2017年に高騰し年末には200万円を超えた仮想通貨のビットコインが、1月6日に60万円台になり、仮想通貨保有者の間で動揺がおきました。仮想通貨の今後に不安を持つ人と、現状を冷静判断しようとする人の間で、様々な考察が飛び交っています。
仮想通貨のバブル崩壊の向こうに、新しい仮想通貨の市場を見る人がいます。彼らは、暗号通貨とブロックチェーンはまだ未熟で、過渡期の段階であることを認めながら、このバブル崩壊をポジティブに捉えて、仮想通貨の次のフェーズを見極めたいと考えています。
仮想通貨のバブル崩壊の背景を振り返りながら、仮想通貨を取り巻く事情と国や企業の動き、問題点と今後の展望についての考察を述べます。
仮想通貨の不安要素
通貨の信頼性に疑問を持つ背景には、仮想通貨は需要と供給のバランスで価値が決められますが、円やドルのように、その背景に株や国債、不動産などの資産がなく、価格を管理統制する大蔵省や日銀といった組織がないという点です。
取引所のセキュリティー対策の甘さにも不安要素があります。2018年1月のコインチャックのネム流出事件のような資産の喪失は、仮想通貨全体の信用と取引に影響します。莫大な資金が動くところは当然ハッカーなどの攻撃対象となるため、どれだけ秘密鍵のシステムを作ってもセキュリティーの歪みを狙う、イタチごっこが繰り広げられます。
また、仮想通貨は金融市場と連動し、経済事情の影響を大きく受けます。戦争やテロ、災害による株価の下落、大手企業の破綻などで市場が動くときに、仮想通貨も価格暴落のリスクにさらされます。不動産のような資産の裏付けがないため、市場の気配で価格がいくらでも転がる不安定さがあり、損切りかホールドか買い増しかのタイミングの見極めが非常に難しいです。
仮想通貨には価格の過度な変動を制御できないことがあります。ブロックチェーンは暗号通貨の価値を確定するのに莫大な計算を必要としますが、取引が大量になった場合、その処理に対応できず、取引所のサーバーがダウンして機能しなくなる問題があります。その間も価格は暴落し続け、さらに売りが殺到し、悪循環を繰り返しているうちにマーケット自体が機能不全に陥ってしまいます。
投資家が混乱し、市民が多額の負債を抱えることになれば、国家や金融機関、大手企業からの規制がかかります。これらのリスクも念頭に、ブロックチェーンの技術と暗号通貨が、新たな規制の中でどう発展してゆくことができるのかを見極めることが必要で、一般の投資家や取引所などの起業家は、今重大な岐路に立たされていると言えます。
海外と日本の仮想通貨への対応
英国では、顧客を過剰な投資による負債から保護するために、大手銀行のロイズは、クレジットカードで仮想通貨を購入することを禁止しました。中国は国内での仮想通貨取引を禁止し、アラブでは仮想通貨を全面禁止し、韓国も厳しい規制をかけています。
一方、日本は、仮想通貨の取引所を登録制にして、管理する方向にあります。日本政府は、仮想通貨での利益に課税する方針を固め、財務省は仮想通貨で稼いだ所得を「雑所得」として「給与所得」に加算して「総合課税」することで、仮想通貨の高騰で生まれた利益から税収を得ることを考えています。そのため、納税知識を持たずに使い切ってしまった場合、多額の税金を支払えない人が出てきています。
また、日銀や大手金融機関が仮想通貨を発行するようになると、多くのアルトコインは信用を確保することが難しくなり破綻する可能性があります。今後、財務省や日銀の動きで、仮想通貨の市場は大きく左右されることになります。
現在では、インターネット関連の大手 Google, Bing, Facebook, Twitter, Yahooは仮想通貨関連広告を載せない方向で動いています。ユーザーが「仮想通貨は儲かる」という広告にあおられ、「ICO(資金調達して仮想通貨発行する)への参加募集」などで多発している詐欺に巻き込まれることから守ろうとする動きがあります。
仮想通貨のコンセプトと国家
仮想通貨は、自国の政権や通貨への信頼が極めて低い、ロシア、中国、東欧から急速に広がりました。国家権力が長期政権となれば、当然のことながら腐敗がおきます。国家君主の一言で自身の財産価値が左右され、IDで個人の資産や消費活動まで管理されます。そのなかで自己保全から、仮想通貨というコンセプトが生まれ、そして、中国は積極的にマイニングを行い、仮想通貨を底辺で支えてきました。
