金融庁がみなし業者1社FSHOの登録を拒否:マネーロンダリング防止対策が不十分で経営体制の刷新ができなかった
金融庁が2018年6月7日に、仮想通貨交換業者(取引所)として「マネーロンダリング防止(金融犯罪防止・テロ資金供与防止)・セキュリティー強化・顧客資産の分別管理」などの体制が十分に整備されていないとして、みなし業者・FSHO(横浜市)の登録を拒否しました。改正資金決済法は2017年4月に施行されましたが、金融庁が仮想通貨交換業者の登録を拒否したのは初めてのことです。FSHOの最初の処分理由はマネーロンダリング(犯罪資金・テロ資金等の資金洗浄)が疑われる取引の監視・報告の義務を怠ったということですが、FSHOという取引所は「対面での現金授受を伴う仮想通貨売買」というかなり特殊な営業形態を取っていました。
FSHOは、bitFlyerやGMOコイン、Zaifなどの他の大手仮想通貨業者のように大勢の個人投資家を集めて、「スマホアプリ・PCサイトのリアルタイムで価格変動する取引画面」で仮想通貨売買を行うスタイルではありませんでした。FSHOは少数の限られた顧客と対面して仮想通貨取引を行い、「ビットコイン(仮想通貨)」を自社アドレスに送金させ、それに対応する「日本円」を現金で手渡ししていたとされます。取引相手の本人確認やビットコインの入手経路などに疑念があり、「マネーロンダリング防止対策・届出義務の履行」がずさんだった事で二度の業務停止命令を受けていました。FSHOは旧経営陣を一掃して経営体制を刷新するという「業務改善報告書」に書いた約束を守れず、コンプライアンスに欠ける旧経営陣の会社支配が継続したため、金融庁に登録を拒否されたのです。
金融庁の監督強化でみなし業者は4社のみになった:大手SBIホールディングスの仮想通貨事業参入
1月26日に、仮想通貨保管のセキュリティー対策が甘かったコインチェック社から、巨額の仮想通貨NEM(約580億円相当のXEM)が流出する「コインチェック事件」が起こりました。その後、金融庁は登録業者の認可条件を厳格化して監視・監督の目を強めています。みなし業者だけではなくすでに認可していた取引所に対しても、抜き打ちの「立ち入り検査」を実施して、「セキュリティー・顧客資産保護・マネーロンダリング防止」などに関する業務改善命令を出し始めました。3月8日には、比較的安心な大手取引所と認識されていたZaif(テックビューロ)やGMOコインにまで業務改善命令が出て驚かされましたが、この影響でZaifはウェブ上では好感度の高かった剛力彩芽さん出演のCM放送を取りやめています。
コインチェック事件前には16社あったみなし業者は、金融庁の監督強化によって10社が「登録要件を満たせない」等で諦めて撤退しています。FSHOが登録を拒否されたことで、現在残っているみなし業者は「コインチェック・バイクリメンツ・みんなのビットコイン・LastRoots」の4社のみです。規制強化で仮想通貨業者の淘汰的な再編劇が進んでいる状況の中、SBIホールディングスの完全子会社SBIバーチャル・カレンシーズが、仮想通貨販売所の「VCTRADE」を6月4日に開設しました。ネット証券最大手のSBI証券を抱えるSBIホールディングスは、カリスマ的経営者として知られる北尾吉孝社長が率いる時価総額約6,600億円の巨大企業であり、約426万もの証券口座(預かり資産12兆8千億円)をすでに保有しています。
仮想通貨事業でナンバー1を目指す北尾吉孝社長の主張と顧客至上主義:SBIの経営戦略は「デジタル資産のエコシステム+スプレッド革命」
SBIホールディングスの北尾吉孝社長は、ソフトバンクの孫正義社長からスカウトされて常務取締役を務め、SBIでは「ネット証券・ネット銀行などの金融関連の主軸事業」を飛躍的に成長拡大させた圧倒的な実績を持っています。その北尾社長が「仮想通貨・ブロックチェーンのグローバルな将来価値」を認めて、「デジタル資産のエコシステム(仮想通貨事業に関して何でもやる自社完結的な循環システム)」を構築するというビジネスモデルを提示しました。北尾社長は「仮想通貨事業でナンバー1になる」と豪語しますが、SBIは「仮想通貨のマイニングと交換事業・ICO(新規仮想通貨公開)・仮想通貨のヘッジファンド・ブロックチェーン活用のeコマース」まで幅広く手がける戦略的なエコシステムを構想しているのです。
