年明け早々勃発したコインチェック事件以降、連日仮想通貨に対する規制強化の情報が飛び交っていますが、この度金融庁は仮想通貨取引所の登録において、その規制強化策として新たな登録基準を明らかにし、今夏から順次導入していくと発表しました。

コインチェックを始めとする「みなし取引業者」すべて、並びにZaifを運営するテックビューロ社やGMOコインなど、登録済取引所への立ち入り調査・結果を受けて、事実上の「厳格化」となるこの新基準とはどのようなものなのか、今回は徹底解説をしてまいります。

コインチェック事件が教訓!仮想通貨保管のオフライン化

金融庁が仮想通貨取引所登録基準を強化今回金融庁が最も重点項目としている点に、コインチェックで流出し事実上盗難されてしまったNEM(ネム)が、同取引所内でホットウォレット管理されていたことを問題視しての、各取引所内における通貨の保管体制です。これまで多くの仮想通貨取引業者は、インターネットに接続可能な環境ですぐにビットコインやアルトコインを送金可能な状態、つまり「ホットストレージ」で通貨を管理することにより、送金や取引認証のスピードを維持していました。

しかし、このホットストレージ管理だけでは、常にハッキングのリスクと隣り合わせになってしまうため、大量の仮想通貨を持つユーザーは、ネットから切り離すことができるハードウェアウォレットや、紙幣の様にプリントアウトすることで現実紙幣のように容易に受け渡しできるペーパーウォレットなどといった、いわゆるコールドストレージで保管することもあります。

ただ、このコールドストレージ管理を個人で行うということは、その保管・管理はユーザーの自己責任となるうえ、ハードウェアウォレットはシークレットキーさえあれば壊れたり紛失しても代替可能な一方で、肝心のシークレットキーが外部に漏れた場合、当然ながら保有する仮想通貨が他人に奪われてしまう可能性もあります。さらにペーパーウォレットは、シークレットキーと公開アドレスのQRコードを、「bitaddress」などを利用してプリントアウトし保管しておくものですが、消失や盗難されてしまった場合取り戻しがききません。

今回金融庁は、仮想通貨取引所自体にこのオフラインによる仮想通貨の保管を求めたという訳です。また、併せてマルチシグ(シークレットキーの複数分割)を実装することで、より高いセキュリティー体制を築き上げることも、登録審査項目の一部に盛り込みました。

つまり今後、国内の取引所で保管している仮想通貨を、何らかの決済・送金に利用する際は、いったんコールドストレージで管理されているそれを、オンラインに乗せてから利用することになるため、仮想通貨が持つ決済のスピード化という持ち味が薄れますが、セキュリティー重視という面からは避けがたい項目と言えます。

ユーザーと取引所運営業者との分別管理体制徹底

仮想通貨市場全体に問われてきた課題ですが、保有銘柄の時価総額が大きな取引所及びその運営会社による不当な価格操作や、取引所における運営業者の現金・株式などといった、自己資本を上回る仮想通貨取引への疑問視に対応しているのがこの項目です。さらに、海外の取引所では暗にささやかれ、実被害についてもいくつか報告のある、取引所運営役員によるユーザー資産の横領などを防止する意味も込められています。

今回金融庁は、取引所と各仮想通貨銘柄の分割管理体制だけではなく、業者内部での株主と経営者、システム開発部門と管理・運営部門において担当者を分けるなどといったように、取引所のシステムを何人たりと悪用や私的な流用をできない、分割された経営体制の徹底を求めており、その確認についても日単位ではなく1時間単位で行うよう指示していく意向です。

定期的な書面及び会社訪問による実態調査

金融庁の立ち入り検査では、みなし業者のみならず、登録済業者においても問題点が相次いで発覚し、複数の登録済業者に業務改善命令を出したうえ、業務停止処分を受けたみなし業者には、登録申請を取り下げるところが相次ぎました。これを重く見た金融庁は、従来までの書面による聞き込み調査と合わせ、流出や盗難などの「きっかけ」に関わらず、システムの適切な稼働状況や分割・分別された人員配置がなされているかなどについて、会社訪問で直に確認していく方針です。

