加熱する仮想通貨市場の動向に注目が集まる中、世界中の金融機関のうち約20%が、本年度中にも仮想通貨ビジネスに乗り出すことを検討している、との調査結果を米国ニューヨークに本拠を置く世界的情報企業、「トムソン・ロイター」が公表して話題となっています。今回は、名を連ねる金融機関にはどのようなところがあるのかや、実際に多くの金融機関が参入したことで起こりうる、仮想通貨市場への影響について大胆予想してまいります。
R3コンソーシアムに参加する金融機関を中心に続々と参入を表明
この度トムソン・ロイターが実施した調査は、大手銀行・資産運用会社、ヘッジファンド、トレーディングデスクなど、世界中に同社が有する顧客400社以上に対して行われました。回答した企業の具体名は伏せられているものの、約80社が2018年度中に何らかの形で仮想通貨ビジネスへの参入を示唆しているうえ、そのうち70%が半年以内での進出を目指しているとのことです。
この発表を裏図けるように、英国金融王手の「バークレイズ」が、仮想通貨のトレーディングデスク開設を検討するため、すでに需要調査を開始しているという報道も、去る4月17日なされました。同社は、ブロックチェーンデータベースの使用に関する研究と開発を進めるR3社が率いる金融機関連合体、「R3コンソーシアム」の約70社にも及ぶ世界的金融機関のうち、2015年からの発足時メンバーです。
そして、この仮想通貨ビジネスをけん引するR3コンソーシアムには、JPモルガン、バンク・オブ・アメリカ、UBS、クレディスイス、コモンウェルス銀行など早々たる国際銀行が提携していますが、これらも自社の決済システムにブロックチェーンを導入する準備を進めており、今夏の実装を目指しています。
国内に目を向けても、独自発行の仮想通貨である「MUFGコイン」の発行と、それを取り扱う取引所の開設を決めている三菱UFJフィナンシャル・グループや、既に自社運営の取引所をリリースし、自社発行を目指している「Sコイン」始め、BTC・ETH・BCH・XRPの5銘柄の取り扱いを予定しているSBIホールディングスも、実はこのR3コンソーシアムに加盟しています。
R3コンソーシアムを脱退したゴールデン・サックスまで参入か
設立後、順調に提携先を増やしていたR3コンソーシアムですが、R3社が金融ビジネスに特化して開発した、オープンソースの分散型元帳プラットフォーム「Corda」の採用に関する意見の衝突や、コンソーシアムの指揮をとるR3社がCorda提供の見返りに、加盟銀行から2億ドル(約226億円)の資金調達を目論んでいるとの情報が流れます。
その結果、設立メンバーであり屋台骨を支えてきたゴールデン・サックスや、モルガン・スタンレー、バンコ・サンタンデールといった巨大銀行が脱退する事態になりました。とはいえゴールデン・サックスも、顧客の仮想通貨ビジネスを支援する部門を設立しているうえ、4月23日にはその責任者として、クオンツファンドのセブン・エイト・キャピタルで勤務しMIT学位を持つ、「ジャスティン・シュミット氏」を起用したことを発表するなど、仮想通貨ビジネスの本腰を入れていることに違いはありません。
ロックフェラー財団始め世界的資産家も関与
世界的に高まりを見せる仮想通貨ビジネスへの参入ラッシュは、何も銀行などの金融機関だけで起きているわけではなく、マイクロソフトや富士通などといった、ブロークチェーン技術・運用システム開発を進める企業ともR3は連携しています。また、多くの資産家も参入を公表しており、最たるものがロックフェラー財団の投資関連企業であるベンロック社と、2015年設立でニューヨーク・ブルックリンに拠点を置いている仮想通貨投資グループ「CoinFund」との提携です。
Coinfundの共同設立者であるジェーク・ブルクマン氏は、「ベンロック社とは密接な関係を続け、(同社の)仮想通貨チームを育てて助言、さらにサポートしていきたい。」と、米フォーチュン誌の取材に答えています。また、報道のよるとベンロック社は現在、26億ドル(約2,780億円)の資産を運用している、それほど大規模ではないロックフェラーの私的ベンチャー企業です。
しかし、その母体であるロックフェラー財団が保有する資産は、噂の域を出ないものの1兆ドルに上るとされており、ごく一部でも同社を通じて仮想通貨市場に流れ込むことになれば、投資先となった銘柄が大きく値上がりするのではないか、と一部では示唆されています。
大規模金融機関や一部資産家による市場操作を危惧する声も
世界的金融機関や関連大企業、さらにロックフェラーに代表される、超巨大資本家の市場参入について、前項で触れたように好材料とみる動きもある中、巨大資本による特定コインの大量購入・売却などによって価格操作が行われ、不当に利益を得ようとする動きが出ないかという、危惧の声が、専門家や投資家たちから出ていないわけではありません。
しかし、まず各国経済の中枢を担うR3コンソーシアム参加金融機関たちは、仮想通貨自体への投資・投機を目的とはしておらず、あくまでブロックチェーン技術を導入し、自社ユーザー間の円滑かつ、安全な取引決済態勢を整えたいのが参入意図です。またロックフェラー財団にしても、仮想通貨全体からみれば極々少額な投資規模であるうえ、資産も不動産や傘下企業の株式などといった安定性がある一方で、流動性の低いものとして世界中に拡散していることからみて、今後爆発的にその規模を増やしていくとは、正直考えにくいと言えます。
巨大資本参入による今後の動向を大胆を予測
最後に、今回のR3コンソーシアム参加金融機関による大量参入や、ロックフェラー財団が見せた動向を整理し今後を予想すると、まず国内だけを見れば「1円=1コイン」というレートを原則維持していくことになる、国産メガバンクコイン及び取引所が登場したとしても、ビットコインはじめアルトコインのチャートに、それが直接的影響を及ぼすことはない、と考えられます。
ただし、現在進んでいる金融庁の取引所規制強化の流れと併せ、名の知れたメガバンク運営の取引所が予定通り誕生した場合、そこで取り扱われた銘柄については、純国産の新コインはもとより優秀な「決済ツール」として認知され、利用ユーザーが増えてくることも考えられます。その結果、仮想通貨市場は全体的に安定を見せ、「証券市場」と同格の資産管理・運用市場として、成熟する可能性があります。
海外でも、同じ様な動きを見せることが考えられる一方、市場をつかさどる取引所への規制や監督体制が、日本に比べて整っていない国が多々見られます。仮想通貨は企業による技術・システムの開発と、金融当局による適切な規制とのバランスで成り立つものです。そのため、年内の参入を表明し決済システムの開発を進め、自社コインの発行も視野に入れている海外の金融機関が、宣言通りことをうまく運べるかどうかについて、懐疑的な意見を持つ専門家もいます。
年末から年明けにかけ、国内における仮想通貨市場は、多大な投機マネーを手にした、「億り人」と呼ばれるユーザーを生み出した絶頂期と、反対に立ち直れないほどの欠損を出し、全財産を失うユーザも出るほどの大暴落期を、わずか数か月間で経験しました。そして、「トドメ」となったコインチェック事件を教訓に、管理体制がずさんな取引所には淘汰の波が押し寄せ、ようやく仮想通貨市場は「安定期」に差し掛かっています。
世界的に見ても、仮想通貨の普及と規制のバランスがこれほど取れている国はないため、「2018年は日本が世界1の仮想通貨王国になる年だ」と高らかに宣言する声も、ネットでは多く上がっています。