マネーロンダリング対策などの国際協力を行う組織である「FATF(ファトフ)」が、仮想通貨業の規制について、拘束力がない「ガイダンス(指針)」から、加盟国が守る義務が生じる「スタンダード(拘束的基準)」という扱いに引き上げることを検討しているという情報が流れました。今後のFATFの定例会合で、どのような規制にするかを議論し、遅くとも2019年中には各国でその規制が実施される見通しであるということです。このFATFによる規制の決定が、市場において、どのような意味を持っていくのかということを考えていきましょう。
日本はFATFのガイダンスに従って、仮想通貨交換業の登録制を導入
FATFは、2015年6月の段階で、取引所に関する規制のガイドラインを発表しています。それによると、取引所の登録制やライセンス制の導入、マネーロンダリング防止のための本人確認、また、疑わしい取引を届け出たり、記録を提出できるように、取引記録の保存を義務づける内容となっており、FATFは何年も前からこのような規制の指針を発表していたことになります。そして、日本が、世界で最初に、このFATFの規制のガイダンスに従って取引所の登録制を導入したということになります。
日本では、2017年4月に仮想通貨法が制定され、「仮想通貨は法定通貨と交換可能なデジタル通貨であり、決済において利用できる」ということが明確にされました。また、その後、日本は、2015年にFATFが発表した規制のガイダンスに従って、各国に先駆けて「仮想通貨交換業の登録制」を実施しており、2018年6月の時点では、16社の営業が認められています。今後は、FATFの加盟国において仮想通貨を扱う場合は、取引所を登録制にしたり、マネーロンダリング防止のための本人確認の実施など、日本と同じような規制が行われるのではと考えられています。
仮想通貨の規制で話題にのぼる「FATF(ファトフ)」とは?
FATFとは、「Financial Action Task Force on Money Laundering」の略称で、日本語では「金融活動作業部会」とあらわされます。このFATFは、マネーロンダリング対策を各国で協調して行っていくための政府間会合として設置されました。2001年9月に起こった、米国同時多発テロ事件が発生して以来、テロ資金供与に対する対策や、各国の協力の推進という点でも、このFATFは指導的な役割を果たしています。
仮想通貨は、匿名性があるものもあり、また、世界中どこへでも、簡単な操作で送金することができます。送金スピードも速く、リップルでは数秒から数分、ビットコインでは約10分です。このように、送金のスピードが速く、また、匿名コインと呼ばれる通貨では、送り手や受取主が誰かがわからないようになっていることから、マネーロンダリングに悪用される危険性が高いとされています。北朝鮮も、取引所をハッキングしてビットコインなどの通貨を入手することで、外貨を獲得していたともいわれており、今後、仮想通貨が発展していくためには、このような悪用を防ぐ規制が必要であると考えられています。
FATFの加盟国は、OECD加盟国を中心に、35か国と地域及び2つの国際機関
FATFの加盟国は、アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、中国、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、香港、アイスランド、インド、アイルランド、イタリア、日本、ルクセンブルク、マレーシア、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポルトガル、ロシア、シンガポール、南アフリカ、韓国、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国と、欧州委員会(EC)、湾岸協力理事会(GCC)からなります。
FATFで仮想通貨の規制に関して議論されるということは、将来上記の国において、仮想通貨の取引が、適切な規制のもとに行われるかもしれないということを表していますので、どのような国がFATFに加盟しているのかということは、頭に入れておいた方が良いでしょう。
今後、ブロックチェーン技術に力を入れていくと明言している中国も、FATFの加盟国に入っています。また、仮想通貨取引が一旦違法であると判断され、その是非について裁判となっているインドもFATFに加盟しています。逆に、日本と同じアジアの国であるタイやフィリピン、インドネシアはFATFに加盟していません。
湾岸協力理事会(GCC)には、サウジアラビア,アラブ首長国連邦(UAE),バーレーン,オマーン,カタール,クウェートが加盟しており、規制を定めれば、その規制の効力は主な産油国にも及ぶということになります。
闇の犯罪組織はビットコインなどの仮想通貨を悪用しており、規制は必要
FATFが仮想通貨に関しての規制を検討するのは、実際に犯罪組織の送金に、ビットコイン、モネロなどの通貨が利用されていると考えられているからです。2018年の2月には、闇サイト運営に携わっているとされる、国際的犯罪組織である「Infraud」の幹部がタイ警察に逮捕されました。その時、保有していたパソコンから、10万ビットコインが押収されたということです。これは、当時の時価総額では、1000億円近くにもなる、莫大な額です。
また、2013年にはアメリカの闇取引サイトである「シルクロード」が摘発され、この時には、14万ビットコインが押収されています。このように、闇取引にはビットコインやモネロなどが使われてきたという歴史があり、世界中どこへでも、簡単に送金できるという特徴が悪用されている形となっています。今後、社会の中で健全な形でこれらの通貨が使われていくには、このマネーロンダリングを防止するためのFATFの規制が必要だという認識で、各国が合意しています。
FATFの規制が適切に行われることが、仮想通貨市場の健全化につながると考えられている
今回、今までFATFの「ガイダンス」であった規制が、より強制力が高く、FATF加盟国の義務となる「スタンダード」になった背景には、2018年3月に行われたG20において、仮想通貨の規制に対する議論が行われたことが挙げられます。G20で仮想通貨に対する規制についての議論がなされ、その後、FATFに「加盟国への強制力がある規制」を検討するようにという要請があったのです。
今回のG20では、仮想通貨の禁止などを含む、厳しいものになるのではという警戒感から、G20前にビットコインが売られ、市場が下落したのですが、実際は、前向きな規制に関する議論でした。G20の議論の場では、異例の15分延長がなされたとのことで、世界における仮想通貨への関心の高さがうかがえます。
今までのG20において、市場関係者が心配していたのは「仮想通貨が禁止されてしまわないか」という点でした。なぜならば、仮想通貨は、既存の法定通貨と相反する部分があり、ともすると、法定通貨を脅かすものとして、禁止される恐れがあったからです。
それを表している例として、2017年9月に行われた、中国政府によるビットコイン取引の禁止が挙げられます。中国では、経済が発展するとともに、億万長者が多く生まれました。彼らは外国とビジネスをしている人が多く、また、子供をアメリカやヨーロッパに留学させるなど、海外のことをよく知り、海外の資本主義についてよく理解している人達です。中国は、中国政府がすべてを管理している国であり、命令一つで自分達の資産が没収される可能性すらあるので、資産家たちは自分達の資産を外貨に換えたり、海外へ移したいと考えました。そこで利用されたのがビットコインです。中国元でビットコインを買って、そのビットコインを米ドルなどの外貨に換えたり、購入したビットコインをタックスヘイブンの国にある口座に送ったりして、自分達の資産を海外に移し始めました。
このような状況が続くと、中国元が軽視されたり、中国国内の資産が海外に流れてしまうということで、政府によるビットコインの禁止という流れになったのです。しかし、今回は、G20では仮想通貨自体に対する否定的な見解は見られなかったということで、各国の政府が「仮想通貨禁止」に動く可能性は、非常に低くなったと言えます。仮想通貨市場にとってみると、非常に明るい、前向きな規制の議論が行われたと言えるでしょう。
G20は2018年7月にも予定されており、仮想通貨国際会議の開催も予定されています。FATFによる適切な規制が実施されれば、マネーロンダリングの懸念も少なくなり、機関投資家なども市場に参入しやすくなります。FATFによる規制は仮想通貨市場にとっては好材料ですので、今後のFATF規制案がどのようなものになるのか、注視していきましょう。