いまだ発展途上にある仮想通貨取引所はもちろん、銀行・証券会社・信販会社・消費者金融などといった金融業者はどこも、「立ち入り調査」が実施されたというトピックが流れただけでもその信頼性が大きく失墜し、時には株価が下落するなど経営自体が危うくなることもあります。

そのため一見すると、この金融庁による苛烈な監視強化は、国内仮想通貨市場の発展を阻害するようにも感じられますが、一部のアナリストや投資家からは、厳しい監視体制によってずさんな資産管理をしている業者が淘汰され、取引所の質が上がっていくのではないかという指摘もあります。

また、東証一部上場で純資産も1兆円近くに上る「マネックスグループ」はコインチェックを、証券取引所など幅広く金融ビジネスを手掛けるDMMは、東京ビットコイン取引所をそれぞれ買収しました。加えて、Yahoo!ジャパンがビットアルゴ東京取引所に資本参加するなど、巨大資本による仮想通貨ビジネス参入が進んでいることからみても、仮想通貨市場の健全化・安定化は、今後一層そのスピードが速まっていくと予想されます。

DASH・Monero・Zcashなどといった匿名性仮想通貨通貨の排除

新たに導入が求められた取引所登録基準を解説今回、金融庁が公表した登録基準指針において、最も色濃く影響が出そうな項目に、「匿名性の高い銘柄の取り扱いを原則認めない」というものがあります。匿名性の高い仮想通貨銘柄と言えば、その名も「ダークコイン」と名乗っていた執筆現在全銘柄中第13位となる、約4,000億円の時価総額を持つDASH(ダッシュ)や、それに次ぐ第14位につけるMonero(モネロ)、すこし離れて第25位のZcash(ジーキャッシュ)などが国内では有名です。

これらの銘柄は、ユーザーの個人情報には紐付かないものの、1つ1つの送金履歴アドレスが公開され、透明性が高いビットコインと異なり、いくつかの送金をまとめた後に、送金処理が行われます。この仕組みは、DASHではCoinjoin(コインジョイン)と呼ばれており、「誰が誰に送ったか」の記録は残らず、「誰がいくら送ったのか・受け取ったのか」のみが分かるようになっていため、ビットコインより取引の透明性が低く、結果としてユーザーのプライバシーが守られるメリットがあります。

また、どれも基本的に取引決済スピードが、他の銘柄よりスピーディーなのが特徴で、DASHの場合ではブロックのサイズがビットコインの約2倍であるため、取引決済にかかる時間がビットコインの約10分に対して約2分半と、4倍の処理能力を誇っています。

しかし、これら匿名性仮想通貨の場合、「誰から誰へ送金したのか」がわからないため、コインチェック事件の時のように万が一流出した場合、実際に500億円相当が行方知れずになったXEM(ネム)以上に、その後の追跡調査が困難です。そして、当事者であるコインチェックは、この度のマネックスによる買収と新体制の樹立に先立ち、国内取引としては唯一となっていた「DASH・Monero・Zcash」の取り扱いを廃止したため、現在日本でこれらを取引できるところは、事実上消滅しています。

規制が世界的既定路線となりつつある匿名性仮想通貨は無くなってしまうのか

ここまで、国内における金融庁が公表した取引所の登録基準強化を解説しましたが、前項で触れた匿名性仮想通貨に関しては、米国やEU諸国始め世界中でその取扱いを慎重にするか、規制していく方針が主流となってきています。その訳は、匿名性の高い銘柄の場合ビットコインなどと比べどうしても、テロ支援国家による資金調達やマネーロンダリング、さらに脱税などといった、犯罪性のある利用をされやすいからです。

テロやマネーロンダリングなどへの警戒心が、数段日本より高い諸外国の金融当局が、金融庁が発表した匿名性通貨の締め出しより緩い対応をするとは正直考えにくく、DASH、Monero、Zcashに代表される匿名性仮想通貨が、世界中の取引所から消え去ってしまう可能性は大いにあります。極端な話になりますが、もし海外の取引所で匿名性仮想通貨を、同国当局の規制後も一切関することなく取り扱う所が合った場合は、その国の取引所への監視・指導体制にいったん疑いの目を向け、利用を慎重に検討したほうが良いと訴える有識者もいます。