トム・リーによるビットコイン(BTC)の2018年末の強気の価格予想:マイニングコストと拮抗するBTC価格

6月末に65万円前後にまで大幅下落したビットコイン(BTC)価格ですが、7月に入ってから70万円を越える価格まで持ち直しの動きを見せてきました。5~6月にかけてBTC価格が20%以上も急落した要因として考えられるのは、「日本の金融庁の仮想通貨交換業者に対する監督強化+bitFlyerやZaifなど大手取引所に対する業務改善命令の連発+BTCの約28%を寡占するクジラの売り圧力+海外取引所の日本人ユーザーの締め出し+韓国取引所のハッキング被害」などです。

これらの悪要因で、ビットコインなどの仮想通貨売買を仲介する取引所(仮想通貨交換業者)の信用力が低下して、一般の個人投資家の新規参入・資金流入(買い圧力)が落ち込み、取引量自体が減少していることもBTC下落を煽っています。BTC価格がこのままズルズル後退するのではという悲観的な見方もある一方で、ニューヨークの調査会社ファンドストラットのトム・リー代表は、BTC価格が2018年末までに最低でも約2万2千ドル(約240万円前後)にまで高騰するという強気な予測を示しています。

当初の2万5千ドルから予測を下方修正してはいますが、それでも約240万円は現在の約70万円のBTC価格の「3倍以上の価格」で相当に強気の予測です。トム・リー氏はビットコインの過去の値動きの分析から「BTC価格はマイニングコストの平均2.5倍になること」と「6ヶ月スパンの区切りでBTCは約35%の確率で3倍になっていること」を価格予測の根拠として上げています。現在の1BTCのマイニングコストは約7,000ドル、ディフィカルティー(採掘難易度)上昇で年末には約9,000ドルになるので、その約2.5倍の価格まではBTC価格が上昇すると読んでいるわけです。

ビットコインの価値上昇にはお金としての流通が必要:現時点でBTCはお金としては殆ど使われていない

ビットコインはサトシ・ナカモトによって仮想通貨として考案されたものであり、未来のビットコインの理想的なあるべき姿は「仮想通貨(インターネット上のお金)として流通している状態」です。仮想通貨(デジタルなお金)として一般社会に流通している状態とは、誰もがスマホのアプリなどを利用することで、ビットコインを決済手段にして買い物・飲食・サービス購入ができる状態のことを言います。

ビットコインの理想的な流通状態とは、現時点のクレジットカードや電子マネーのような位置づけになって、「コンビニ・スーパー・飲食店」などでスムーズに短時間で決済できる状態のことですが、現時点ではBTCはデジタルなお金としては殆ど機能していません。BTCを保有している人でも9割以上の人は、「投機・投資の目的」で保有しているだけで、実際にネット通販や店舗での買い物に使用した経験はないのです。

日本円・米ドルの法定通貨を典型とするお金には、「価値の交換(決済)・価値の蓄積(貯蔵)・価値の尺度(物差し)」の3つの機能があるとされています。ビットコイン(BTC)は数字を改ざんできないブロックチェーンの仕様とセキュリティーによって、「お金の3機能」を満たすことで「未来のお金になれるという期待」もあって価格を急騰させてきました。しかし、今のビットコイン価値の中心は、「マイニングコスト・消費電力+仮想通貨市場の需要(人気)+未来のお金への期待」が作り出すデジタル資産(デジタルゴールド)としての価値に留まっていて、決済手段として流通する「未来のお金」になれるのかは不透明な部分が多いのです。

現状のビットコインはなぜ「お金の3機能」を満たしづらいのか?:ビットコインのボラティリティーの問題

ビットコインとお金の3機能を照らし合わせて分析することで、「未来のお金としてのビットコインの可能性の高低」が見えてきます。お金として通用するための大前提は「お金自体には使用価値があってはならない(飲食物や家電製品のように消費する使用価値があってはならない)」ですが、仮想通貨のビットコインは法定通貨・ゴールドと同じくそれ自体には何の使用価値もありません。

お金は、ある商品やサービスがみんなにとってどれくらいの妥当な価値があるのかを計測する尺度(物差し)としての機能がありますが、ビットコインが「お金の尺度」として機能するには「ボラティリティー(価格変動率)の大きさ」が障害になります。