北尾社長が特に強調しているのは顧客至上主義を前提とした「スプレッド革命」で、他の取引所はスプレッドで儲けられなくなるから、「取引所の淘汰的な再編が進む」という見通しも語っています。「SBI証券の手数料値下げ・SBI銀行の預金金利引き上げ」のような顧客のメリットになる「仮想通貨売買のスプレッド(買値と売値の差額の手数料)の値下げ」を行ってくれるというのは、投資家にとって歓迎すべき事業戦略でしょう。ビットコインキャッシュ(BCH)をはじめとするマイニング(採掘)にも力を入れ、将来的に3ヶ所までマイニング拠点を増やす予定になっています。SBIは「マイニングによる玉(仮想通貨の現物)を持つ交換業者の強み」と「既存の証券・銀行・FXの顧客基盤(合計400~500万人以上)によるシナジー効果」に期待できるため、顧客獲得競争で優位に立ってくる可能性があるのです。
SBIバーチャル・カレンシーズが運営する「VCTRADE」の特徴について:SBIはリップル社・XRPとの関係が深い
6月4日に、SBIホールディングス傘下のSBIバーチャル・カレンシーズ(SBIVC)が、仮想通貨の販売所「VCTRADE」を開設しました。現時点では事前審査・本人確認を終えた一部の顧客(約2万人)だけしかトレードできませんが、一般の口座開設も2018年7月中にはできるようになる予定です。SBIの北尾吉孝社長は早くから、リップル社の国際送金システム(RippleNet)やリップル(XRP)のブリッジ通貨としての可能性に注目しており、SBIはリップル社の発行株式の約11%を保有する大株主になっています。2016年5月の段階で「SBI Ripple Asia」を設立しています。SBIとリップル社の資本提携に基づく深い関係やすでに大量のXRPを保有していることもあって、最初に取扱いを始めた仮想通貨は「リップル(XRP)」でした。
SBIは「リップル(XRP,6月4日)→ビットコインキャッシュ(BCH,6月11日)→ビットコイン(BTC,6月18日)」の順番で取り扱いを決めています。イーサリアム(ETH)も将来的には扱う可能性がありますが、北尾社長は金融庁が難色を示すXMRやDASHなどの匿名仮想通貨は一切取り扱わない方針を明確にしています。スプレッド革命で業界最低水準のスプレッドを目指すとしていますが、現時点のXRPのスプレッドは2~3円で圧倒的に安い水準にはないようです。VCTRADEの取引時間は午前7時〜翌日午前6時までで取引手数料は無料ですが出金手数料はかかります。SBIVCで注意すべき特徴としては、現時点では「仮想通貨(XRP・BCH・BTC)の外部ウォレットとの入出金」はできないという事があります。
コインチェックが匿名仮想通貨の取扱いを廃止:日本の取引所の勢力図の変化と個人投資家の選択
マネックスグループに買収されたコインチェックは、勝屋敏彦社長に代わった新体制の下で「取扱仮想通貨の事業再開+金融庁の登録認可」を目指していますが、金融庁が認めない匿名仮想通貨4種類の廃止を行いました。コインチェックが6月18日に取扱いを廃止したのは、「モネロ(XMR)・オーガー(REP)・ダッシュ(DASH)・ジーキャッシュ(ZEC)」の4種類の匿名仮想通貨です。匿名通貨とは匿名化アルゴリズム(CryptoNight)など暗号化技術によって、「送金者・送金先を特定できないようにした仮想通貨」で、「個人の自由の最大化・完全なプライバシー保護・非中央集権的かつ自律分散的(中央管理者に監視されない)」という仮想通貨の理念を実装する革新的なコインとして注目されてきました。しかし、金融庁は匿名通貨は「マネーロンダリング・脱税・テロ資金供与のリスク」につながるとして認可しない方針を強めているので、金融庁に登録認可してもらうためにコインチェックは4種類の仮想通貨の取扱いを廃止せざるを得なかったと言えます。
金融庁の監督強化とSBIVCの新規参入によって、取引所の再編による勢力図の塗り替えが進みそうな雲行きになってきました。みなし業者4社のうちでもっとも認可の可能性が高いのは、流出事件を起こしたとはいえ顧客基盤と実績があるコインチェックでしょう。コインチェックは匿名通貨を廃止してもなお、国内では取扱仮想通貨の種類と顧客数が多いので、個人投資家の中にも「すべての取扱仮想通貨の売買再開」に期待する声は多いのです。
現時点では、bitFryerやGMOコイン、Zaifなどがまだ人気がありますが、SBIVCのVCTRADEの取扱仮想通貨の数が増え、スプレッド縮小やレバレッジ取引などのサービスも充実してきたら、個人投資家の取引所の選択が変わってくる可能性もあります。SBIVCはコインチェック事件を教訓にして、「セコムトラストシステムズ」と提携してコールドウォレット(オフライン)による仮想通貨管理と顧客資産の分別管理を徹底してセキュリティー対策に力を入れているので、仮想通貨をデジタル資産として安全に保有したい人にも向いているでしょう。