和国の将来性は?リスクは?

税率の優遇で仮想通貨ビジネスチャンス到来上記のように国が主導となり、ブロックチェーン関連の企業や仮想通貨投資家を積極的に誘致し、既に成果を上げているマルタ共和国。仮想通貨先進国として、将来性を期待できると考えられます。とりわけ、現在は最高値から比べると低い値で低空飛行している仮想通貨相場ですが、今後、世界に浸透するとともに大きな価値の値上がりを見せた時、仮想通貨のリーディング国家として成功した国が世界に対して大きな影響力を持ちうることは想像に難くないでしょう。

それはヨーロッパののどかな島国、マルタ共和国かもしれません。一方で、どのようなリスクがあるか、ということについても考えなければなりません。最大のリスクは「EU全体の仮想通貨関連の足並みがそろっていない」という点です。現在、マルタ共和国は仮想通貨に寛容、かつ、適正な法整備が進んでいる国ですが、EU全体としては必ずしも肯定的でもなければ、理解が進んでいるとも言い難い状況です。

そのような中、EU全体として仮想通貨に対し排他的な方向に動く方針が打ち出された場合、マルタ共和国においても現在のような仮想通貨業界全体に有利な状態が完全に維持されるとは限りません。勿論、イギリスのように脱退してしまうという選択肢もないわけではないでしょうが、現状EUからの脱退を考えられるほどの国力を持っているとは言い切れず、仮想通貨で大きく国力を伸ばすのとどちらが先か、といったことになってくるかもしれません。

マルタ共和国は仮想通貨とともに国力を伸ばせるか

binanceやOKExの新拠点のなるマルタ共和国はこれまで決して世界に対して、どころかEUに対してすら大きな影響力を持っている国ではありませんでした。しかし、そのビジョンや、まだ途中経過ではありますが実際にその試みが成果を上げているところを見ると、仮通貨そのもととともに、今後大きく国力を伸ばし、世界に対して発言力を持っていくかもしれません。多くの国家が、警戒し、敵対的に仮想通貨を取り扱う中、先進的な取り組みをすることによって、小国が力を持つかもしれない、と思うと興味深いものです。仮想通貨にはお金の仕組みだけでなく国家間のパワーバランスまで変えてしまうようなポテンシャルを秘められているかもしれません。