ビットコインが、お金にとって最も重要な機能である「交換(決済)の機能」を満たしにくい要因も、このボラティリティーの大きさにあるのですが、市場原理(需給原理)によって価格が大きく変動するBTCの性質は「投機・投資の目的」にはプラスになることも多いのです。しかし、1BTCが昨年10万円台から230万円台まで急上昇したようなボラティリティーは、価格が上昇するデフレ通貨の特徴のために、逆に「交換・決済の手段として使う動機」を無くしてしまいます。価格が少しずつ上がるデフレ通貨は、交換ですぐに使用するよりも、長く保有し続けた方が得だと合理的に判断されるからです。

ビットコイン価格の安定を巡る個人投資家の葛藤:BTCの上昇トレンドでBTC保有者と決済可能なお店を増やせるか

ビットコイン等が「未来のお金」になるためのハードル2017年後半にデフレ通貨として価値を上昇させたBTCも、1月26日に「コインチェック事件」が発生してからは、右肩下がりのチャートになって価値を減少させ、1BTC価格は230万円超から65~75万円のレンジにまで下がってきました。BTC価格が上昇を続けると保有して溜め込むなら、BTC価格が下落すれば手放して交換するので、「お金の交換(決済)の機能」を満たしやすくなるのではという短絡的な見方もありますが、そうではありません。

現時点ではBTC決済を受け付ける店舗・ECサイトが圧倒的に少ないため、BTC価値下落は「交換(決済)の量」を増やすことはなく、「投資市場での売り(ショートポジション)」を増やすだけになるからです。ビットコインは上昇しても下落してもボラティリティーが大きすぎると、「未来のお金」としての流通を妨げることになるのですが、BTC上昇の勢いが止まれば個人投資家のお金の流入が止まるという難しい葛藤もあります。

BTCが未来のお金として十分に普及するには、1BTC=200万円台を大幅に突破する上昇トレンドを維持しながら、今よりも大勢の人に「ビットコインを保有したい・BTCを保有して決済した方が得をする」という需要を喚起していく必要があります。BTCが未来のお金として流通するためのハードルは高く、「盗難されないセキュリティー+直感的に使いやすい決済アプリ(スマホをかざすだけで安全に決済できるアプリ)+クレジットカード並みの送金処理件数の能力」の問題もあります。

「デフレ通貨」のビットコインの価値が高まる未来はあり得る:鍵は大勢の購入・使用による自生的信認を構築できるか?

BTCが未来のお金になるために最も重要なのは、「BTCの価値と需要・送金処理能力を高め続けながら、BTC保有者と決済可能な場所を増やす」ことです。現時点では、法定通貨並みにあらゆるお店やサービスで交換価値を持つ仮想通貨になることは、ビットコイン(BTC)にもイーサリアム(ETH)、リップル(XRP)にも難しいのですが、中期的な可能性としては「インターネット内部で汎用性のある通貨(お金)になれる可能性」はあるでしょう。例えば、Amazonや楽天、ZOZOタウンなど大手ECサイトの決済手段としてビットコインなどが利用可能になるだけでも、ビットコイン普及率は急速に上昇して価格も上がりやすくなります。

仮想通貨にはビットコインのような法定通貨に近い「通貨(お金)」を目指すものもありますが、それ以上に特定のプロジェクト・事業体(ウェブ上の活動主体)の資金を調達する「ICO(新規仮想通貨公開)のトークン=代替貨幣」として発行されたものが多くなっています。その意味では大部分の仮想通貨の未来として想定できるのは、インターネットを介してプロジェクト(個別ビジネス)やクリエイター(個人)を支援したり寄付したりするトークン(部分的な代替貨幣)としての流通かもしれません。

ビットコインの考案者であるサトシ・ナカモトは、2008年のリーマンショックで有価証券と通貨の価値が暴落した経験によって、政府・中央銀行が中央集権的に管理する法定通貨の信用を疑い、法定通貨以上に信用できる非中央集権的なP2Pネットワークで管理される新しいお金(通貨)を創り出そうとしました。

法定通貨(実物資産と紐づかない不換紙幣)は、金融緩和の政策次第で供給量を無制限に増やせる「インフレ通貨」として価値下落の宿命を背負っています。ビットコインは供給量があらかじめプログラムで決められていて、景気・物価・株価と連動することなく「約2,100万BTCの発行枚数上限」を超えることがない「デフレ通貨」としての特徴を持っています。

BTCは人々の需要と使用がある限り、「価値の維持・上昇」を続けやすい有限発行枚数のデフレ通貨なのです。ブロックチェーンの非中央集権的ネットワーク(=自由な人々の需給)による自生的信認と自律分散的秩序が構築され拡大していくことが、ビットコインが「未来のお金」に進化するための前提条件になるでしょう。