実際に、金、銀、銅が主軸通貨として取引されるようになるまでは、長い歴史がありました。暗号通貨はまだ始まったばかりで、現在その急成長に体制の整備が追いつかない状況です。しかし世界情勢が不安定になればなるほど、国家権力には左右されない、新しい確かな価値観を求める動きは高まります。より確実は価値観に基づく通貨を作ろうとする流れの中で、仮想通貨が将来社会を根本的に変えてゆく可能性を持ち続けているという点は、その誕生から今も変わりません。
バブル崩壊の背景
2017年の仮想通貨の高騰は、ネットの「儲かる」といううたい文句にあおられた若者を中心に、空前の仮想通貨ブームを引き起こしました。皆がこのブームに乗り遅れまいと、仮想通貨を買う連鎖が広がり、需要と供給の関係で、仮想通貨の価格は急騰しました。
仮想通貨のバブル崩壊で、今後は、本当に価値のあるものが生き残る段階に入ってきています。より優れたコンセプトを持ち、より管理統制のとれた、より優れた組織や団体の暗号通貨を人々は買い求めるようになります。通貨の信用を確認し、それに新しい価値を与えようとするブロックチェーンのシステムは、今でも多くの技術者と起業家に注目されています。
また、仮想通貨のバブル崩壊は、粗悪な通貨や悪質な事業者が淘汰されることで、信頼できるプレーヤーが残り、この浄化作用は、長期的には仮想通貨の健全な市場育成にもなります。一般投資家もこの価格急落により、より慎重に市場を見て動くようになり、取引所のセキュリティーの度合いも高まります。
ネット社会のマネー市場
ネット社会が巻き戻されて、過去のアナログ世界に戻ることがもう既に考えられないように、電子マネーが消滅し、ハードカレンシーの時代に戻ることは考えられません。通貨と電子マネーの関係は、既に、暗号通貨が誕生する前の段階に引き戻されるとは考えられないのです。
インターネットの普及とともに、プログラムのアプリケーションは進化し続け、UI(ユーザーインターフェース)が改良されれば、UX(ユーザー・エクスペリエンス)は次のマーケットを作り出します。仮想通貨のアプリや、マイニングソフトが、さらに改良されてより使いやすくなれば、新しい利殖を求める人々の需要で、新たなマネー市場が必要となってきます。
大手企業と新しい資金の流れ
書籍の電子書籍化やゲーム界のスマホ化であったり、株や不動産の新しいマーケティング・システムであったり、携帯の普及によるニュース配信や広告媒体の変化であったり、消費者のネット化の流れは加速しています。新たなアイディアを迅速にネットで拡散し、起業家たちは失敗と修正を繰り返しながらシステムを構築し、社会のあらゆる分野は、もはや逆戻りすることは考えられないフェーズに直面しています。
今までの大手代理店発進だった広告の世界は、youtubeやブログの出現で、国民総クリエーターとなり、ピコ太郎のような現象が身近で起こりうる社会になってきました。通貨の世界でも、暗号通貨とブロックチェーンの技術は、通貨を国家権力の支配から自律させ、非中央集権的な発想で、新しい通貨を生み出してきました。仮想通貨は本来、クリエイティブな発想とその将来性に価値を見出し、それを支援するという新しい価値観に基づいた通貨です。
実際に今まで、米国のGAFA(グーグル、アマゾン、Facebook、アップル)や中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)やTMD(頭条、美団、滴滴)は、その価値観をポイント制やクーポンなどに置き換え、新たな資金の流れを作り、国家の中央集権の枠から飛す勢いで成長し続けてきました。
自分のライフスタイルを自分で選ぶように、自分の資産を自らコントロールしたいという人々の要求は、今後さらに新しい金融市場を生み出してゆくでしょう。仮想通貨のバブル崩壊で市場は淘汰され、世界の通貨に対する価値観は、新しい段階へとまた一歩踏み出したと言えます。
今回の仮想通貨のバブルの崩壊で、損失を出した人たちは、ネットやテレビに踊らされ、一番高い時点で購入し、損きりのために一番安い時点で売却している人たちです。波にいち早く乗った人たちは、プラマイゼロといったところかもしれません。覆水は盆に帰らずで、今更失敗を嘆いても仕方ありません。今私たちに求められているのは、暗号通貨のコンセプトと、ブロックチェーン技術の将来性を考え、いち早く次の波にどう乗るかではないでしょうか。